黄昏町(柊)四十八日目

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@hiiragi_r_t_d

【四十八日目】 【魂14/力10/探索6】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鬼腕(力+5)、竜尾(力+5)、半透明(探索+3、力-3) #hollytk

2015-09-13 00:13:02
@hiiragi_r_t_d

[ハンドアウト]気が付くと、スケッチブックに誰かの顔を描いている。上手くできたと思ったのに、それが誰なのか、君には分からない。《開始地点[町]shindanmaker.com/541547#黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541552 #hollytk

2015-09-13 00:13:19
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「ここは………」 ここは住宅街にポツンと立つビルの上。遮る物のない屋上に冷たい風が吹き抜ける。 私は頭に右手を当て、昨日の事を思い出す。 「ああ、私はまた死んだのですね」 足元には小さなスケッチブックが、風にページをめくられていた。 01 #hollytk

2015-09-13 00:13:55
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不意に風が止み、スケッチブックは一つのページで止まる。そこには誰かの顔が描かれていた。 ふと見た左手には、一本のちびた鉛筆。 どうやら、この絵を描いたのは私らしい。 私が描いたにしてはうまくできているが、一体これは誰の顔なのだろう…心当たりが全く無い。 02 #hollytk

2015-09-13 00:15:27
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ビジネスで会った誰かの顔が、たまたま記憶の底にこびりついていたのだろう。 私はそう結論づけると、スケッチブックをポケットにしまった。 「今日も夕焼けが綺麗ですね」 白い鰯雲が、赤い空に映える。 私はごろりと転がって、ゆっくりと空を眺める事にした。 03 #hollytk

2015-09-13 00:17:43
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──────────── 04 #hollytk

2015-09-13 00:19:32
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「…にいさん………にいさん……」 どこかから声が聞こえる。 「にいさん……起きて、にいさん…」 私は目を開ける。どうやら眠ってしまっていたようだ。 起き上がって周囲を見回すが、ビルの屋上には誰もいない。 「………ユキ?」 05 #hollytk

2015-09-13 00:21:36
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「……にいさん…」 声は確かに聞こえるのに、ユキの姿は見えない。 ユキは幼い頃に火事に巻き込まれ、長い間入院していたのであまり身体が強い方ではない。傷を負った呼吸器では長くは走れないし、途切れ途切れにしか話せない。 早く見つけて、私が一緒にいてやらないと。 06 #hollytk

2015-09-13 00:23:21
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私は素早く立ち上がり、どこかにいるユキに叫んだ。 「すぐに行く!そこでじっとしてろ!」 「……わかった…」 声は壁で反響し、どこから聞こえているのか判然としない。 私はビルの屋上から飛び降りた。 07 #hollytk

2015-09-13 00:26:24
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瓦を砕きながら隣の民家の屋根に着地した私は、立ち止まって耳を澄ませる。 昔、私とユキが幼かった頃、まだユキが入院する前。こうやってよく隠れんぼをして遊んでいた。 息を止め、自分の心音を無視し、ユキの立てる音を探す。 08 #hollytk

2015-09-13 00:28:18
@hiiragi_r_t_d

カラスの鳴き声、なにかの足音、町に潜んだ人々の息遣いと衣ずれ。 昔、自分の家でやったときよりもずっと広く、敏く、聴くことができる。 それがどの異形によるものかは分からないが、この状況ではありがたい。 私は自らに宿った異形に感謝しながら、さらに耳を澄ませる。 09 #hollytk

2015-09-13 00:30:37
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さらに感覚が研ぎ澄まされていく。 結晶化した身体が周囲の音を増幅し、私に届けてくれる。 ………………………左前方、約200m。 聞き慣れた衣ずれの音と、不規則な息遣い。 間違いない。ユキだ。 私はその場でしゃがみ込み、太く変化させた竜尾をたわませる。 10 #hollytk

2015-09-13 00:32:09
@hiiragi_r_t_d

竜尾に溜め込まれた力が開放され、屋根瓦を大きく破壊しながら私は宙を舞った。空中で尾を伸ばし、前方の電柱を掴む。数秒で私は200m近く移動した。 「ユキ!どこだ!」 電柱から降り立ち、私はユキの名を呼んで歩く。 「にいさん……こっち…」 11 #hollytk

