【第0話】魔法少女の戦跡【連作】

オリジナル(?)魔法少女モノです。
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正露丸の人 @seiroganner

――魔女狩り。世界のことごとくを荒廃させた《魔大戦》の咎を、人々は魔女に求めた。それは巧妙なプロパガンダであり、恐慌状態に陥りかけていた人々のガス抜きではあった。スケープゴートとしての役割を振られた魔女は地下に潜り、歳月が流れた。人々の記憶には魔女への畏怖と嫌悪だけが残った。

2011-01-09 23:18:46
正露丸の人 @seiroganner

銃声。間近の壁の角が弾けた。体を竦めたりはしないが、ちょっとビビる。アルは振り向きもせず、背後の二人に声をかけた。「カナは狙撃点確保。マナは目くらまし。その後、私が突っ込むから」後ろでひとりが遠ざかり、ひとりが息を呑むのがわかった。アルはポニーテールを片手で払い、舌舐めずり。

2011-01-09 23:25:48
正露丸の人 @seiroganner

「アルちゃん……、いくよ?」「ああ」隣に進み出たツインテールの少女は長い杖に体を預けるようにしていた。杖を握る手は微かに震えているが、アルは敢えて無視。杖の先端には淡い光が集まりはじめている。魔法の行使には問題はないはずだった。短い呪を口の中で唱える。杖を一振り魔法が発動する。

2011-01-09 23:31:50
正露丸の人 @seiroganner

《閃光》の魔法に殺傷能力は無い。太陽もかくやというほどの強烈な光を任意の場所に炸裂させるだけのものだ。魔法が発動すると同時、アルは物陰から飛び出していた。目を伏せて走る。この辺りの地形は把握しているから問題ない。「うわっ!?」《閃光》を浴びた相手の声から位置を推測。一気に詰める。

2011-01-09 23:35:35
正露丸の人 @seiroganner

アルが目を開けると、果たしてそこに「敵」はいた。小型のマシンガンで武装した青年だった。躊躇うことなく青年の顎を右の拳でブチ抜く。拳は《衝撃》の魔法で強化している。一撃必倒。昏倒した青年に一瞥もくれず次の獲物へ。《閃光》の効果時間は短いが、それでも余裕だった。二人目を難なく無力化。

2011-01-09 23:40:45
正露丸の人 @seiroganner

次の瞬間、遠くで乾いた音が響いた。銃声! アルの頬を力の塊が掠めて飛んだ。「伏兵?」しまった、とアルは思った。近接特化のアルは距離を空けられると厳しい。だからこそ《閃光》で奇襲したのだ。幸い一発目は当たらなかったが、距離を詰めるまで幸運が続くとも思えない。

2011-01-09 23:44:12
正露丸の人 @seiroganner

マナに支援を頼もうにも物陰から出てくる様子はない。あの臆病なマナにそこまで期待はできない。やるしかないか。乾いた唇を舌舐めずりで湿して、アルは特攻の覚悟を決めた。《疾風》の魔法で脚力を強化しかけた時だった―― 再度、銃声が響いた。

2011-01-09 23:46:08
正露丸の人 @seiroganner

アルの身に衝撃はこない。やや離れた場所に隠れていた敵が麿美出るように倒れ伏した。「カナ!」振り仰ぐと民家の上空に“浮いた”黒髪の少女が長大な狙撃銃を構えていた。「助かったよ!」アルの明るい声にカナは軽く手を挙げて応えた。

2011-01-09 23:48:56
正露丸の人 @seiroganner

「じゃ、帰ろっか」アルは倒れた敵の胸元のバッヂを忌々しげに睨んだ。十字架と天使の羽と輪を組み合わせた意匠。それは《軍》の尖兵たる《天使》の証だ。「魔女狩りなんてクソ喰らえ」吐き捨て歩き出すアルの後ろを杖持ったマナがよたよたと、狙撃銃を担ったカナが油断なく追う。

2011-01-09 23:54:48
正露丸の人 @seiroganner

彼女らは魔女の末裔。すなわち、狩られるべき存在である。人は彼女らを、魔法少女と呼ぶ――

2011-01-09 23:55:33