【ミイラレ!第十六話:てけてけのこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。主人公はどこにいった? こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/875667
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第十六話:てけてけのこと】

2015-09-19 18:00:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

校舎の中に轟音が木霊する。「ぐぅ……っ」吹き飛ばされた巡は、呻きながらもなんとか着地。背に負った春の荒い息遣いに、彼女はさらに顔をしかめた。「無理するからそうなるんですよう。まったく病み上がりだってのに!」「悪りい……ハァ、ちくしょう。やるな、あいつ」1 #4215tk

2015-09-19 18:03:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

答える春の声は苦しげだ。巡の背に伝わる感触が一瞬だけ強張り、すぐに柔らくなる。人型を保つ妖力すら尽きようとしている。その事実に巡は眉間にしわを寄せた。彼女を失うわけにはいかぬ。なぜならば、それは山ン本組の断絶を意味するからだ。古木春……魔王の小槌は象徴である。2 #4215tk

2015-09-19 18:06:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「しぶといな、羽虫の分際で」ゆっくりと歩み寄ってくる悪魔が言う。淡々としたその言葉の裏には、隠しきれない苛立ちと怒りがあった。その両腕は異形に変化している。赤い鱗に鋭く巨大な鉤爪を備えたものに。「手間をかけさせてくれる。いつまで抵抗する気だ?」3 #4215tk

2015-09-19 18:09:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

金色の双眸が蛇のように細まり、鈍い光を放つ。巡は奥歯を噛み締めた。あの睨みはたんなる威圧ではない。見るだけで相手を石に変えかねない魔眼である。……無論、それとわかれば防御はできる。が、防ぐだけで手一杯だ。とてもではないが、手妻を加える暇などありはしない。4 #4215tk

2015-09-19 18:12:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そうかっかしないでくださいよう、悪魔殿」強いて鬼女は笑い、言葉を投げかけた。「あたしらとしてもここで消えたくはないんでね。まあ勘弁してくださいな」「相変わらず舌の回るやつ」悪魔が不愉快げに目を細めた。「ここごとまとめて壊せればな!それができないのが残念だよ」5 #4215tk

2015-09-19 18:15:35
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

不機嫌な表情を隠す様子もない悪魔を、鬼女は改めて見やる。悪魔の力は本物だ。比喩ではなく、この学び舎ごと自分を消滅させるだけの力は持ち合わせているだろう。しかし相手はそれをしない。あれほど苛立っていてもだ……それはここにあの少年がいると思っているからだろうか?6 #4215tk

2015-09-19 18:18:36
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

否。彼女の勘はそうではないと告げている。「前から思っていましたが、ずいぶんと人道的でいらっしゃる」「アア?」首を傾げてこちらを見やる悪魔に、巡は笑った。「話を聞くに、退魔師どもを殺す機会などいくらでもあったでしょうに。しかし自らでは手を下していない」7 #4215tk

2015-09-19 18:21:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

睨み殺さんばかりの視線を向けてくる悪魔を真っ向から見返し、巡は続ける。「しかしその割に、他の連中には退魔師どもへ積極的に仕掛けさせている。ちぐはぐですねえ、どうも」そして笑った。「もしかしてなんですが。あんた、自分の手じゃあ人間どもを殺せないんじゃないですか」8 #4215tk

2015-09-19 18:24:22
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

それは巡が前々から立てていた仮説だった。あの少年への遠慮以前に、この悪魔にはそうした制約があるのではないか?そうとでも考えなければ、あまりに行動に無駄が多すぎる……「そうだとして」返ってきたのは冷たい言葉だった。「それが今のお前の助けになるのか?」9 #4215tk

2015-09-19 18:27:23
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

悪魔が一歩距離を詰める。巡は距離を保った。「癪に触るやつだ、お前。いい感じにボクに火をくべてくれる……馬鹿にしやがって!」床に硬い何かが叩きつけられる音。悪魔の尻尾だ。「引き裂いて!燃やして!灰にしてやる!」「それは御免こうむりたいんですがね……!」10 #4215tk

2015-09-19 18:30:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

巡は必死に思考する。いかにしてこの場を切り抜ける?真っ向勝負は無謀。なんとか逃げを打ちたいが、さてそれを許してくれる相手では……!彼女は慌てて身を引く。鼻先を鉤爪が掠めた。速い。「GRRRRR!」唸りを上げ、悪魔が左右から連撃を繰り出す!11 #4215tk

2015-09-19 18:33:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

巡はかろうじてこれを回避。回避。回避!「ちぃ……!」思わず舌打ちする。悪魔の瞳からは相変わらず不穏な光が漏れている。気を抜けば石にされ粉微塵。さりとて一撃でももらえばその時点で死。蜘蛛足での機動にも、この悪魔は食らいついてくるだろう。格が違う。12 #4215tk

