秋山殿関連…かどうかはわからない個人的備忘録

徒然なるままにアレコレ記念その5。 僕のじいちゃんの話(時々優花里さん) ※史実を下敷きにしたフィクションに近いなにか。そして申し訳程度の優花里さん要素。
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ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

僕が優花里さんと最初に会ったのは、僕の実家。じいちゃんが始めて、父が引き継いだ床屋だった。

2015-07-29 13:50:09
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

じいちゃんは僕が物心ついてすぐに亡くなっていた。散歩が好きな人だったらしいが、僕の記憶の中にあるのは、床屋の二階の自室で、パラマウントベッドによこたわって、微笑みとともにこちらを見ている姿だけである。 そして、優花里さんはじいちゃんにあったことはなかった。

2015-07-29 13:50:18
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

優花里さんがうちにくる頃にはにはすでにじいちゃんは亡くなっていて、仏壇の写真と、大事にしていた熱帯魚の水槽と、裏庭の木々と池が、店に残るじいちゃんの面影だった。ばあちゃんはというと、口も体もまだ元気だった。

2015-07-29 13:50:29
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

優花里さんはじいちゃんのことをよく知らない。うちの床屋を開いた人で、若いころ苦労をしたということしか知らない。何を隠そう、僕自身もそうだった。でも、じいちゃんがいなければ僕たちが出逢うことはなかったし、僕に至ってはそもそもこの世に産まれてくることすらなかっただろう。

2015-07-29 13:50:40
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

だから、じいちゃんのことを調べてみた。(というよりは、父に聴いてみただけだけれど。) どうして理容師になったのか。なぜそこに建てたのか。それまで何をしていたのか。そういうところを、備忘録がてらのこしていこうと思う。

2015-07-29 13:50:46
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

じいちゃんが生まれたのはだいぶ昔、大正も初めのころだった。第一次大戦まっただ中のことである。

2015-07-29 13:50:52
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

ショートショートで有名な作家の実父と共に、とある会社を創業した男。それがじいちゃんの父親で、母親はその愛人だった。いわゆる婚外子というやつである。

2015-07-29 13:51:35
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

じいちゃんは芝白金で生まれ、その後は母親と二人、本郷菊坂で暮らしていた。道端にゴザを広げ、古本などを並べ、それを売って日銭を稼いでいたらしい。関東大震災に被災したのもこの時である。「すずめが空から落ちてきた。」じいちゃんはこの時の様子をそう語っていたらしい。

2015-07-29 13:51:52
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

幼少時から苦労は絶えず、そうして日々を生き延びて尋常小学校を卒業すると、じいちゃんはすぐに働きに出た。母親はそのころ亡くなってしまったらしい。姉が一人いるも行方は知れず、じいちゃんは15にも満たぬころには一人ぼっちになってしまった。

2015-07-29 15:20:58
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

生きていくために色々なことをやった。服屋、床屋、工場、物売り…父が聞いていた限りではこのぐらいだが、おそらくもっと多くの仕事を経験していただろう。悪い道に進もうと思えば進めてしまうような環境の中で、腐らず頑張って生きてきたじいちゃんを、僕はとても誇りに思う。

2015-07-29 13:52:49
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

じいちゃんの苦労話にこんなのがある。 服屋で丁稚をしていた時のこと。その服屋は京都の出の者が営んでおり、じいちゃん含めた丁稚連中の食事は当然おかゆだった。器一杯の粥に、一切れの鮭。が、一切れと言っても一人分ではない。全員で一切れである。それをみんなでわけあって食べる。

2015-07-29 13:53:39
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

じいちゃんより先に入っていた先輩の一人は、脚気で死んだ。仕事も主人も厳しく、メシも無い。「このままここにいたら死ぬ」と考えるも、そうやすやすと帰らせてはくれない。「逃げよう」と思い立ったじいちゃんは私物をかばんに背負い、夜半にこっそりと逃げ出そうとした。

2015-07-29 13:53:47
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

…が、いざ立ち上がろうとしてもなかなか立ち上がれない。荷物がやけに重い。ふと後ろを見ると、鬼の形相をした主人が荷物を押さえつけていた。失敗である。その時はなんとか取り繕い、お叱りをうけるだけで済んだが、依然暮らしが良くなるわけもなく。 そこでじいちゃんは一計を案じる。

