黄昏町(柊)七日目

場面転換の────────が検索に引っかからないので22が抜けています。 初日/一日目→http://togetter.com/li/849906 前日/六日目→http://togetter.com/li/854202 翌日/八日目→http://togetter.com/li/855142
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@hiiragi_r_t_d

【七日目】 [ハンドアウト]気が付くと、君は誰かの手を引いて早足に歩いている。だが振り返ると誰の姿もなく、手の中の体温だけがほのかに残る。《開始地点[町]shindanmaker.com/541547#黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541552 #hollytk

2015-07-31 10:30:35
@hiiragi_r_t_d

私は急いでいた。安全な場所を探していたのだ。 しかしこの町に安全な場所などあろうはずが無い。 どれだけ歩いたか。もう足が動かないのだろう。引いていた手が離れる。 「疲れたのか?なら…」 振り向いた路面には、誰もいなかった。 01 #hollytk

2015-07-31 10:31:12
@hiiragi_r_t_d

「え…………おい、どこ行った!△※○□!」 私はあの娘の名を呼ぶ。知らない場所であの娘が私から離れるはずがない。いったい何処に? 「……にいさん…………」 どこか遠くから、あの娘の声が聞こえた。 02 #hollytk

2015-07-31 10:32:04
@hiiragi_r_t_d

「△※○□!そこでじっとしてろ!すぐに行く!」 「……わかった………」 あの娘をこんな町で一人にしておく訳にはいかない。もし一人の時に発作が起きたら、大変なことになる。 …………………こんな町で?ここはどこだ? 03 #hollytk

2015-07-31 10:33:28
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私は周囲を見渡す。黄昏に染まった町。 私は両手を見下ろす。裂け目の入った右手と、異常に長い左手。 ここは、黄昏町だ。 なぜここにあの娘がいる? 04 #hollytk

2015-07-31 10:34:10
@hiiragi_r_t_d

考えるのは後だ。早くあの娘を見つけ出して、それから考えてもいいだろう。 先程声のしていた方に向かって、私は走りだす。 「△※○□!大丈夫か!?返事しろ!」 「……だいじょうぶ………」 05 #hollytk

2015-07-31 10:41:09
@hiiragi_r_t_d

大丈夫だ。あの娘は私に嘘をつかない。あの娘が大丈夫だと言うなら、しばらく発作は起きないだろう。 「なっ……………!」 目の前にはブロック塀。右にも左にも、霞むほど遠くにまで続いている。 「こんな時に………っ!」 06 #hollytk

2015-07-31 10:42:09
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あの娘は大丈夫だと言うが、バケモノに会う可能性は否めない。このようなふざけた立地の屋敷に付き合って迂回している暇はないのだ。 私は左手を見つめる。この腕なら……この身体に宿る異形なら、できるはずだ。 07 #hollytk

2015-07-31 10:43:14
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私は左手をブロック塀にかけ、あっさりとよじ登った。 「次は………あそこか」 庭に植えられた松の枝が一本、大きく張り出している。 ブロック塀からは2m以上離れているが、あそこしか道はない。 08 #hollytk

2015-07-31 10:43:49
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「ふっ………!」 立ち幅跳びの要領で勢いよく前に飛ぶ。しかしまだ足りない。私は左手を伸ばす。 長い指の先が、かろうじて枝に届いた。 「こ………んのっ……っ!」 左手の数本の指に全体重が集中する。肩がビキビキと悲鳴を上げる。 私はゆっくりと枝に這い上がった。 09 #hollytk

2015-07-31 10:44:22
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枝から枝へ。手頃な位置に枝がない時は幹を右手で噛むなどといった荒業もこなしながら、私は一番高い枝に着いた。 目の前には二階の窓。私を小馬鹿にするかのように左右に延々と続いている。 この屋敷を通り抜けなければ、あの娘の元には行けない。 私は迷わず飛び込んだ。 10 #hollytk

2015-07-31 10:46:21
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そこは書斎であった。 机の上に広げられた血まみれの原稿用紙の上に私は転がり込んだ。 苛立ち混じりに左の壁を殴りつける。左手の細長い手形が、大きな窪みとして残る。壁をぶち破るという訳にはいかないようだ。 11 #hollytk