2015-09-13 00:34:34
@hiiragi_r_t_d

私は声の方向へ最短距離で走る。民家の庭を抜け、柵を飛び越え、ブロック塀を殴ってぶち抜く。 三つ目の民家を抜けた先、室外機の上にユキは座っていた。 お気に入りの白いスカートに白いブラウス。首元にゆるく巻いた黒いマフラーの先を、吹き抜ける風に遊ばせている。 12 #hollytk

2015-09-13 00:36:24
@hiiragi_r_t_d

「ああ、よかった。無事だったか」 「よかった…見つけてくれた」 私はユキに歩み寄り、私が贈ったマフラーを巻き直してやる。 「ここは風が強い。身体に障るぞ」 「だいじょうぶ……これがあるから、暖かいよ」 ユキはマフラーを押さえてにっこりと微笑む。 13 #hollytk

2015-09-13 00:38:11
@hiiragi_r_t_d

「まったく、仕方ないな」 今日はいつもより調子がいいようだから、しばらく好きなようにさせてやろう。 「じゃあ………連れて行ってよ」 ユキが座ったまま、私に両手を差し出す。 「わたしも……にいさんと、一緒に…いろんなものが、みてみたい」 14 #hollytk

2015-09-13 00:40:14
@hiiragi_r_t_d

「ユキがそれを望むのなら、どこへだって連れて行ってあげるよ」 その為に私は、カネとコネを作り上げたのだから。 日本にとどまらず、世界中に土地を買い、家を建て、身体の弱いユキでも楽しめるように移動手段も手配する。 その為に私は生きているのだから。 15 #hollytk

2015-09-13 00:42:27
@hiiragi_r_t_d

私はユキの手を取り、立ち上がらせる。 「どこに行きたい?」 「ううん、どこでもいいの。にいさんと……一緒にいられたら」 私はその言葉に胸が苦しくなる。 彼女の身体は既に限界が近い。医者からもあと数年と言われ、残りの時間を自由に過ごすために退院した身なのだ。 16 #hollytk

2015-09-13 00:44:13
@hiiragi_r_t_d

「ユキ……」 「………わかってる。わたしはもう、ながくない。だからわたしが動けなくなって、にいさんの前からいなくなるまでは」 ユキが私の手を握る。 「わたしの、にいさんでいて欲しい」 17 #hollytk

2015-09-13 00:46:34
@hiiragi_r_t_d

私もユキの手を握る。 「ユキがいなくなっても、私はユキの幼馴染みの四十住 九だよ。それ以外の選択肢なんて、私には無い」 ユキは少しだけうつむいて、私の手を離す。 「わたしがいなくなったら、わたしの事、忘れてほしい」 「そんな事、言うなよ」 18 #hollytk

2015-09-13 00:48:16
@hiiragi_r_t_d

私はユキの少し冷たい手を取る。 「だって……わたしがいなくなったら、にいさんは…一人ぼっちになってしまうから」 「それでも構わない」 ユキがいなくなった後の事なんて考えたくもない。 「それは、駄目だよ。わたしがいなくなっても、にいさんは生きていくんだよ?」 19 #hollytk

2015-09-13 00:50:25
@hiiragi_r_t_d

「ならいっそ」「わたしのあとを追う、なんて許さないから」 私の言葉を遮って、ユキが言い放つ。 「私…兄さんの事、ずっと見てるから。だからちゃんと、私の事は忘れて」 私はやっと、違和感に気付く。 今のユキは明らかに、調子が良いという範疇を超えている。 20 #hollytk

2015-09-13 00:53:11
@hiiragi_r_t_d

私の困惑を見て取ったのだろう。ユキは少し哀しそうな顔をする。 「あ、バレちゃったんだね。兄さんに隠し事は出来ないなあ。」 「ユキ?」 「じゃあね、兄さん。いつでも見てるから」 視界が歪む。もやがかかり、意識が薄れていく。 21 #hollytk

2015-09-13 00:55:38
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2015-09-13 00:57:13
@hiiragi_r_t_d

「……う、ううむ」 私は目を開ける。夕焼け空が視界いっぱいに広がり、風が頬を撫でる。 「………夢?」 また寝てしまっていたらしい。疲れているのだろうか? しかし不思議な夢だった。 ふと枕元を見ると、そこには小さなスケッチブックが開いてある。 23 #hollytk

2015-09-13 00:59:12