#完全ノープラン艦これ与太話 【コレクティヴ・サブコンシャスネス】#1～#2

春魔解丼 @vespiking

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ドクロめいた満月が、対テロ戦争の遍在性と隠密性を象徴するがごとく、すべての鎮守府を平等に見下す。時刻はウシミツ・アワー。蒸し暑さを残した夜空に飛び交うのは、遠く潮騒に混じり聞こえるバイオカモメの声と、夜間哨戒を行う航空機の断続的な「異常なし」シグナルだけだ。 #KZNPLN

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小規模鎮守府の夜は静かだ。日中せわしなく通信を交わす艦娘たちも寝静まり、あらゆる侵入者が発する異音はそれ自体がアラートめいて即座に伝播する。それは平和の象徴でもあり、戦争の象徴でもあった。このような時間に起きているのは夜間哨戒機の担当母艦か、彼女ぐらいだ。 #KZNPLN

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黒一色のロード画面に、メトロノームじみて左右に揺れる薄紫髪の顔が映る。駆逐艦、弥生は本日（日本時間で前日）発売の新作ビデオゲームを高速ダイヤルアップ通信によって日付変更と同時にダウンロードし、自室の大型モニタ前に座り込んでから26時間が経過したところであった。 #KZNPLN

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「ウム、ウム。これ以上は明日のプレイ内容に支障が出る」弥生は誰もいない自室で思考内容をそのまま口に出しながらデータをセーブ。「保存中な」の文字を確認してから傍らの薬箱（1日3錠と書いてある）を掴み、本日6錠目の頭痛薬をチャで流し込み、床を這ってリモコンを手にした。 #KZNPLN

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ウシミツ・アワーに放映しているテレビ番組は少ない。弥生はぼうっとした意識の中で、漫然とチャネルをザッピングする。ノイズ画面、いかがわしいショッピング番組の体験談トーク、低予算ドラマ、ノイズ画面、古い映画。それらが数秒おきに切り替わるなか、その一瞬は偶然訪れた。 #KZNPLN

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『ザリザリ……ド、ドーモ……ザザザ』全チャネルを1周し、プラスボタンから電源ボタンに指を動かそうとした僅かなタイムラグ。そこに滑り込んだ奇妙な異音に、弥生の指は止まった。「……え？」画面の砂嵐が、少し歪んだ。続いて、モノトーンの不可思議な図形が、一瞬映った。 #KZNPLN

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弥生は食い入るように画面を見つめた。ノイズパターンが尋常のそれではない。何らかの電波障害か、はたまた電波ジャックか？しかし26時間の連続ゲームプレイで疲弊し切った視覚が弥生に与える情報は少なく、かわりに静寂が、音を耳へと運んだ。『ドーモ……ワイオミング……です』 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【コレクティヴ・サブコンシャスネス】#1 #KZNPLN

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ジリリリリ。隣室からけたたましく鳴り響く総員起こしのアラートが、弥生の意識を覚醒させた。本日も非番である弥生は条件反射じみてフートンを蹴飛ばそうとし、そこでフートンがないことに気がついた。「……アレ」弥生は隣室との壁際、モニタの前で大の字になって寝ていた。 #KZNPLN

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「……寝落ちか……きょう休みだし……損した……」頭痛薬オーバードーズの余波が、二日酔いめいてキリキリと頭蓋骨を締め上げる。弥生はそれを抑える頭痛薬をチャで流し込み、トリロバイトじみて四肢を使わず床を匍匐移動、エターナル・フートンに潜り込んだ。二度寝である。 #KZNPLN

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安らぎフートンに上下逆で包まれながら、まどろみのなかで弥生は昨晩のノイズ映像を思い出していた。「……アレ、なんだったんだろう……」覚束無い記憶が、眠気とフートン闇の狭間でグルグルと揺れる。声は名乗った。ワイオミング。そして、その先……いや、その前……？ #KZNPLN