2015-07-31 10:47:26
@hiiragi_r_t_d

「クソっ、出口は………」 目の前には大きな本棚。得体の知れない本が並んでいる。 霊魂と化物、エインヘリアル、死と復活、逢魔ヶ刻、…………… 「……胡散臭い」 この本棚だけラインナップが異常だ。私は迷わず本棚を引き倒した。 12 #hollytk

2015-07-31 10:48:06
@hiiragi_r_t_d

本棚の後ろには引き戸。私は迷わず引き開ける。引き戸の向こうには燃え盛る廊下が広がっていた。 熱気と煙が立ち込め、先は全く見通せない。 しかし、だからといってここで立ち止まっている暇はない。 私が燃え死ぬことよりもあの娘の方が、今は気がかりだ。 13 #hollytk

2015-07-31 10:48:35
@hiiragi_r_t_d

「ぐっ…………」 私はゆっくりと一歩を踏み出す。靴越しに廊下の熱が伝わり、足の裏がジュウジュウと音を立てる。 一呼吸ごとに煙が肺を焼く。 しかし、この程度で音を上げる訳にはいかない。 あの娘は12の時にこれを耐えて、私を救ってくれたのだから。 14 #hollytk

2015-07-31 10:49:09
@hiiragi_r_t_d

意識が朦朧とする。 視界が揺らぐ。 しかし私はついに、窓にたどり着いた。 15 #hollytk

2015-07-31 10:50:04
@hiiragi_r_t_d

私は窓から身を乗り出し、叫ぶ。 「△※○□!もうすぐだ!あと少しだからな!」 「…にいさん…………むりしないで………」 いくらあの娘の頼みでも、それは聞けない。 あの娘に救われた私の命は、既にあの娘の物なのだから。 16 #hollytk

2015-07-31 10:51:16
@hiiragi_r_t_d

私は窓枠に足をかけると、迷わず飛び出した。 二階からの前転飛び込み。左手で衝撃を逃がす。 「意外とうまくいくもんだな」 アクション映画の見よう見まね。本来なら大怪我だろうが、異形があれば何の問題もない。 17 #hollytk

2015-07-31 10:52:12
@hiiragi_r_t_d

あとはブロック塀が1枚。この向こうにあの娘がいる。 左手をかけてブロック塀を乗り越える。 果たしてあの娘……ユキは、そこにいた。 18 #hollytk

2015-07-31 10:53:53
@hiiragi_r_t_d

「よかった………無事だったんだな!」 「…にいさん……また、むちゃを……」 ユキは声帯に傷があり、ゆっくりとしか話せない。だがその途切れ途切れの声からも、ユキが私を心配していることが十分に伝わる。 なんだ。私はまた、無駄に気を回して暴走していたらしい。 19 #hollytk

2015-07-31 10:54:18
@hiiragi_r_t_d

「ごめんよ、ユキ」 「……いいの……にいさんだもの…しかたないわ………」 ユキが絡むといつも私は暴走してしまう。その後こうやって許してもらう。 そうだ。これが私の日常だ。 20 #hollytk

2015-07-31 10:55:27
@hiiragi_r_t_d

「じゃあ、行こうか。」 「ええ……でも」 「なんだい?」 「こんどは………もっとゆっくり、あるいてくださいね」 21 #hollytk

2015-07-31 10:56:05
@hiiragi_r_t_d

「じゃあ、行こうか。」 「ええ……でも」 「なんだい?」 「こんどは………もっとゆっくり、あるいてくださいね」 21 #hollytk

2015-07-31 10:56:05
@hiiragi_r_t_d

幸せな夢を見ていた。あの娘がまだ生きていて、私と一緒にこの町に来る夢。 ………幸せな夢? 23 #hollytk

2015-07-31 10:59:04
@hiiragi_r_t_d

違う。この町は幸せなどではない。 ユキの幸せはここにはない。この町にあるどんな異形でも、ユキの喉と肺を治す事は出来ないだろう。 ならそれは、ユキを守りたいという私の願望の押し付けだ。 24 #hollytk

2015-07-31 11:00:50