【ミイラレ!第十一話:トンカラトンのこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。修行回……? こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/858208
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「さぁて、いい考えが浮かんできたよ。ねえ星見ちゃん、退魔師たちの名前って押さえられない?」『いきなりムチャ言うんスね!?』『できるとは思うッスけど』「よしよし。いい子いい子」椅子に深く腰掛けた魔女が無邪気な笑みを浮かべる。「それがあればだいぶ変わってくるんだ」25 #4215tk

2015-08-10 22:00:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「まず修行に出る退魔師たちには、晒野ちゃんをぶつけよう」一瞬の沈黙。『はははは!』『いいッスねそれ!』「でしょ!でしょ!晒野ちゃんなら絶対いい働きしてくれると思うんだ!」我が意を得たり、とばかりに魔女が目を輝かせる。「実戦訓練にも緊迫感がないとねー!」26 #4215tk

2015-08-10 22:03:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「でね、でね!その隙にレイルちゃんに『不幸の手紙』を出してもらっとこうと思って!」『なるほど?』『ちょっと念が入りすぎてる気もするんスけどねぇ』「時間制限は必要だよ。あんまりダラダラしてると、トリルが怒っちゃうからねぇ」その名が出た途端、怪異がぶるりと震える。27 #4215tk

2015-08-10 22:06:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『あー』『トリル……様』『だいぶお怒りで?』「うん。あ、星見ちゃんたちに対してじゃないよ?彼の周りにいる退魔師たちにね」皮肉げに魔女は肩を竦めた。「だから少しでも退魔師たちを除けておく必要があるんだよね。ま、その辺はあたしが上手くやろうと思うけど」28 #4215tk

2015-08-10 22:09:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

魔女が腕組みをする。「あとはえーと、ちのりちゃんかな?あの子はいっそ彼にぶつけちゃおうと思うんだ」『……大丈夫ッスかね』『正直』『周りの怪異に勝てるとは思えないんスけど』「単純に足止めだけなら、あの子ほど適任はいないと思うよ。こと、彼にとってはね」29 #4215tk

2015-08-10 22:12:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

魔女が大きく伸びをする。「まあ、こんなとこかなあ。なんかあったら『てけてけ』がカバーしてくれるから大丈夫でしょ」欠伸を一つ。「……で、星見ちゃんは今『脅かし』の最中だったっけ?頼んだ仕事が終わったら、ひとまずそっちに集中してていいよ」『了解ッス!』30 #4215tk

2015-08-10 22:15:34
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

びゅう、と引き上げられるようにして、星見と呼ばれた怪異が姿を消した。「さて、まずは晒野ちゃん。どれだけがんばってくれるかなあ?」魔女のクスクスという笑い声が暗闇の中に響き、消えていく。……残響が消える頃には、もはやその場に誰の姿もなくなっていた。31 #4215tk

2015-08-10 22:18:22
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……はあ。退魔師どもの稽古ですか」夕飯の準備をしていた巡は素っ気なく言った。「それで今夜お出かけになる」「う、うん。ダメかな……?」「それは好きになさるとよいでしょう。あたしとしちゃあ、止める理由もありません」おずおずと尋ねる四季に、彼女はそう答える。33 #4215tk

2015-08-11 19:37:26
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

振り向いた彼女は、四季とともにちゃぶ台を囲んでいたながれを睨む。「なにも敵に塩を送るような真似をしなくとも……」「敵?」ながれが首を傾げる。その顔には意地の悪い笑みが浮かんでいた。「いつ彼奴らが敵になったか?さて、とんと思い出せんの」鬼女が低く唸る。34 #4215tk

2015-08-11 19:39:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……まあ、お好きにどうぞ。あたしは小夜子さんたちと一緒に留守番してますんで」「ん、わかった」四季は頷く。嫌がっているものを無理やり連れて行っても仕方がない。その退魔師嫌いの理由は気にかかるものの、それを表立って聞くほど彼女は自分に心を開いていないだろう。35 #4215tk

2015-08-11 19:42:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……夕食後、出かけていった四季たちを見送った巡は深い溜息をつく。理屈で考えれば、ながれの策は決して悪くない。しかし、彼女自身がその選択に納得できるかといえばまた別の話だ。「修行とはね」口を開いたのはメリーである。冷笑を浮かべた人形は、玄関の扉を見つめている。36 #4215tk

2015-08-11 19:45:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「無駄なことを。そんなことをしても、せいぜい私程度の怪異を倒せるかどうかだというのに」「わりと充分な気がするんですけどね」答えたのは人形を抱え込んだ小夜子だ。今の彼女はメリーに取り憑いており、その力を封じているのだ。本人すら知らなかった彼女の特技である。37 #4215tk

