黄昏町(柊)十日目

初日/一日目→http://togetter.com/li/849906 前日/九日目→http://togetter.com/li/856097 翌日/十一日目→http://togetter.com/li/856933
0
@hiiragi_r_t_d

【十日目】 【魂11/力4/探索3】 【異形】複口(力+2、探索+1)、長指(力+1、探索+2)、鱗(水耐性、力+1) #hollytk

2015-08-04 22:34:09
@hiiragi_r_t_d

私はヒタヒタと歩みを進めていた。 抜き足差し足忍び足。 20mほど前方には、男達。 「いやー楽勝だったな!」 「当然だろう?俺達のチームワークをもってすればバケモノの一匹や二匹、楽勝だぜ!」 「おいおい、塀の中に戻るまでは気を抜くなよ」 01 #hollytk

2015-08-04 22:35:04
@hiiragi_r_t_d

仲のよろしいことだ。私が生きているとも知らずに。 自分を殺して親睦を深めた集団を眺める、というのはあまり気分の良いものではない。 気分の良いものではないが、さりとて今出ていくのも賢い判断とは言えない。 私は黙って後をつけた。 02 #hollytk

2015-08-04 22:36:12
@hiiragi_r_t_d

「帰ったらまずは報告だ。フィルムもすぐ現像に回す」 「喜んで下さるかな」 「当然だろ?俺達の初仕事なんだぜ?」 「俺達も晴れて大人の仲間入り、だな」 男達が初めて敬語を使った。やはり彼らのコミュニティには絶対的なリーダーがいるのだろう。 03 #hollytk

2015-08-04 22:37:33
@hiiragi_r_t_d

「でも俺達はまだまだこんなとこじゃ終わらねえ、もっと上を目指すんだ!」 「ああ、ゆくゆくは『駆除班』に入って、」 「この手でバケモノどもをブチ殺して献上する!」 「殺れば殺るだけいい暮らしができるしな!」 ……………反吐が出る。私達を何だと思っているのだ。 04 #hollytk

2015-08-04 22:38:39
@hiiragi_r_t_d

こんな確たる自己を持たない、誰かの手の上で踊る事しかできない屑の、下らない自尊心の為に私は殺されたのか? 私達は獣ではない。理性を持つれっきとした人間なのだ。 たとえ身体が人外に成り果てても、心は………魂は、ヒトなのだ。 05 #hollytk

2015-08-04 22:39:10
@hiiragi_r_t_d

『駆除』されるべきなのは……どちらだ? 06 #hollytk

2015-08-04 22:40:09
@hiiragi_r_t_d

腕が軋る。 口が、指が、鱗が、殺意を謳っているのだ。 殺せ、喰らえと叫んでいるのだ。 しかし、私はその声に耳を傾けない。 ここで異形に負ければ、私もまた彼らと同じだ。 私にはもう、生きる理由は無い。そんなものはユキと一緒に死んだ。 07 #hollytk

2015-08-04 22:41:18
@hiiragi_r_t_d

だが、誇りはある。 『私』として生きろ、というユキの遺した言葉を、私は果たさなければならない。 それさえ出来ないのならば、私に存在の資格などない。 08 #hollytk

2015-08-04 22:42:17
@hiiragi_r_t_d

「……………よし」 私は覚悟を決める。 彼らの指導者と、直接話さなければなるまい。 彼らの指導者が異形についてどこまで知っているのかは定かではない。 しかし、私達が生き返るという事を知らない可能性は高いだろう。 09 #hollytk

2015-08-04 22:43:32
@hiiragi_r_t_d

私が真実を語る事で、私達を殺す事に意味などないと悟ってくれれば……この蛮行を辞めさせることが、出来るかもしれない。 ……この案には穴がある。その指導者が狂っていれば、受け入れられはしないだろう。 10 #hollytk

2015-08-04 22:44:29
@hiiragi_r_t_d

そして、成否に関わらず私は一度死ぬだろう。 まあ一度くらいは構わない。火炙りは勘弁してもらいたいが、それでこの愚かな争いが終わるのなら仕方がない。 11 #hollytk

2015-08-04 22:45:51
@hiiragi_r_t_d

男達が大きな門の前にたどり着いた。中に向かって呼びかける。 「丙班、今帰ったぞ!」 「了解した!すぐ開ける!」 バリケードの内側で応える声。かなりの人数がいるようだ。 12 #hollytk

