黄昏町(九板)七日目

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@hiiragi_r_t_d

【七日目】 【魂12/力1/探索2】 【異形】三ツ目(力+1、探索+2) #hollytk

2015-10-14 09:01:56
@hiiragi_r_t_d

「……はぁー」 疲れた。そう口にするのも億劫です。 「お腹……空きましたね」 考えてみれば、この町に迷い込んでから何も口にしていない。 そう認識した瞬間、お腹が大きく鳴った。 慌てて周りを見回す。……誰もいない。わたしはほっと胸をなでおろした。 01 #hollytk

2015-10-14 09:06:44
@hiiragi_r_t_d

しかしまだ油断はできない。わたしはパナマ帽を脱ぎ、額の眼を凝らした。視界に映る民家やブロック塀が薄れ、その向こうに息づく生き物達の魂がゆらゆらと揺れる。 民家の床下、塀の根本、その他あちこちに小さな魂。これはきっと虫なので、わたしはそっと意識から遠ざける。 02 #hollytk

2015-10-14 09:08:25
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ぐるりと見回したわたしは、後ろの塀の向こうに淡く光る魂を見つける。 「……はぁー」 聞かれたでしょうか。あの距離なら、聞かれていないかも。 「おや……」 謎の人影を一方的にジロジロと見ていたわたしは、あることに気付いた。 「あの人……わたしの同類ですね」 03 #hollytk

2015-10-14 09:11:02
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「やあ、気付かれてしまったようだね」 「ええ……まあ。こんにちは」 「こんにちは」 塀の後ろから歩み出て来たのは若い男。ギラギラと輝く、鋭い爪を右手に生やしている。 「君を迎えるかどうか、こうやって観察していたのだけれど」 ずっとつけられていたらしい。 04 #hollytk

2015-10-14 09:13:35
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「……迎える?」 男は大きく手を広げ、歓迎の意を表す。 「我々の『コミュニティ』にようこそ!」 「……はぁ?」 溜息混じりに疑問を表したわたしの肩を、男が爪のない左手で叩く。 「私や君のように異形故に人から追われた者が、それでも人らしく暮らす為の集団さ!」 05 #hollytk

2015-10-14 09:15:11
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「……はぁ」 「君も疲れたんじゃないかな?まずはお試しって事で。私と一緒に来れば、三食寝床付きだ!」 「……あの」 「なんだい?」 「その……下着、ありますか。破れてしまって」 「ええっ!?……いや、あるよ、うん。あるけど」 06 #hollytk

2015-10-14 09:16:31
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男はチラチラとわたしを……わたしの胸を見る。 「なんですか?」 「いっ、いや!なんでもないっ!君にも色々あるのだな、と思ってねっ!」 「……なんですか?早く案内してください」 「はい」 わたしは額の眼でギロリと睨みを効かせ、男に案内させた。 07 #hollytk

2015-10-14 09:17:32
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「ここです」 睨まれてから何故か口数の少ない男に案内され、わたしは一軒の大きな民家に辿りついた。 「ガレージからどうぞ」 「……はぁ」 玄関からは入れないらしい。 わたしはガレージに回り、入り口にかけられたノレンをくぐった。 09 #hollytk

2015-10-14 09:19:28
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ガレージには数人の男。 「お?誰だアンタ」「見ねえ顔だな」「なんか用か」 「……どうも」 警戒した様子で己の異形を構える男達に、わたしはのんびり挨拶した後で事情を説明した。 「そうか。で、アイツに拾われてきたと」 「……案内された、です。訂正して下さい」 10 #hollytk

2015-10-14 09:20:59
@hiiragi_r_t_d

安心した様子で男達が奥に声をかけると、家の中からわらわらと女子供達が出てきた。 「あらあら、こんなにボロボロ」「服も汚れてるじゃない!こっち来て着替えて!」「おねーちゃんあそぼー」「着替えさせたらね!」「「「わーい!」」」 11 #hollytk

2015-10-14 09:21:14
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「あっ、えっと、着替えは要らな、ちょっと、」 わたしはパワフルなおばさん達に囲まれたまま、家の奥へと運ばれていった。 12 #hollytk

