強い朝潮ちゃん活動記録

yamoto @yamoto

そして、夜。 すべての感情を削り取った、能面のような顔をした朝潮が顔を出す。 来なかったら訪ねて行ったのだが、彼女は寮を巻き込みたくないらしい。 かちゃり、と音がした。 鍵を、かけたのだ。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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彼女はいつものように、いつもと同じ距離で敬礼をし。 朝潮に何かご用でしょうか、と言った。 直れ、と言い敬礼を説いた彼女の前にすっと、紙を差し出す。 そして、そのまま凍り付く。 それは彼女の思考を放棄させるに、十分なものだったようだ。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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表彰状　 駆逐艦　朝潮殿 あなたは新しく配属されたチームで今月一番がんばりました。 これからもがんばってチームを引っ張っていってください。 哨戒五斑一同＆基地司令官ヨリ #強い朝潮ちゃん活動記録

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手書きの賞状。今月のチーム内MVP賞である。 彼女に表向きで表彰できるほどの戦果はない。 だからこその非公式表彰。だからこその内緒の呼び出しである。 震える彼女を手招きし、勲章を授与する、と告げる。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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といってもたいしたものではない。彼女の所属したチームの一人から貰ったリボン、アクセサリ、そして余った所属隊バッチを組み合わせたものだ。 それを手渡し、おめでとうと言う。 手作りの非公式勲章を授与された彼女──朝潮は。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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泣き崩れながら。 初めての宝物のように、大事に賞状を抱きしめ。 泣きわめきながら、声にならないありがとうを言った。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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その日を契機に、朝潮が変化を見せた。 どこか影のある表情をし、時折背中を丸めていた彼女が。 今は胸を張り、気持ち大きな声で話すようになった。 その胸には非公式の勲章が輝いており、それは初々しさと共に周囲に微笑ましさと少しばかりの滑稽さを撒いた。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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だが、彼女は笑われてもそれを胸に飾ることはやめず、宝物で誇りです、と答える。そうして、追加で同じ勲章のためのバッチの請求が行われ、懐をちょっとばかり持って行くことになったが、拒否する理由などなかった。 結果、チーム内の手作り勲章が鎮守府内で流行った。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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時折失敗もあるが、彼女のチームは徐々に成果を上げているし、士気は向上した。朝潮は鎮守府内に大いに貢献していた。 だからこそ──話を切り出すべきだった。 着任後1月が経過し、再び彼女を夜に呼び出した。 今度はちゃんと、個人的な話がある、と言って。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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普通なら拒絶されて然るべきその言葉に、彼女は頷いた。 警戒の色はなく──そうして彼女は夜に姿を見せた。 今度はドアに鍵をかけていない。 胸にはあの勲章が輝いている。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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そして。 彼女に背を向けて、端的に話を切り出す。 ──君を正式にこの鎮守府の所属にしたい、と。 もしその気があるなら、机の上にある書類にサインしてくれ。 その言葉を受け、朝潮は。 止まった。 凍り付いた。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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沈黙が続く中で、再び話を続ける。 急な話で決めかねることだろう。 君に仲間が居るのは承知のことだ。 哨戒チームには1名の枠が丁度空いているので、君さえよければの話だ。 その言葉を聞くたび、ガラス窓に映る朝潮の瞳が揺れた。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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そして、言葉は尽きる。 10分か、1時間か。 朝潮との間に言葉はなく、ただ、朝潮はそこから一歩も動けないで居た。 目の前には、転属願いの書類と万年筆が一本。 そこに名前と識別番号を書けば、明後日には受理される。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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だが。 彼女はただ沈黙し。 立ち尽くすばかりであった。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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ふう、と息を吐き、彼女に向き直る。 すまない。話を急きすぎた。 派遣期間が終わるまでの間に、考えておいてくれ。 この件は内密にしておこう。 もし、転属したいならばいつでも相談してくれ。 そう言い、転属願をしまい込んだ。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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それでは、また明日。 そう言うと、彼女は退室した。 翌朝彼女は、寝不足の顔で朝練に顔を出した。 当然任務を取り上げ、睡眠と午後からの草むしりを任命した。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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それからしばらく彼女には不調が続いた。 小破が数回、中破が一回。 怪我こそなかったもののチームも心配していたし、その度に草むしりを命じた。 その時の精神状態は、手元にあるレポートを読めば、手に取るように分かった。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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ただ、その件はすぐに解決した。 チームそろって非番申請があった日のレポートに、こう書かれてる。 みんなありがとう──。 彼女はよいチームに恵まれたようである。 ほっと胸をなで下ろし、急な非番申請の穴埋めを工面した。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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そこから彼女は、元気を取り戻したらしい。 何かを忘れるように任務に没頭し、あるいはチームの友人と共に遊びに出た。 時々、夕刻に海の向こうを見て、何か考えてる様子が見受けられたが、声をかけることはなかった。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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また、手元のレポートには初期と比較にならないほど、情緒あふれるものが並んでいる。 曰く、チーム内でこういうアクセサリが流行ってる。 曰く、パジャマパーティで恋話に難儀した。 曰く、生まれて初めて遊園地に行った。 曰く、司令官の初恋は何時ですか。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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乾いた砂地に水を撒く行為に思えたが、しっかりそこに緑が育っている。 すでに私室となった客室の机に漫画と、小説と、そして音楽プレイヤーが置かれ、ゴミ箱にはお菓子の包みと、空になったペットボトルが入っていた。 それに首をかしげると赤面し朝潮が答えた。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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昨晩ここでパジャマパーティが開催されたらしい。 なるほど、道理で複数の飲み物のボトルがあり、彼女が食べたと思えない菓子があったわけだ。 広いから別にかまわないし、プライベートには首を突っ込まない。 そう言いながら、机に貼ってある写真を見、慌てられた。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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大切な思い出になるだろう、彼女の笑顔がある写真だ。 今度、アルバムを買ってきてあげるから、大事にしなさいと言う。 彼女はそれを、楽しみにします、と答えた。 成長した、と実感する。 彼女は、今確かに、未来を。 未来を、得た。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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そうして、その数日後には発注したアルバムが届き、彼女に持って行く。 彼女の部屋には新しい写真が加わっていた。 それは、私服の彼女。年頃の娘にしか見えないものだった。 これはお気に入りかい？　と聞くと。 はい、みんなから貰いました、と答えた。 #強い朝潮ちゃん活動記録

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そうして、彼女のレポートもさらに、情緒豊かになる。 音楽はクラシックを好む、とあり。 映画は80年代の陽気なものが好き、とあり。 お菓子は小さく甘いショートケーキが一番とある。 カレンダーの日付と交互に見て、少し頬を緩めた。 #強い朝潮ちゃん活動記録