- ryukaikurama
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土産物売り場からフードコーナーへの区切り扉に手をかけ、ゆっくりと体重をかけて押し開けようとした金剛は眉をひそめた。 「………………」 鼻に付く不快な感じに表情が険しくなり、熱感知モードをONにしてから扉を全開にする。1
2015-08-11 20:49:02視界に映り込む四角の赤い色は、どうやら奥の厨房にある冷蔵庫の熱が表示されているようだ。 その他に気になるようなモノは見当たらないが、金剛の鼻には鉄錆と腐臭が纏わりつき、うっすらと額に汗が滲んでいる。2
2015-08-11 20:49:09金剛は臭いの元を辿りながら、辺りを警戒しつつゆっくりと進む。 床には強い衝撃によってひしゃげた椅子や、割れたガラスが散乱していた。 おそらくは元艦娘に襲撃から逃げようとパニックを起こした人々がこうした状況を生みだしたのだろうと予想できる。3
2015-08-11 20:49:29そしてこの臭いもまた、その結果を表しているのだろうと金剛は息を吐く。 幾度となく見てきた『それ』の場所を察知した金剛はカウンターを乗り越えて厨房内に入り、壁を背にした塊のようなモノを確認した。4
2015-08-11 20:49:36「………………」 金剛はかろうじて人であったと思われる『それ』に手を合わせながら眼を閉じ、暫く何かを呟いてからまぶたを開く。 手も足も、首から上さえも噛み切られ、至るところに歯型が残る塊からは大量の赤い液体が床に溢れ出して固まっている。5
2015-08-11 20:49:46周りには空の薬莢が散らばっており、塊のすぐ傍に拳銃らしきモノが見えた。 金剛はそれを拾って調べてみると、グリップに握っていた指の形を描くように赤い液体がベッタリと付着している。6
2015-08-11 20:49:53銃口側部の『P』の刻印に何度か見たことのある形状により、おそらくこの拳銃はP220であると金剛は判断する。 着ている衣服が赤く染まっているとはいえ、迷彩柄なのは一目瞭然であり、これらを統合するとおそらく自衛隊の関係者であろうと予想できた。7
2015-08-11 20:50:02「弾切れを起こした後、力尽きたのデスネ……」 P220のマガジンを取り出して弾が入っていないのを確認した金剛はポケットにねじ込み、塊に向かって再び手を合わせる。 ここに来たのは食料を確保する為なのか、それとも他の理由があったのか、今は知る由もない。8
2015-08-11 20:50:37できれば墓を作ってあげたいが、ここはアスファルトで固められた高速道路の上。 植え込みではスペースが足りないし、山の斜面もコンクリートで固められているところが多いので難しいだろう。 せめて魂だけは安らかに眠れるようにと金剛は祈り、ゆっくりと背を向ける。9
2015-08-11 20:50:44「おそらくは、ここに来る前に倒した奴らガ……」 この人の仇は取れただろうと、金剛は小さく頷いた後に気持ちを切り替える。 最初の目的であった食料を探そうと厨房内を捜索し、乾物関連が置かれていた棚の奥にあった缶詰見つけ、賞味期限が大丈夫であることを確認した。10
2015-08-11 20:50:52冷蔵庫を開けると電源が入っていたものの、中に入っていた食料は軒並み傷んでいて食べることができず、金剛は少し肩を落として残念そうな表情を浮かべながら扉を閉めた。 その際にヒンヤリとした空気を味わうことができたが、金剛の気持ちが晴れることはない。11
2015-08-11 20:50:58他にめぼしい物がないことを確認した金剛はフードコーナーを離れ、一通り建物内を見回った後に建物を出た。 自信の艤装であるバイクに跨がった金剛は、厨房で果ててしまった人の馴れの果てを思い出しながら小さく息を吐く。12
2015-08-11 20:51:06同じような目に遭う人がいなくなる世界を願いながら、金剛はエンジンを始動させた。 排気筒から黒い煙りが勢いよく吹き出し、振動と共に大きな音を鳴らす。13
2015-08-11 20:51:17そして再び無線機の電源を入れ、アクセルを捻ってエンジンを慣らす。 まだ見ぬ、生き残っている人を助ける為。 そして、一緒に戦える仲間を探す為。 金剛は再び一人で、高速道路を走り出す。14
2015-08-11 20:51:30向かう先は市内中心部。 そこに行けば生き残っている人間がいるだろう。 もしかすると、まだ正常な艦娘がいるかもしれない。 淡い期待を胸に秘めながら、金剛は右手を捻ってバイクを加速させた。 続く 15
2015-08-11 20:52:38深海感染 -ONE- 第一章 その3 『サービスエリア その2』 完 ご意見ご感想があれば宜しくお願いいたします。
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