平成27年2月25日判決(東京地裁)「ゴルフ場の営業再開断念と福島第一原子力発電所の事故との相当因果関係が否定された事例」中所克博先生解説(2015.8.6作成)

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弁護士中所克博 @K_Nakajo

最新の判例時報(2259号)の87頁。東京地裁平成27年2月25日判決が掲載されている。「ゴルフ場の営業再開断念と福島第一原子力発電所の事故との相当因果関係が否定された事例」である。気合いを入れて全文をじっくり読んでみた。押さえておくべきとても重要な裁判例だと思う。

2015-08-05 23:58:36
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【1】まずは事案の概要から。平成24年11月の営業再開を予定し,同23年9月,Xが旧経営主体からゴルフ場を買い受けた。このゴルフ場は栃木県那須郡那須町にある。だが,同年12月28日,那須町は汚染状況重点調査地域に指定された。Xが場内で放射線量を測定したところ,高い値を示した。

2015-08-06 00:03:07
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【2】放射線量の測定は,ジュニアゴルフスクールの開設を検討していたので,地上高50㎝で測定した。また,プレイヤーがティーアップする高さも考え,地上高5㎝でも測定した。ある箇所の値は,毎時0.49から15.80μSvという高い値を計測した。Xはゴルフ場の営業再開を断念した。

2015-08-06 00:06:12
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【3】Xは原告となり,東電を被告として,2億1352万4419円を主たる請求とする損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起した。事件番号が平成25年(ワ)第24958号であるので,おそらく平成25年の終盤だと推測される。東京地裁は原告の請求を全部棄却する判決を言渡した。

2015-08-06 00:09:39
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【4】判例時報の評釈は,「ゴルフ場の営業再開の断念との間の原子力損害の相当因果関係を否定したものであるが,その論理は理論的に,事実認定,判断の説示は事例として参考になる。特に相当因果関係の判断,その前提となる健康被害の危険性の基準については,本判決の前記説示は参考になる」という。

2015-08-06 00:12:14
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【5】わたしの印象として,判決の結論が明らかにおかしいとまでは言えない。ただ,この事件における原告側の訴訟対応は一面的であり(ある意味でやむをえない),それがために判決の結論となってしまったということ。危惧されるのは,この裁判例の結論だけが一人歩きしてしまうこと。

2015-08-06 00:15:58
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【6】問題のゴルフ場の近くには,約2.6キロ~やく6.8キロの場所に4箇所のゴルフ場がある。これらのゴルフ場は,平成24年4月1日の時点では営業を再開していた事実がある。また,Xは本件ゴルフ場を買い受けたとき放射性物質による汚染を不知というが,経緯に照らして疑問の余地もある。

2015-08-06 00:19:57
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【7】本当に放射性物質の汚染の可能性を全く認識しないままにゴルフ場を購入したのか???近郊の4つのゴルフ場が営業を再開しているのに,なぜココだけが営業再開不能なのか?再開資金の調達が上手くゆかず,そのために営業再開ができなかったというのが真実では?裁判所はこう考えたのだと思う。

2015-08-06 00:22:32
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【8】こう考えると,東京地裁の判断がおかしいとは思えない。だとすると,この裁判例は,先例としての価値を持つのか?それは違うと思う。むしろ,この裁判例の結論だけが一人歩きをし,評釈が皮相的に指摘しているように「有意義な判断基準を示した裁判例」として後の事件に使われることを危惧する。

2015-08-06 00:26:36
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【9】この事件の原告は,「高線量→利用客や従業員に健康被害を与える危険性あり」という視点から主張を展開している。だが,真の問題は,健康被害の危険の有無ではない。健康被害を受けるかもしれない,受けたくないなという危惧のもと,危険への接近を差し控える心理と行動こそが問題なのである。

2015-08-06 00:30:09
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【10】もっと簡単に言う。営業再開が可能かどうかは,利用客が来るかどうかにかかっている。利用客が来るかどうかは,利用客に健康被害を与える状況か否かではなく,利用客が「あそこに行くと健康被害を受けるかもしれない」と危惧しゴルフ場に足を運ばない状況が発生する可能性の有無や程度である。

2015-08-06 00:33:23
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【11】残念ながら原告は,健康被害を受ける程度の汚染度か否かという点だけに絞り,主張と立証を展開してしまっている。それゆえ,東電が「しめた」と思い,ICRPの放射線防護のレベルとか,毎時0.23μSvとかを持ち出し,裁判所も安易にそれに食いついてしまった。

2015-08-06 00:38:23
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【12】原告としては,健康被害を生じさせる程度の線量か否かではなく,健康被害を受けるかもしれないと危惧し,ゴルフ場に足を運ぶことを差し控える利用者層の心理特性や行動特性の視点からも主張と立証を展開すれば良かったと思う(ただ,この主張と立証は,言うは易し行うは難しである)。

2015-08-06 00:41:12
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【13】健康被害を与えるか否かという土俵を設定したがため,東電側の思うつぼに嵌まり,基準らしきものを目にした途端に食いつく修正のある裁判所が案の定それにパクついた,これがこの裁判例だと見るべきだと思う。

2015-08-06 00:43:43
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【14】本当に危険なほどに汚れているかどうかではなく,危険なほどに汚れているかもしれない,だから接近を差し控えよう!そんな一般人の懸念,危惧感,自己防衛的な行動特性からアプローチしなければ,(広い意味での)観光業に係る損害の発生や数額を正しく把握することができないと思う。

2015-08-06 00:46:16
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【15】今回の裁判例は,数値論争にされてしまった点,買収時期に照らして放射性物質による汚染を懸念することなくゴルフ場を買い受けたとは思えない点から,原告の請求が全部棄却されたのだと思う。そんな裁判例は,特殊な事情の下での一例に過ぎず,一般化できないものと位置づけるべきだと思う。

2015-08-06 00:51:21
弁護士中所克博 @K_Nakajo

【最後】近郊にあり,平成24年4月1日までに営業を再開した4つのゴルフ場の経営状態はどうだったのだろうか?営業を再開したものの利用者は少数に留まっており,厳しい経営を強いられたのではないか?容易ではないが,田の4つのゴルフ場の営業状況に関するデータが欲しかった

2015-08-06 01:08:42