空想の街 #シヘン
男が引いたソレは一枚のカードであった。紙自体を盛り上げるような加工で、花と月の装飾が施してあった。真ん中には一言だけ誕生日を祝う言葉が添えてある「あれ?俺、彼女の誕生日だって言ったけ?」『言ってないな』「?じゃあ、なんでこれ?」 #空想の街 #シヘン
2015-10-25 17:34:44『それは導なりて導にあらず』シヘンは男に告げる『大事にするもどう使うかも、君次第だ』男は軽くうなりながら首をかしげた「あー…よくわかんなけど、カード忘れて、まあいっかとか思ってたんだ」ありがとさん、と男は笑って走り出す #空想の街 #シヘン
2015-10-25 17:41:47「…こんにちわ」一人の女性が移動しているシヘンに声をかけた。街の住人のようだ『やあ、こんにちわ』と立ち止まったシヘンが返す。「一回、よろしいですか?」『君を拒む理由を、吾は持たないな』女性は苦笑して、小さな硬貨を一枚、黒い箱へと入れた。 『さあ、引くがいい』 #空想の街 #シヘン
2015-10-25 21:29:37人であればシヘンの腕の部分にあたる白い紙を、女性は一枚引いた。 ぷつりという微かな感触が女性に伝わると同時に、紙がシヘンから離れた。 「?」少し変わった紙の感触に女性は首を傾げ、手にした紙を裏返した。途端、息を飲む。 #空想の街 #シヘン
2015-10-25 21:34:39その紙の裏は写真だった。空へと真っ直ぐに伸びる漆黒の木々と、満点の星々が広がっている。「これは、あの時の…」女性が呟く。シヘンは何も言わない「私の今までで最高の思い出を作ってくれた、星空…にそっくりです」ふっと笑みを女性がこぼす #空想の街 #シヘン
2015-10-25 21:44:26『それは導なりて導にあらず』シヘンは呟く『気に入ったのなら、逃げられぬよう大事にするが良い』女性は写真を抱き、静かに笑いながら頭を下げた #空想の街 #シヘン
2015-10-25 21:49:57(書き忘れましたが黒い箱の大きさは大体一辺20センチの正方立法形です。足の長さは大体5センチ強で丸みを帯びた逆円錐形です) #空想の街 #空想街愛室 #シヘン
2015-10-26 21:44:25紙山――シヘンはしばらく歩いた後、一つの駅の前に立ち止まる。駅名はミゼン。その駅を背にして立ち止まったシヘンの傍に、黒い箱も立ち止まる #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:18:48「やだーなにアレ超うけるー。旅芸人?」「なんだ、馬鹿げた格好してんなぁ」そんな言葉を吐きながらシヘンに近づいてきたのは若い男女であった「なんだ?金を払えば踊ってでもくれんのか?」「ミノ虫みたーい」男がシヘンを嘗めるように眺め、女がきゃあきゃあと騒ぎ立てる #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:24:07『吾が名はシヘン』シヘンは2人に告げる『捧ぐのならば、我が身の一部を与えよう』そう言ってから、シヘンは軽く首を傾げた『…といっても、理解できぬかな』「は?! 訳わかんねーこと抜かしてんじゃねえぞ!」男が身を乗り出し、シヘンに掴み掛かろうとする #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:27:16瞬間、黒い箱が飛び跳ねて二人の間へと割って入った。そして、風船のようにふわりと膨らむと男を包み込むようにして、飲み込んだ 「え」 短く声を上げた女が、目を見開いたまま身を堅くする。一瞬にして黒い箱は元の形に戻り、シヘンの傍へと位置した 男の姿は、どこにもない #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:31:41『さて…これは、君の対価だな』 女が短い悲鳴を上げる 『さあ、引くがいい』 シヘンはあくまでも静かに告げる 『引かねば凶事が降りかかるぞ』 女が耐えられたのはここまでだった。背を向けて、走り出す。追ってこないシヘンを撒くように、建物の間と間を複雑に走っていく #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:37:07もうここまでくれば大丈夫だろう。女の頭にそんな思いがよぎり、息を一つ付くと光が漏れる表通りにふらりと歩み出た。 次に女の耳に聞こえたのは、危ないという悲鳴のような声、目に映ったのは、月を背にして前足を高々とあげた栗毛の馬だった #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:41:31『…対価の質としては、下の下だな』 女性が目の前から去っていった後、しばらく動きを見せなかったシヘンだが、ぽつりとそう呟くと一歩、前へ出る。まわりの人々が僅かにざわめき、じわりと身を引いた。 #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:43:59『信じなければ、理解することはない 吾を崇めよ 吾を崇めること無かれ 吾を称えよ 吾を称えること無かれ 吾を恐れよ 吾を恐れること無かれ 理解せよ 思考せよ 思案せよ 判断せよ ソレは何よりも確かな 導の一端なり』 #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:46:17いつもよりも心なしか低い声で、シヘンは誰へともなく呟いた。 黒い箱がシヘンの意図を汲むかのように前へと歩き出す。人垣は何の抵抗もなく、割れた。 #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:50:28複数の鈴の音と紙ずれの音。夜の闇。街頭の光。 それらが合わさり、作り出された異質な空間。誰一人として動かぬ時さえも止まったその空間を、シヘンと黒い箱は進んでいく そして、少しの色を伴った紙山と足の生えた黒い箱は、音ともにひとけのない薄闇へ溶けて消えたのだった #空想の街 #シヘン
2015-10-26 22:58:18黒い箱が、門をくぐって街を出たシヘンを先行する。しかし、その足取りはどこか乱雑である。地を踏み固めるような、力強さと乱暴さを帯びている。『まあ、そう怒るな』黒い箱はキッと鋭い動きでシヘンを振り返ると、再び前を向いて歩き出す。 #空想の街 #シヘン
2015-10-27 21:35:28『随分とひどい対価だったが、前にはもっとひどい対価もあっただろう』その言葉に黒い箱が再びキッと鋭い動きでシヘンを振り返る。『…吾が身?ソレがどうした?』涼やかな音を響かせながら、いつもと変わらぬ顔で、シヘンがたずねる。 #空想の街 #シヘン
2015-10-27 21:39:50黒い箱が疲れたように立ち止まりその身を2、3度、軽く横に振った。そして、再び歩き出す。その足取りは先ほどよりも若干落ち着いている。「…君にはいつも苦労をかけるな」ぽつり、シヘンが歩みを止めずに呟く。 #空想の街 #シヘン
2015-10-27 21:48:52ソレを聞いた黒い箱が、やはり歩みを止めずに一瞬振り返る。それはどこか呆れたような仕草に見えた「はっはっは、ばれたか」シヘンが、楽しげに笑う。 #空想の街 #シヘン
2015-10-27 21:55:45