騎士と精霊の追想

騎士と精霊の出会いの物語。 今宵はどのような夢を見ますか?
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円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

「ごめん」彼は唐突に謝りましたが、何に対してかは分かりませんでした。「お前が出て来なくなって、俺が何か怒らせる事をしたかと思って」全く的外れな言葉だったので、私は渋々引き篭もった理由を白状しました。彼は返された剣を眺めて一つ頷くと「そう思い悩んでも、こうして俺を助けた。関わった」

2015-04-03 03:29:14
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

徐に懐から桃色の花を取り出して差し出しました。一瞬面食らってしまいましたが、彼は事もなげに言いました。「そうやって悩むなら、俺がお前の存在理由になってやる。俺の恩人で友達、それがお前だ」こうすると、お前も唯一の存在になれる。そう言って花を私の髪に飾ってくれました。

2015-04-03 03:34:08
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

「私なんかのために……?」ついそう口にしてしまいましたが、「お前のためにそうすると決めた」と彼は表情も変えずぶっきら棒に返しました。それから私は彼の傷にそっと触れ、抱きしめて、日が暮れるまで泣きました。この時の約束が、私とランス様を繋ぐ第一の絆なのです。

2015-04-03 03:40:11
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

それから数年が経ってランス様は騎士になりアーサー王様に仕えに行ってしまいましたが、その間私も修練を経て、同胞に認められる水の精霊となっていました。アーサー王様の下にいる騎士には、騎士精霊という称号の精霊が与えられることになります。私はランス様と共に戦う為に必死になってきたのです。

2015-04-03 03:46:01
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

そしてパートナーが決まる日、私は再びランス様の前に姿を現しました。あまりの変化に最初は気づかれなかったのですが、髪に飾ったあの日から枯れないお花のお陰で、私を思い出して下さったのです。こうして私は、晴れて彼に名を名乗ることが出来るようになったのです。……アクアシャシス、と。

2015-04-03 03:50:34
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

今のこのパートナー関係が、私とランス様を繋ぐ第二の絆です。こうして思い出してみると、ランス様と出会わなかったらどうなっていた事でしょう?可能性よりも、今私がランス様をお慕いしている事実の方が大切ですね。ランス様……私は生涯貴方の側にいますからね……!(終)

2015-04-03 03:55:35
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

マーリン「さて、退屈は凌げたかの?今宵のお話はこれでお終いじゃ、皆、良い夢が見られると良いのぅ。愛する人が出来た彼女のように、幸せな夢が訪れることを願っておるぞい?では、またの!おやすみなさい。ホッホッホッホッホッホッホッホッ……」

2015-04-03 04:07:51
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

ランスロット「ん、何だか懐かしい夢を見た気がする……」 アクアシャシス「すぅ……すぅ……素敵です……大好きです……///……ランス様は私のもの……///……すぅ……すぅ……」 ランスロット「って、なんで一緒に寝てるんだアクア!?///」

2015-04-03 04:17:08
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

シルフィード「オレ、風の精霊!見て見て!オレの主的な!トリスタンっていうんだけど、なんか真面目で健気っていうか超ウケるの!」 トリスタン「そういう紹介の仕方、やめてくれない?」 シルフィード「でも強いし、コイツの歌は超好き!大好き!」 pic.twitter.com/HuqbByfqXL

2015-09-12 03:14:16
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円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

マーリン「さて、皆はもう眠ってしもうたかの?今宵は少しだけ、とある精霊の夢を覗いてみようかのぅ……。ふむ、ノイズが酷いの。過去に執着しないどころか、余程の刹那主義と見える。どれどれ……」

2015-09-21 01:51:43
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

【とある風霊の追憶】 おれには、言いたいことを抽象的な言葉で表してしまう癖がある。いつだってそうだ。別に恥ずかしがっているワケじゃない。自分の気持ちを上手く表現する言葉が見つからないんだ。それを他人に悟られたくなくて、口を悪くしているとも言える。単に口籠るのは勘弁。格好悪いだろ?

2015-09-21 02:00:42
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

おれは風精霊の一族の中でも優秀な方だった。精霊の生まれる仕組みは……ああ、あの水霊から聞いた?なら良いけど。んでだ、目的を持って命を得たか、そうでないか……おれは前者だ。使命は人間に恵みを与えること。まあ、これだけじゃ曖昧すぎて、正直何をすれば良いのか具体的には分からなかった。

2015-09-21 02:05:17
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

毎日が退屈だった。使うことのない才能なんて持ち腐れ。いつしか、口と素行の悪さがきっかけで同胞からは嫌な目で見られたもんさ。それでも、おれは人間の住む地域を巡った。おれが通るだけで風が起こる。おれが笑うと優しくそよぐ。おれが怒ると激しく荒れ狂う。おれが嘆くと空気すら淀む。