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「……目覚め……目覚め？ヤダ……寝たい……、イヤ、違う……。目覚め、目覚める……何に……？かいほう、しんかい……しんかい…………」「……………………」「……………………ハァーッ！」弥生は何かに思い至り、フートンを蹴飛ばした。太陽は真上に達していた。「寝ていたか」 #KZNPLN

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30分後。安価な成型スシ・パックの添加物とトロ成分が生むケモ反応で脳を覚醒させた弥生は、工廠のUNIX設計室にいた。「珍しいじゃない。弥生が非番の日に顔出すなんて」弥生が無言で首肯する相手は、ライトグレーの髪を緑のリボンで結んだ軽巡。工廠長夕張、彼女の上官である。 #KZNPLN

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「夕張。きのう、何時に寝た？」「アイエッ？」黙々とIRC検索を行う弥生が不意にぼやき、夕張は素っ頓狂な声でこれに応じる。「ナンデ？」「……や、きのうの夜。ウシミツ・アワーに、へんな電波……テレビにうつってた。みた？」「見てない。きのうはアニメも何もやってないし」 #KZNPLN

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「なんか、こう……深海がどうとか、目覚めよ、みたいな……そういうの……きっと過激派だよ。なんかがあぶないよ」「ウーン。テレビ用の電波チャネルはだいたい監視してるけど、異常な電波は観測されてないなあ。どこの局？」「……おぼえて、ない。ずっとゲームしてたし……」 #KZNPLN

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夕張は壁の電波計器を少々操作し、画面の折れ線グラフをいくつか見比べた。「うーん。やっぱり見当たらないなあ。寝ボケてたんじゃないの？」「そ、そんなことは……」「さいきん頭痛薬も常用してるみたいだし」「ウッ……い、生きるために……」「脳検査でもする？」「いや、いいや」 #KZNPLN

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「と、とにかく。何かの、洗脳電波とかだったら、たいへんだし。調べてみたほうが、いいよ。サイバーテロ、だよ」弥生はワタワタと両手で陶芸めいた構えをとり、熱弁する。「うーん……最近納期が近くて忙しいんだよなあ……」夕張は予定表を見た。「……わかった。じゃ、私が調べる」 #KZNPLN

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「わかった。そこまで言うなら、弥生いま特に開発任務、入ってなかったよね」夕張は携帯端末を操作し、工廠員の任務状況を確認しつつ、何らかの操作を始めた。「ウン……対潜哨戒とか、輸送とかの、補助ばっかり」「じゃあ、正式に調査任務を申請しとくから。報告書は10枚程度ね」 #KZNPLN

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ナムサン。情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームに流される。弥生は簡単な補助業務の日々が唐突に終わりを迎え、面倒なノルマが生じたことに半ば後悔しつつ、非番の日に調査しなくてよいことを思い出すと、自室に戻ってビデオゲームを再開。深夜3時に就寝した。 #KZNPLN

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弥生が眠る1時間前。弥生のモニタにゲーム画面が映し出されていたその時、夕張もまた、自室のモニタにかじりついていた。不穏なノイズが踊るモニタを。ほとんど無意識のまま。 #KZNPLN

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翌日。弥生の姿はネオヨコスカにあった。その手には小型のカメラと、音声レコーダー。「なるほど。つまり貴女も、見たのですね？あの、なんらかの怪映像を」「ハイ、先ほど話したとおりです」「ありがとうございます。我々、ネオヨコスカ・テレヴィジョン特派員は、さらに検証を……」 #KZNPLN

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報道特派員に擬態した弥生はネオヨコスカに合法在住する数少ない深海棲艦をめぐり、情報を集めていた。蛇の道は蛇。深海棲艦ならば、何か知っているかもしれないとふんだのだ。「私の故郷は紛争地帯ですが、確かに、かつて聞いた過激派アジテーション放送に似ていた」「なるほど……」 #KZNPLN

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いくつかの証言が集まり、首尾は上々かと思われたが、ここにきて特派員弥生は大きな壁につきあたった。「確かに、目の前にドアがあると……」「ドア？」「はい。そう見えました」この軽空母の前、話を聞いた重巡はこう証言した。「真実がここにある」と。すべての証言が相違していた。 #KZNPLN