2015-07-29 13:53:59
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

荷物を小分けにし、外の友人の家に置かせてもらい、着の身着のままで逃げ出した。こんどこそ成功である。逃げ出したことの是非はあろうが、ここで逃げなければ栄養失調にかかり、最悪死んでいただろう。だから、じいちゃんの判断は間違っていなかったと思う。

2015-07-29 13:54:24
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

こんな話もある。命からがら逃げおおせたじいちゃんは、今度はビリヤード台を作る工場(こうば)に入った。仕事もなんとかやれてはいたが、周りを見れば年寄りしかいない。若いのは自分一人である。またもじいちゃんは考える。「この分じゃあ先がない」と。ここでもじいちゃんは仕事を辞めた。

2015-07-29 13:54:45
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

逃げ出したり、辞めたり、潰れたり…そんな風に仕事を点々としながら、ある時急に「やはりこのままじゃダメだ。」と思いなおしたじいちゃん。ついに手に職をつけることを決心する。時勢に関係なく必要とされるような職につきたいと思ったじいちゃんは、前にやった仕事の一つである床屋を思い浮かべた。

2015-07-29 13:54:52
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

一朝一夕でなれるものではなかったが、紆余曲折を経てとある店への入店を果たす。店の名は莊司。当時東京駅地下にも店を構えていた超一流店である。

2015-07-29 13:55:09
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

全国に支店をもつその店には、天皇皇后両陛下を除く皇族の方々や総理大臣を始めとする政治家など、日本の中枢に位置するような身分の人々が訪れていた。また、他にも大物と呼ばれる人々も数多く客として来ており、その格調の高さが伺える。「よくもまぁ、そんなとこに入れたもんだ。」とは、父の弁。

2015-07-29 13:55:17
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

兎にも角にも東京駅の店に入れたじいちゃんは、かつての床屋での経験を活かしながら修行に励んだ。失敗しておこられるようなこともあったが、やがてはお客さんの前にも立たせてもらえるようになった。店の中でも若かったじいちゃんは、タバコを吸うお客さんの為に灰皿をもつ仕事をもらっていた。

2015-07-29 13:55:22
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

話は変わるが、当時あのあたりは麹町区と呼ばれていた。未だ東京府と呼ばれていた時代である。その麹町区の内幸町には、大阪ビルというものが建っていた。その二階、211号室にとある出版社があった。文藝春秋社である。そしてこの会社を興したのが、大映社長も務めた作家・菊池寛その人である。

2015-07-29 13:55:28
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

菊池氏は散髪の折に、同じく大阪ビルにはいっていた莊司を使っていた。当時そこに入っていたじいちゃんは、ここで菊池氏と出会う。チェーンスモーカーだった菊池氏は、散髪中でもタバコをふかす。そこに灰皿をもって控えるじいちゃん。それが在りし日のじいちゃんと菊池寛の日常の光景だった。

2015-07-29 13:55:40
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

余談ではあるが、他のお客さんについても記しておこうと思う。

2015-07-29 13:55:57
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

当時菊池氏のいた文藝春秋社には多くの人が出入りをしていた。そこには(当時はまだ編集者であったが)喜劇役者の古川ロッパもいた。ロッパも菊池氏と同じく莊司を使っていたが、入店の際には大声で歌を歌いながら入ってくるため姿を見ずともわかったそうだ。なんとも愉快な話である。

2015-07-29 13:56:11
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

また、当時の田中義一内閣で鉄道大臣を務めていた小川平吉氏もまた、莊司の常連であった。いわゆる偉い人というのはその場でお金を払わず、じいちゃんのような小間使いが直接お金を貰いに行っていた。小川大臣もそれにもれず顔パスで店に来て、そのまま帰っていった。

2015-07-29 13:57:38
ガルちゃん @Garuchan_Kawaii

小川大臣は鉄道省の鉄道大臣であるので、その執務室も当然鉄道省内の一室かと思いきや、実は車両という形をとっていた。一両丸ごと執務車両としてあてがわれていたというから驚きである。小川大臣が来た際は、じいちゃんはその車両を探してお金を貰いに行っていたそうな。今では考えられない事である。

2015-07-29 13:57:44
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