- dousei_skhs
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【七夕】 夕食のあと、光忠が冷蔵庫から小さなカップを取り出した。俺の分と光忠の分、ふたつ。スプーンと一緒に目の前に差し出されたそれは、綺麗に透き通ったゼリーだった。 「作ったのか」 「ジュースにゼラチン入れただけだよ」 「……綺麗だが、なんでまた」
2015-07-07 23:02:22不思議に思って問い掛けた俺に、光忠はにこっと笑ってみせる。 「今日は七夕だからね」 ちょっと特別。そう言って壁を指す光忠。指先を追うと、そこにあるのはカレンダー。見れば確かに今日は七夕だった。……そんなこと、俺はすっかり忘れていた。
2015-07-07 23:06:12「……忘れてた」 「ふふ、だろうと思ったよ」 「すまん……」 「謝ることじゃないよ。でもこういうの、楽しいでしょ」 「ああ」 「ね。ほら、よく冷えてるよ。食べてみて」 「……ありがとう。いただきます」 「どうぞー」
2015-07-07 23:10:22言葉に甘えて、つめたく透き通ったゼリーをスプーンで掬う。すると、中から何かがころんと出てきた。なんだろう。スプーンの先に乗せてよく見ると、それは小さなハートに切られた果物だった。……俺が気付いたことに気付いた光忠が、笑った気配がする。
2015-07-07 23:15:24「……七夕なら、星じゃないのか」 「だって星形難しかったんだよ」 顔を上げると案の定にこにこ笑った光忠がいた。本当は星形でもなんでも器用に作れるだろうに、変なやつ。黙ってハートのそれを口に運ぼうとすれば、光忠はこちらを見たまま言葉を続けた。
2015-07-07 23:20:40「……おまえ……」 「彦星も織姫に気持ちを伝えるんだろうなあって思ったらさ」 「……みつ、」 「僕も長谷部くんに何かしたいと思って」 「……よくもそんな、恥ずかしいことを……」 「うん。僕もちょっと失敗したと思った」 「…………」
2015-07-07 23:31:10照れくさそうに頬を掻く光忠。だが恥ずかしいのはどう考えても俺の方だ。男に姫だのなんだの、まったく、ふざけて…… 「事実だけどね」 「……言ってろ」 「うん、言ってる」
2015-07-07 23:36:13今、俺の顔がばかみたいに赤くなっていることも、正面に座る光忠にはとっくにばれているだろう。ばれていて、わかっていて、この男は心底嬉しそうな顔をする。悔しい。……悔しい。八つ当たりのようにハートを掬って咀嚼すれば、光忠もようやく自分のゼリーに手をつけた。 【了】
2015-07-07 23:49:34【お知らせ】夜分に失礼いたします。せっかくの七夕と、日頃の御礼の意味も込めてSSを流してみました。お付き合いいただきありがとうございました。拙いbotではありますが、今後ともどうかよろしくお願い申し上げます。【管理人より】
2015-07-07 23:58:36