(漫画原作者、元編集者の)喜多野土竜先生による「電子書籍と出版の未来」についての意見
26:これは、編集の現場を知らない営業販売の圧力もある。「単行本は売れなくても、雑誌に読者をつなぎとめる力がある作家」というのは、数値化しづらい。販売部にとっては、発行部数10倍の作家は、10倍エライとなる。だが、新人育成というのは、そんな単純なものとは、自分は思わない。
2011-01-08 15:02:4127:例えば、ある出版社が利益率の悪い少女誌を廃刊にした。同じ漫画家が描いても、単行本の売上が5倍から10倍も違えば、そう判断しても無理は無い。だが、単行本は買えなくても雑誌は買える小学生読者が、中学高校になり、その出版社のもうちょっと上の層向けの女性誌を買い、単行本を買う。
2011-01-08 15:05:2928:彼女らがもっと成長すればレディースに移行するだろう。これは男性読者の、幼年誌→少年誌→ヤング誌→青年誌 という生態系も同じ。赤字部門を切り捨てたと喜んでいても、長い目で見ればボディーブローのように出版社に効いてきて、読者離れを起こしてしまう。寄席のシステムは、そこを避ける。
2011-01-08 15:10:0729:寄席の場合は、演者の出演料を抑えることで成立する。演者の側も、かつて自分が育ててもらった場に対する恩返しとか、新規の顧客獲得という意味合いもあり、そこは割り切る。自分が主任で、客を呼ぶという自負もある。だが、漫画の場合は寄席と独演会の出演料が一緒になってしまっている悲劇が。
2011-01-08 15:13:5430:大学の後輩の祖父は、高名な芸人だったが、地方営業なら興行主お任せなら1回数十万のギャラを得ていたとか。それでも新宿コマ劇場の演歌歌手の舞台公演では、1か月拘束されて芝居に歌にと大変でも、地方営業1回のギャラよりも安くても受けたと。落語家以外の芸人の、寄席的意味があるから。
2011-01-08 15:17:4631:ヤングサンデー休刊決定時、ゆうきまさみ先生が、作品発表の場がなくなるぐらいならば、作家側にちゃんと交渉すれば原稿料引き下げに多くが応じたはず……という意味のことを語っていらしたが、ここら辺は先に書いた作家の原稿料は下げられないという不文律の影響。大手では、メンツもある。
2011-01-08 15:20:3332:ガロのように、原稿料はなくても作品発表の場と割りきって、執筆する場もあったが、特殊な例外。落語協会の場合は団体として会員の利益を守る場であり、それが寄席と関係を構築しているが、漫画家は基本一匹狼。雑誌のために安い原稿料に甘んじる自己犠牲を求めるのは、ムリもある。
2011-01-08 15:24:2432:ゆうき先生の発現に、自分と同じ出版社勤務経験のあるフリー編集が、「まず圧縮すべきは明日をもしれぬ原稿料じゃなく、高額な社員の給料」とつぶやいたが。ヤンサンは潰れ、一部の人気作家は移籍し、一部の作家は仕事を失い、社員は誰も馘首されることなく、配置転換。それが現実。
2011-01-08 15:30:3133:歴史あるラジオ番組が打ち切られたとき伊集院光さんが、人気があるのにスポンサーが付かないので番組打ち切りなら、スポンサーを取ってこれない営業の人間はクビにならないのかと皮肉を言っていた。まさにそれと同じ状況。明日にも才能がなくなるかもしれない漫画家に、自己犠牲は求められない。
2011-01-08 15:34:2834:出版社の弁護もしておくと、出版事業というのはリスクが高い。460円の新書1万部を10点出版しても、莫大な金がかかる。その売上が入金されるのは数カ月先なので、本を作って売って回していくには、基礎体力とリスク回避のための慎重策は、批判できない。会社が潰れれば路頭に迷うのは同じ。
2011-01-08 15:38:4935:文句があるなら、作家の側は自分でリスクを負って、自分で本を出版しろという事になる。だが、作品を書く能力と出版社を経営する能力は、また別。小説家では菊池寛の文芸春秋社、漫画家ではさいとう・たかを先生のリイド社ぐらいが、作家が起こした成功例の数少ない例だろうか。
2011-01-08 15:41:3236:実際、リイド社は『ゴルゴ13』は単行本にしても売れないと小学館側に判断されたため、さいとう先生が自分でリスクを負って作った会社。作品自体も早くから分業制を導入したように、さいとう先生はマネージメント能力に長けていたのだろう。出版社を作って失敗した漫画家は、けっこう多い。