2015-08-04 22:46:27
@hiiragi_r_t_d

男達がたどり着いた門は、元々は低いゲートだったのだろう。鉄製の腰ほどの高さの骨組みに無理やり壁を打ち付け、5mほどの高さに仕立て上げている。 どう見てもこの壁自体に防御能力があるとは思えない。 安心する為だろうか?こんなチャチな壁で安心できるものか? 13 #hollytk

2015-08-04 22:47:16
@hiiragi_r_t_d

ズガガガガガ……… 私が考えを巡らせるうちに内側の準備が整ったのだろう。明らかに限界を超えている車輪に悲鳴を上げさせながら、門は開いてゆく。 門の奥にあったものに、私は絶句した。 14 #hollytk

2015-08-04 22:48:28
@hiiragi_r_t_d

壁の内側には、人、人、人。 元は何らかの公的機関だったのだろう。広い中庭とそれに繋がる通路には数え切れない程の屈強な男達。 建物の窓からは女子供や老人が顔を覗かせている。 そして、それら全ての顔は、中庭の中央に立つ男に向けられていた。 15 #hollytk

2015-08-04 22:49:38
@hiiragi_r_t_d

「これほどの人間がまだこの町にいたとはね…」 これだけいれば、あれだけ楽天的になれるのもうなずける。 いや、そんな事は問題ではない。 中庭の中央に立ち、群衆の視線を集めてなお顔色一つ変えないその男は… 無数の「毛革」と「鱗革」で出来た服に身を包んでいた。 16 #hollytk

2015-08-04 22:50:27
@hiiragi_r_t_d

綺麗になめされた毛革と鱗革を繋ぎ合わせ十重二十重に纏った姿は、遠くから眺める私をもってして「王者の風格」を感じさせる威容であった。 数多の化け物の死骸を身に纏い、腰に剣を吊ったその男がどんな目で群衆を眺めているのか、ここからではうかがい知ることは出来ない。 17 #hollytk

2015-08-04 22:51:29
@hiiragi_r_t_d

「[王]、ただいま戻りました」 五人組が揃って片膝をつき、頭を垂れる。 「[王]御自らお出迎え頂けるとは、光栄の極みでありますっ!」 「よい。それで、成果は如何に」 「はっ!」 一人がフィルムカメラを捧げ、告げる。 18 #hollytk

2015-08-04 22:52:22
@hiiragi_r_t_d

「溜め池の罠にて、バケモノ一匹を発見。丙班全員でこれを処分いたしましたっ!」 自らの初めての成果を報告する男の声は、抑えきれぬ興奮で上ずっていた。 「ついに丙班も殺ったか…」「これでこの世代も全て終わったな」周囲を取り囲む大人達は口々に囁きあう。 19 #hollytk

2015-08-04 22:53:07
@hiiragi_r_t_d

『静粛に。これより成人の儀を執り行う』スピーカーから冷たい声が響く。男達のざわめきが水を打ったように静まり返る。 『これより、丙班の成人の儀を執り行う。丙班、前へ。』 五人が前へ数歩進み出る。 [王]と呼ばれる男が厳かに告げる。 20 #hollytk

2015-08-04 22:54:14
@hiiragi_r_t_d

「汝らは、我が領域を侵さんとする物の怪を人に先んじて見付け、その害を未然に絶った。 この行いにより、我が民、我が領域、我が国は護られた。 よって、貴君等五名の所属を、本日をもって駆除予備役とし、加えて二階級の昇進とする。」 21 #hollytk

2015-08-04 22:55:08
@hiiragi_r_t_d

五人を代表して最も右の男が答える。 「ありがたきお言葉、この身に余る光栄であります。」 「よい。今後も我と我が国の為に、最善を尽くせ」 「はっ!」 『略式ではあるがこれを以て成人の儀を終わる。解散』 スピーカーの声が、厳かな時間の終わりを告げた。 22 #hollytk

2015-08-04 22:56:03
@hiiragi_r_t_d

そこにいた全員の緊張が緩んだ瞬間、私は数歩進み出ると、声を張り上げた。 「失礼する!」 私の異形を見た女子供が慌てて窓際から逃げる。男達が殺気立って武器を構える。 「バケモノ風情が、ここを何処だと心得るか」 鱗革を着込んだ[王]の側近が日本刀を抜き放つ。 23 #hollytk

2015-08-04 22:57:35
@hiiragi_r_t_d

「私は君達の統治者…[王]に話があって来た!敵意はない!」 「問答無用、今すぐ叩っ切ってその革、鎧の飾りにしてくれる」「よせ」 唐突な命令に理解が追いつかない様子の側近に、[王]はもう一度、言い放つ。 「我に話がある、と申すのなら聞いてやろうと言っている」 24 #hollytk

2015-08-04 22:58:45