日露戦争中の聖ニコライの御言葉「あなた方は天皇とその勝利等のために祈りなさい」を解説

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１）お返事が大変遅くなり申し訳ありません。「聖ニコライが、日露戦争中に、日本軍のために祈れ、みたいな事を言っていたと聞きましたがそれは本当なのか、またそれはどのように説明されるのか」という御質問内容だったかと思いますが、個人として判る範囲でお答え申し上げます続 @KimK91fw

KimK/ふるくらむ @KimK91fw

@suzutuki1980 あっ、「日本人信徒は明治天皇の為に祈りなさい」ですね。一応補足しておきます！

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

２）申し訳ありません、「日本人信徒は明治天皇の為に祈りなさい」について、ですね。御断り申し上げますと、私は一司祭であり、日本正教史を専門に学んだ事も全くありません。ですので「私の知っている範囲で手持ちの資料でお答え出来る範囲」に止まります事を御許し下さい。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

３）残念ながら聖ニコライの全日記は私の手許には無いのですが、岩波抜粋版 amazon.co.jp/%E3%83%8B%E3%8… の1904年1月25日を見ますと、聖ニコライが日露戦時中の祈祷についてどのように支持したかが書かれています。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

４）以下、指示内容要約 ◇戦争が終わるまでは、ニコライ師は日本人信徒達と一緒には聖体礼儀には加わらない（司祷・陪祷しない、という意味であって、共に聖堂に入らないという意味では無い模様） ◇あなた方の天皇、その勝利などのために祈りなさい 続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

５）◇祖国を愛するのは当然であり、その愛は神聖なものだ。救世主御自身もその祖国を愛し、エルサレムの不幸な運命に涙された。 ◇ここがロシアの教会ではなく日本の教会である事が分からない人々が愚かな挙動に走らないよう、鐘を鳴らすのは当分止めようと思う。 要約終、続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

６）この祈りについての指示を、「偏狭なナショナリズムを容認する」と読むのは無論誤りで、当時の日本正教会がロシア人捕虜たちの教会生活面のケアに尽力した事実がありますし、それは聖ニコライの指導でもありました。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

７）また、二つの世界大戦やユダヤ人大虐殺がまだ起きて居ない時代に生きられた聖ニコライの御言葉を、国家・戦争・軍隊についての現代的課題にそのままコピーして適用することを、私は可能だとも思いませんしすべきとも思いませんが、しかし全否定する事も不可能とも思います。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

８）重要なのは、「諸君は天皇のために、天皇の軍隊のために祈りなさい」と仰ったのが、他ならぬ「敵国人」でいらしたロシア人たるニコライ師でいらした点です。これを「聖ニコライ個人の性格」と捉えるのは誤りです。正教会には戦時とまではいきませんが前例があります。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

９）オフリドの聖フェオフィラクト ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA… という、聖書注解で最も有名な一人でいらっしゃる聖人が正教会にいらっしゃいます。オフリドは現代ではマケドニア共和国の首都ですが、当時は東ローマ帝国の版図でした。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１０）で、第一次ブルガリア帝国から東ローマ帝国がこのオフリドを含むマケドニア地域を「奪還」したばかりの時期にオフリドに着任された、ギリシャ人の聖フェオフィラクトは、精神的指導に精力的に働かれた一方で、続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１１）東ローマ帝国によって降格されたオフリド大主教区の自治性を守るよう努めました。 chrysostompress.org/theophylact_of… つまり「祖国の利益」よりも、「自分の着任地の信者のために働く」という主教の本分に忠実であろうとされました。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１２）聖フェオフィラクトの場合「占領地で働く主教」であって「有事の言動」例ではありませんが、つまりは聖ニコライの言動を単なる「19世紀的な愛国心称揚」と捉えては、「自分の教区信徒のために働く主教」としての正教会の伝統の存在を視野から外してしまう事になり訳です続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１３）「自分の教区信徒のために働く主教」、「（弾圧しているローマ皇帝のような者であっても）君主の為に祈る」という伝統（テモテへの手紙一2章1節）」、「爾の敵の為に祈れ」といった、聖書を含めた正教会の聖伝の総合が、聖ニコライの言動の背後にあります。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１４）注意しなければなりませんが、「天皇の為に」「皇軍の為に」祈る場合、個人的な繁栄や勝利とかだけを祈っているものではありません。例えば正しい在位、国家の安寧、軍隊が残虐な事をせず犠牲が彼我共に最小限になるように、といった内容が祈りの中には含まれるでしょう。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１５）勿論、現代からは「『犠牲が彼我共に最小限になるように』等を祈るというのは古典的な正戦論に留まるものであって現代での平和への希求には不十分である」という批判的考察の余地がある事は付言しますし、軍隊自体に否定的な正教会の聖職者・信者も、現代には居ます。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１６）様々な見解がありますが、「戦争も軍隊も無いのが最上であるが、現実問題として『在る』以上、そこに居る人々の災厄・残虐が最小に留まるよう切に祈り願う事を、現代においても否定することはできない」というのが、（あくまで）私個人の見解です。続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１７）私からのまとめ ◇聖ニコライの言動は単なるナショナリズム肯定ではない事は捕虜への活動にも顕れている ◇聖ニコライの言動には19世紀の思想潮流というより、正教会の聖伝の総合がある ◇聖伝の生き方である以上、現代にコピーは不可能であるが、全否定は不可能 続 @KimK91fw

涼月（Κλήμης） @suzutuki1980

１８）以上です。長文をお読み頂き、ありがとうございました。 @KimK91fw

KimK/ふるくらむ @KimK91fw

@suzutuki1980 本当にありがとうございました。正教会の伝統等、多様な要素が含まれた行動だったのですね。