2011-01-08 15:44:1837:電子書籍の登場で、作家の側にも動きが。代表例が、佐藤秀峰先生の試み。ただ、出版社の側には怨嗟の声もある。寄席で育ててもらった落語家が、人気が出たら独演会と営業ばかりやるようなものという批判も。ただ、これは佐藤先生が新人育成にも乗り出したことで、的外れになったけれど。
2011-01-08 15:49:0938:佐藤秀峰先生やうめ先生の電子書籍における試みは高く評価するが、一抹の不安もある。それは、やはり編集者的な視点と作家の視点は違う。作家は作品作りのスペシャリストであるが、そのスペシャルな部分は偏る。得意ジャンルなら的確なアドバイスもできるだろうが、畑違いには難しい場面も。
2011-01-08 15:52:5439:作家個人が電子書籍で自分の食い扶持を創出することはできても、漫画文化の継続的な維持発展のためには、新人発掘と育成はできない。佐藤先生のような場を提供しても、セルフマネージメントができて才能がある作家以外は、自分がどこに躓いているかわからず、消えてしまう。立川流の問題に似る。
2011-01-08 15:55:5940:立川流では志の輔・談春・志らく・談笑と、本格派あり爆笑派ありと人材が育っているが、それ以上に消えていった人間は多い。才能とそれを活かす方法をしる人間はポーンと出てくるが、そうでない人間は厳しい。才能ある一握りで充分じゃないかと意見もあるが、それはちがうと思う。
2011-01-08 15:58:0441:落語では「呼び屋」と「聞かせ屋」という言い方があるが、一般の客を寄せに呼び込む人気者と、そうやって来た客に、落語って面白いだけじゃなくて悲しさとかペーソスとか人間の薄ら寒さ、怖さもあると気づかせる力量のあるタイプが必要。他にも多種多様な個性があってこそ、全体が活きる。
2011-01-08 16:00:5042:なので、作家が出版社を立ち上げて継続的な漫画文化を育てようと思えば、資本はもちろん、多様な作家に対応できるゼネラリストとしての編集が必要。それだけでもまだ不足で、HONDAにおける藤沢武夫的な、営業や財務畑でサポートしてくれる人材が必要。佐藤先生に、そういう参謀はいるのか?
2011-01-08 16:04:3343:出版社に関しては、既得権益を手放せない大手はともかく、中小は身軽に動ける。写植の時代、写研にシェアを奪われていたモリサワは、DTPのフォントに賭けるしかなかったが、結果的にそれが現在の隆盛につながり、不正確な表示しかできないとDTPを嫌った写研は時代に乗り遅れた。
2011-01-08 16:08:2244:実は電子出版、日本はアメリカよりも既に市場は大きい。特にエロ漫画。規制が激しい紙に比較して、緩めのネットの世界にワニマガジンや竹書房は早い時期から進出し、けっこうな売り上げを叩き出している。大手はそこにシフトできないうちに、中小にはチャンスがある。モリサワのように。
2011-01-08 16:11:5545:紙の出版では基礎体力が必要だったが、電子出版なら小資本でも可能。この場合の資本という点で重要なのは、実は在庫を維持する倉庫。大手出版社の倉庫を見学すれば驚くが、広大な土地に高校の体育館より巨大な建物が立ち、何十万冊という在庫を維持管理し、出荷する。それがいくつもある。
2011-01-08 16:14:4646:一度刷った紙の本は、それを維持するだけでも莫大なコストがかかるが、電子出版ならそこが不要。そこに可能性がある。なので、これから出版社では、才能ある作家を抱えた編集者が独立して商売を始めるか、能力がある編プロが反旗を翻す自体が増えると思う(今までも結構ある)。
2011-01-08 16:17:0447:会社がリストラしようとすると、フリーでもやっていける自信がある有能な社員が早期退職に応募してしまい、辞めてほしい無能社員は、行き場がないことを知ってるのでしがみつくという構造が、これから生まれる。出版社の側も、作家以上に編集の人材育成が今後の存亡を左右する気がする。
2011-01-08 16:21:0348:ところが元出版社の中の人であり、業界をうろついてる身として断言できるが、有能な編集を育てるノウハウは、実は無い。編集個人の生きてきた背景や個性が状況に合致して、生まれてくるもの。一種の名人芸的なものではないかと思う。結果、大手ほど編プロに頼り、有能な編プロから正社員登用と。
2011-01-08 16:24:5449:もちろん、大手には大手の伝統や蓄積があり、流通の強みは圧倒的。本は、取次会社という所を通して全国に配本される。出版社がいくら刷っても、取次が受け取らなければ倉庫で腐らせるしか無い。全国の本屋は2万5000ぐらいあったのが、今は1万5000ぐらいか。しかしコンビニは増加中。
2011-01-08 16:31:31