『シヘンと少年少女』(とある町にて)

シヘンのとある町での風景です。基本、こんな感じのリプを返しますよっというサンプルです。
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天晶 @tensyou99

吾が名はシヘン 捧げるがいい 受け取るがいい 吾が身の一部を与えよう 引かねば凶事が降りかかろうぞ 恐れる無かれ喜ぶ無かれ それは導なりて導にあらず ただし、代償が対価とは限らぬぞ

2015-10-23 23:52:15
天晶 @tensyou99

街角を、何かが歩いていた。 人ほどの大きさだ。だが、人には見えない。 紙屑をうずたかく積み上げたような雰囲気である。よくよく見れば、やはりそれは全て紙であった。#シヘン

2015-10-23 23:55:33
天晶 @tensyou99

様々な大きさや材質の紙が折り重なり、積み上がり、人ほどの大きさを形成していた。全体的には白が主となっている。しかし、所々に別の色が散っていた。色にも配置にも法則性を認めることはできない。

2015-10-23 23:56:58
天晶 @tensyou99

全体を形成している紙の中でも頭部と思われる部分に埋もれるようにして、顔があった。瞳は閉じられ、唇にはうっすらとだが笑みのようなものが浮かべられている。 赤みは僅かにさしている。しかし、どこか全体的な格好と相まって無機質なものを感じさせた。

2015-10-23 23:59:26
天晶 @tensyou99

ソレが歩くたびに複数の鈴と、紙ずれ合わさったような涼やかな音が響いた。何処からしているのかはわからないがふと耳につき、視線を引く。 その紙の山を先導するように、小さな黒い箱がひょこひょこと前を歩いている。

2015-10-24 00:00:43
天晶 @tensyou99

正方形の装飾のない箱だ。だが、底面から短く先の丸い4本の足の様なものが生えている。その小さな足を動かし、進んでいる。進んでいる方向の面には薄い横長の長方形の線が付いていた。真ん中より少し上付近にそれは位置しており、どこかポストのような雰囲気をかもし出している。

2015-10-24 00:02:58
天晶 @tensyou99

まるで何かの冗談のような光景と、歩く度に響く涼やかな音に、人々の視線が集まっていく。 そして、それは公園の一角でその歩みを止めた。 一本の木の下に立ち止まり、木を背にした白い紙の山。それのすぐ右隣よりも一歩前のところに黒い箱が位置する。

2015-10-24 00:04:07
天晶 @tensyou99

遠巻きに見ていた数人の中から、一組の少年少女がおずおずとそれに近づいていく。用があるわけではないようにみえる。どうやら恐怖心よりも好奇心が勝ったようだ。 『気になるのか?』 唐突にかけられた声に、2人の体が跳ね上がる。

2015-10-24 00:17:11
天晶 @tensyou99

目は開いていない。だが、薄く色づいた唇が緩やかに動き、言葉を紡いでいる。 『吾が名はシヘン』 女とも男とも付かない、静かな声が公園の一角に広がる。

2015-10-24 00:19:12
天晶 @tensyou99

『求めるのなら、その黒い箱に捧げるがいい』 シヘンと名乗った顔の付いた紙山は、少年と少女にそう告げる。 「お金…持ってない…」 心底がっかりしたように、少年はうつむく。少女もそれに釣られるように地面に視線を落とした。

2015-10-24 00:19:58
天晶 @tensyou99

『金銭の類でなくても良い。君達が持っているソレでも良い』 彼らが持っていたのは薄く朱に色づいた落ち葉であった。おそるおそる2人が一枚ずつ、持っていた落ち葉を黒い箱の前面に開いた穴に差し入れる。 『ふむ、いい対価だ』 どこか満足げにシヘンが呟いた。

2015-10-24 00:21:37
天晶 @tensyou99

『さあ、好きなものを引くがいい』 少年が白い紙を、少女が薄桃色の紙をシヘンが纏っている紙の中から、引いた。 「「?」」 2人は引いた紙に視線を落とすと同時に、疑問符をあげる。

2015-10-24 00:23:27
天晶 @tensyou99

少年引いた紙には緑色の流れるような文字が並んでいる。内容はこのようなモノだった。 『ガラスの夜を通り抜け アマリリスが歌い出す  薄衣が檻を纏い 季節が時間を追い抜いた  虹が砕けて 鳥が笑い 花が空にて咲き誇る  時計は蝶に従い 愚に堕ちた』

2015-10-24 00:25:40
天晶 @tensyou99

少女の引いた紙の真ん中には『護』の一文字が書いてあり、文字のまわりにはよくわからない模様や記号が並んでいる。 『不和の凶作 水鬼の誠実 散りゆく紙にて災禍は笑う』 そして、一文がそれを輪になって囲むような形で配されていた。

2015-10-24 00:33:38
天晶 @tensyou99

『それは導なりて導にあらず』 シヘンが2人に告げる。 『大事にするもしないも、お前達次第だ』 「あ…ありがとうございます」 少年がぺこりと頭を下げて、やはりそれを追うようにして少女が頭を下げた。

2015-10-24 00:34:59
天晶 @tensyou99

少年と少女は町の通りを走っていた。通りの両端には屋台が出ており、様々な人々でにぎわっている。 唐突にフッと、少女の身体が持ち上がった。水売りが客の呼びかけに応じた際に、足を少女にかけたのが原因だった。煉瓦で出来た花壇の端が、少女の頭部に迫る。

2015-10-24 00:59:29
天晶 @tensyou99

その少女の身体が一瞬、宙に浮いた。当人が驚いて体勢を立て直している間に、その身体はゆっくりと地面に下ろされた。一陣の風が吹き、薄桃色の花びらが空へと舞った。 「大丈夫かい?!」 水売りが自分がしたことに気がついて、慌てて少女に手を伸ばした

2015-10-24 01:03:47
天晶 @tensyou99

ボンヤリとその手を取って、少女は立ち上がる。少年も心配そうに少女の顔を覗き込んだ。少女はコクコクと無言でうなずいて、自分の無事を伝えた。 「そっか、よかった。けど、イチオウお医者さんに行っておこう」 水売りは少女と、そして少年を説得し、手を引いて医者へと向かう

2015-10-24 01:08:44
天晶 @tensyou99

手を引かれた少女は振り向いて、花壇を見る。 そこには桃色の花は咲いておらず、また花が散った跡も見ることはできなかった。 そして、手に握っていたはずの薄桃色の紙がどこへ行ったのか、それを思い2人は少し笑って空を見た。

2015-10-24 01:14:26