2015-10-14 09:21:32
@hiiragi_r_t_d

「……疲れた」 もう夕陽は沈もうとしている。わたしはぼんやりと夕焼け空を眺めながら、手の中の豚汁をすすった。 子供達の相手をして疲れ切った体に、暖かい汁が染み渡る。 「暖かい……でも」 それだけだ。味が薄いし、具も決して多いとは言えない。 14 #hollytk

2015-10-14 09:21:59
@hiiragi_r_t_d

ずずず……と豚汁をすするわたしの隣に、爪の男が座る。 「新しい服、気に入ってくれたかな?」 わたしは自分の格好を見下ろす。おばさんの娘の物だという服を、一通り着せられて最後に残ったワンピース。 「……まあまあです」 15 #hollytk

2015-10-14 09:22:13
@hiiragi_r_t_d

「ここの暮らしはどうだい?気に入ってくれたかな?」 「……まあまあです」 わたしは豚汁をすする。隣で男も薄い豚汁をすする。 ずずず。ずずずずー。 先に豚汁を飲み干した男が椀を脇に置く。 「今日の豚汁を作ってくれたのは、笠居さん」 16 #hollytk

2015-10-14 09:22:26
@hiiragi_r_t_d

「ガレージにいた男三人は、右から佐々木、式沢、芒野」 男は次々と名前を挙げる。 「……名前を覚えるのは」 「まあそう言わずに聞いてよ。君が今日遊んだのは雨井ちゃん、磯田くん、右京くん、恵美ちゃん、落合くん。恵美ちゃんは君に服をくれた菊地さんの娘さんだ」 17 #hollytk

2015-10-14 09:22:42
@hiiragi_r_t_d

わたしは服をくれた押しの強いおばさんを思い出す。今は家の中で洗い物をしている。 「菊地さんには……恵美ちゃんにはお姉さんがいたんだ」 なるほど、それでわたしにぴったりの服がある訳だ。 「お姉さん……宮香ちゃんはこの集団のアイドルだった。よく笑う子でね」 18 #hollytk

2015-10-14 09:22:57
@hiiragi_r_t_d

「その笑顔にみんな救われていた……かくいう私もね」 男は寂しそうに笑う。そういえば彼と同年代の人間はこの集団には一人もいない。 「……好きだったんですか?」 「まあね。彼女の事を嫌いな人なんていないよ」 「そうですか」 19 #hollytk

2015-10-14 09:23:14
@hiiragi_r_t_d

男はわたしに向き直る。 「ここで暮らさないか」 わたしは首を横に振る。 「似たような事を前にも言われました」 誰も彼も、勝手だ。 「わたしはわたしです。あなたの彼女にも、おばさんの娘にも、少女の姉にもなれません」 鏑木君も、誰かをわたしに重ねたのだろうか。 20 #hollytk

2015-10-14 09:23:28
@hiiragi_r_t_d

「そうか。なんとなく、断られる気はしてたんだ」 男は泣きそうな顔で笑う。 「宮香も、きっと私の事を恨んでいる。私が殺したようなものだ。私が」「はぁー」 わたしはわざとらしく溜息をつき、男を黙らせる。 「……好きになった人の事くらい、信じたらどうなんですか」 21 #hollytk

2015-10-14 09:23:42
@hiiragi_r_t_d

男が目を見開く。 「あなたが惚れた女の子は、一度殺されたくらいで恋人を恨むような人なんですか?」 そう、一度「くらい」だ。 「はは……本当に、宮香みたいな事を言うね、君は……」 男は目元を乱暴に拭った後、立ち上がった。 22 #hollytk

2015-10-14 09:23:56
@hiiragi_r_t_d

「分かった。君の意思は私から伝えておくよ。……ありがとう」 「どうも。……おやすみなさい」 「おやすみ」 そして日が沈んで、わたしは眠りに落ちた。 23 #hollytk

2015-10-14 09:24:15
@hiiragi_r_t_d

──────── 【七日目】 【生存】 【魂+1】 【魂13/力1/探索2】 【異形】三ツ目(力+1、探索+2) 24 #hollytk

2015-10-14 09:24:27