2015-09-19 18:36:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

こちらを引き裂かんとしていた悪魔が、急に挙動を変えた。斬り払いの勢いのままに回転、そのまま尻尾での薙ぎ払いだ!「なんとぉっ!?」巡は危うくこれを跳躍回避!そこに「SHHH!」強烈な刺突!回避が間に合わない。そう判断した巡は歯を食いしばり両腕を交差。13 #4215tk

2015-09-19 18:39:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

鉤爪が巡の腕に触れた。その途端、暗い廊下を閃光が満たす!巡は顔を歪めた。痛みを感じる間も無く、両腕が消失。そのまま鉤爪が己の首へと「させるかァッ!」来る前に蹴り落とされる。背負われていた春が器用に巡を飛び越え割って入ったのだ!そのまま悪魔の横面に拳!14 #4215tk

2015-09-19 18:43:36
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その一撃は、しかし悪魔には届かない。黒く艶やかな鏃状の何かが彼女の攻撃を阻んだ。尻尾!春はその衝撃で飛び離れる。巡は一瞬の攻防の隙に背から蜘蛛足を展開、驚くべき速度で悪魔の魔手が届く範囲を逃れた。悪魔が歯を噛み締め、二体の怪異を睥睨する。15 #4215tk

2015-09-19 18:45:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ちょこまかと……!無駄な抵抗を続けやがってッ!」「そりゃあ続けますさ。死ぬのは嫌だもの……」巡が苦痛に顔をしかめながらも笑う。その腕が再生した。霊力を動員した、無理矢理な修復である。「参ったな、おい」その隣に着地した春が苦い顔をする。「こいつぁ無体な強さだ」16 #4215tk

2015-09-19 18:48:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ぶらぶらと腕を振る春。その肌が一瞬木目調に変わり、元どおりになる。「たとえあたいに全盛期の霊力があったとして、勝てるかどうか」「当然だ。自惚れるなよ小虫ども」尻尾を廊下に叩きつけ、悪魔が怒りに燃えた眼差しを向けた。「お前らとボクとでは、格が違う。歴史が違う」17 #4215tk

2015-09-19 18:51:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

巡は眉をひそめた。悪魔の呪詛めいた呟きは続く。「お前らみたいな精霊のなり損ないが生まれる千年以上も前から、我ら一族の暴威は人間どもに恐怖を刻んできた。赤き竜……七つ頭に十の角持つ偉大なる母の力がこの身には流れている。お前らごときに!負けるわけがない!」18 #4215tk

2015-09-19 18:54:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

悪魔が咆哮する。その言葉の意味を悟り、巡は戦慄した。目の前のそれの言葉が虚構でないのならば……!「……冗談だろ。なんでそんな存在がこんな世界の片隅の島国に来てあんな餓鬼に力を貸してやがる!悪い夢かなんかかこれは!?」「あ?知ってんのか、巡」春が首を傾げる。19 #4215tk

2015-09-19 18:57:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あたしゃ西洋の伝承には疎いが」巡が答える。その言葉はわずかに震えていた。「奴の言葉が事実ならあれはとんでもない存在だ。赤い竜。蛇の王……ああ、くそ。あの魔眼はバジリスク由来か」自らに喝を入れるかのように頬を張る。「あれは悪魔(サタン)だ。憤怒の象徴だ……!」20 #4215tk

2015-09-19 19:00:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「フン。ようやく格の違いがわかったか?」ゆっくりと。無造作に距離を詰めながら、悪魔が言う。「二度と忘れられないように、その体に刻みつけてやる」「それは御免こうむりたいですねえ」後退りつつ、巡は言う。心中では動揺を抑えるのに必死だ。まさか斯様な大物が現れるとは!21 #4215tk

2015-09-23 18:36:47
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『どうする、巡』『どうすると言われましてもね……』念話で囁きかけてくる春に、彼女は苦り切った答えを返すしかない。『正直、相手が悪すぎる。本来なら出会った時点で消されててもおかしくない手合いだ』『万に一つも勝ち目はねえか?』『無理でしょうねえ』22 #4215tk

2015-09-23 18:39:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

溜息をつき、巡が構えた。トリルが足を止め片眉を跳ね上げる。『あんまりやりたくない手だが……仕方あるまい。ここはあたしが引き受けます。春、あんたは若旦那のところへ』「おい!?」「話はついたか」愕然と声を出す春に、悪魔が首を傾げた。「まずお前からってことだな」23 #4215tk

2015-09-23 18:42:29
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そうなりますねえ。どうぞお手柔らかに」不敵に笑った巡は、ちらりと春を一瞥する。『行ってくださいよ、春。あんたが居なくなっちゃあ、山ン本組は終わりなんですから』ぎり、と。巡の耳に春が歯を軋ませる音が聞こえた。しかし小さな怪異はすぐにその場を離脱せんとする!24 #4215tk

2015-09-23 18:45:15
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