2015-09-21 02:11:20
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

当たり前のこと、当たり障りのないこと。こんなことで、自分を表現出来てるワケじゃないと感じていた。感情の機微で、風の精霊は空気を操ってしまう。なら、空気を操れない風の精霊ってどんな奴なんだろう?どうなってしまうんだろう?自分にそんな未来は訪れないと分かってても、考えてしまってた。

2015-09-21 02:17:34
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

そんな思考を巡らせていると、おれはいつの間にか川の上を漂っていた。こんな所でフラフラしていると同胞や他の精霊に見られる。すると、踵を返したおれの耳に滑り込んでくる旋律があった。其方を見ると、川の上流から船が流れてくる。大きさと積荷の具合からして、人間の商人の船だろう。

2015-09-21 02:22:24
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

それも相当古いのか、不一定なリズムでギシギシと船体が悲鳴を上げている。けれど、それすらも引き立てるように、甲板に座り込んだ少年が歌を紡いでいたんだ。穢れを知らない丸い瞳で先を見据え、柔らかく伸びやかな歌声は、周囲の空気さえ透き通らせているみたいだった。

2015-09-21 02:28:16
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

いつの間にか聴き惚れている間に、歌声は船と共に遠くへ行ってしまった。おれは衝撃を受けた。あんなにも幼い子供の口から紡がれていた歌が、まるで古から積み重なり伝わって来た、ある種の"教え"のように感じられたからだ。言葉は節を加えるだけで、時をも空間をも超える表現・伝達手段になるのだ。

2015-09-21 02:35:35
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

何処かで同胞からそう聞いた事があったけど、実感したのは正にこの時だった。あの子供はおれよりも幼く未熟だが、おれよりも世の中の美しさを知っていると確信出来た。いつも寝床にしている木の幹にもたれかかると、目を閉じて耳を澄ませる。そうすると、世界の全てが歌っているように思えた。

2015-09-21 02:40:05
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

覚えのある音楽を鼻歌に変えてみた。けど、音程が曖昧で曲の形を成さなかった。これからはもっと、周りに耳を傾けてみよう。自分を表現すること以前の問題をたった今思い出せたようで、おれは静かに苦笑した。……それから、月日はどれだけ流れただろうな。おれは風霊の代表として新しい使命を帯びた。

2015-09-21 02:46:10
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

それは、このログレスの運命を担う王に仕え、騎士と契約するというものだった。一際優秀になっていたおれは、相当強い騎士と行動を共にできることが約束されているらしい。そして契約の日、目の前にいたのは熟練という言葉が似合う騎士。けれどおれは、そいつとは別の方に釘付けになっていた。

2015-09-21 02:55:08
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

そこにいた騎士は、いつか商人の船に乗っていた少年にそっくりだったんだ。宣誓の直前、おれは思わずそいつを引寄せて言っていた……「おれはこいつが良い」って。この時、急に指名されてまん丸に目を見開いて驚いてたのが、トリスタンだ。かくして、予定とは大幅にパートナーが変わった形で契約成立。

2015-09-21 03:01:44
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

色々と文句は言われた。けど、自分にとっては良い選択をしたんだって思ってた……最初は。事実、おれとトリスタンはもう吃驚するくらい相性が合わなかった。おれの態度に少しでも気が触ると、何かしら注意してきた。健気って褒め言葉になるのかな、それが度を行き過ぎるくらい真面目な性格なんだ彼は。

2015-09-21 03:06:37
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

口喧嘩したのも何回あっただろうな。そんで、そういうのすら足下にも及ばないくらい、おれは大変なことをしてしまった。トリスタンは、他の騎士から隠れて竪琴の練習をするのが日課だった。それを、おれの不注意で竪琴を壊してしまった。あの時のトリスタンの呆然とした表情を、よく覚えてる。

2015-09-21 03:11:20
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

その上、彼に謝ることもせず、おれは心にもない酷いことを言い放ってしまったんだ。「隠れて練習するって事は、どうせ下手なんじゃね?だったらこの際、女々しいし止めろよ」って。我ながら薄情な奴だって思った。トリスタンは怒りも泣きもしなかったけど、粛々と壊れた竪琴を拾って仄暗い目で言った。

2015-09-21 03:15:57
円卓騎士(亜月創作) @EntkKnights

「良いよ、パートナーの君が言うなら。満足するくらい強くなるには必要なんでしょ?」……冷たい声だったな。容姿は似てても、あの少年には擦りもしないくらい。おれは後悔してたけど、暫くは気まずい時間が流れた。時は流れても、澱んだ空気は滞ったままだった。

2015-09-21 03:19:31