2015-08-11 19:48:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「お母様にはあの悪魔がいることを忘れたの?たとえ人間がどれだけ束になろうと、あれに勝つなんて不可能よ」メリーの言葉に、巡の眉間にややしわがよる。一度相対した身であれば、彼女の言葉が決して過剰でないことはすぐにわかるのだ。下手をすれば、ながれでさえ危うい。38 #4215tk

2015-08-11 19:51:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

興が乗ったのか、メリーは饒舌に話し続ける。「あれだけじゃないわ。『赤マント』と『てけてけ』だって控えてるのよ。あの二人は私たちの中でも別格で」「あ、それなんですけど」ごく自然にその言葉に割り込んだ小夜子が首を傾げる。「その二人、名前はないんですか?」39 #4215tk

2015-08-11 19:54:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「名前……」口を挟まれたメリーは、しかし困惑したように口元に手をやる。「それは私も知らない。あるとは思うのだけれど。お母様があの二人を名前で呼んでいるところ、聞いたことがないの」「へえ。それは妙な話ですねえ」二人の会話を耳で捉えながら、巡は静かに茶を飲んだ。40 #4215tk

2015-08-11 19:57:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

成る程、名を呼ばれない怪異というのも変わっている。そこになにか理由はあるのか?ないわけがない。例えば、名前が漏れることで相手の正体が掴めてしまうとか……そこまで思考を巡らせていた鬼女は、唐突に向き直った。トイレの方へ。直後、内側から弾けるようにドアが開く。41 #4215tk

2015-08-11 20:00:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「え?」小夜子がきょとんとした顔を向けた。そして転がり込んできたそれを見て、小さく息を呑む。「ちっ……くしょう」悔しげに呟いたのは、倒れこんだ花子だ。その体のあちこちには深い傷が刻まれ、何より……両腕がなくなっている。巡が立ち上がり、糸で彼女を手繰り寄せた。42 #4215tk

2015-08-11 20:03:22
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

あっさりと宙に浮いた花子の体が、巡の腕の中に収まる。数秒後、彼女が倒れていた場所に赤い刃が突き刺さった。「……ナルホド。コノヨウナ場所ニ繋ゲラレルトハ」篭った声とともに、真っ赤な影が音もなく侵入してくる。「『赤マント』!」メリーが歓喜の声を上げた。43 #4215tk

2015-08-11 20:06:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

侵入者……『赤マント』は、わずかに視線を巡らせる。フードの奥で赤く輝く瞳が人形を捉えた。「メリー、カ。元気ソウデ、ナニヨリ」「さ、さすがね!あの小娘をこうも容易く!そのついでに私も助けるのだって簡単でしょ!?」「サアテ」『赤マント』が巡へと向き直った。44 #4215tk

2015-08-12 22:18:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ドウダカナ。私ハ少シ反省シテイル……深追イシスギタ」「えっ」「オ前ヲ助ケルノハ難シイ。ソモソモ頼マレテイナイノダ」陰々とした声で呟いた赤の怪異が、マントの奥から赤い何かを投擲する!「やべえ」花子が呻く。「あれを喰らうのはマズい。触るだけでも……!」45 #4215tk

2015-08-12 22:21:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ふぅん。ま、その情報を生きて持ち帰れただけでも良しとするかね」重い傷を負った花子を抱えたまま、巡はその場を動かない。『赤マント』の攻撃は、彼女の眼前でぴたりと止まった。同時に繰り出されていた小夜子への不意打ちも同様である。巡の小蜘蛛による蜘蛛の巣の結界だ!46 #4215tk

2015-08-12 22:24:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ヤハリ」落胆も動揺もなく、『赤マント』が呟く。その姿が音もなく後ずさり、トイレの中の暗闇へと消えた。バタン、とひとりでにドアが閉まる。「……あ、あぁぁー!?『赤マント』!?待って、置いていかないでよ!」わたわたともがくメリーを、小夜子が慌てて押さえつけた。47 #4215tk

2015-08-12 22:27:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

それを横目に、巡は『赤マント』の投擲したものを見える。一見して、それは単なる赤い紙のように見えた。しかし……それに付着している霊気は、いかにもタチが悪い。彼女は鼻を鳴らし、小蜘蛛にそれを焼却させる。触るだけでも危ないというのは確かな情報のようだ。48 #4215tk

2015-08-12 22:30:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「相手の情報を持ち帰れたのはともかく、ここを嗅ぎつけられたのはうまくないね」「……悪い」弱々しい声で花子が呻く。巡は眉をひそめ、その体に刻まれた傷の一つに手を当てた。指先を動かすと、傷が白い糸で埋まる。応急処置だ。本格的な治療は、あの少年が戻ってからでなくば。49 #4215tk

2015-08-12 22:33:11