空想の街　#シヘン

天晶 @tensyou99

人の大きさほどの紙山が、門をくぐる。それを先導しているのは小さな足の生えた黒い箱だ。紙山が動くたびに複数の鈴と、紙ずれ合わさったような涼やかな音が響く『どうやら、宴があるようだな』ポツリと紙山が呟いた。よくみれば、紙山には顔がついてる　#空想の街 　#シヘン

天晶 @tensyou99

その言葉に反応したのか黒い箱が立ち止まり、紙山の方を振り向くような動作をする『見に行きたいのか？』紙山がたずねる。黒い箱はフルフルと否定するように体を震わせた『そうか？まあ、新たな街だ。取りあえず回ってみよう』そう言って再び紙山は歩きだした　#空想の街　#シヘン

天晶 @tensyou99

黒い箱が慌てて先導を再開する。 こうして、顔のついた紙山――『シヘン』と、それを先導する黒い箱が街を彷徨い始めたのだった　#空想の街　#シヘン

天晶 @tensyou99

『#シヘン』の設定 姿形：一見して紙の山。よく見ても紙の山。ただ、埋もれる様にして顔がついてる。大体白い紙が主体。所々に色のついた紙もある。アイコン参照。いつも傍に4本足の生えた黒い箱がいる #空想の街

天晶 @tensyou99

『#シヘン』の設定 2 ご利用方法：一緒にいる黒い箱に何か入れて、紙をむしって下さい。一応こちらにまとめてあります（togetter.com/li/890649） 空想の街ではない、とある町でのシヘンの行動はこちら（togetter.com/li/890647） #空想の街

天晶 @tensyou99

『#シヘン』の設定 3 Q.対価の後払いはできますか？ A.後払い先払いどちらでも可。ただ、先払い推奨。後払いだと祟り神並にとんでもないものを請求されることがあります 　 Q.すっごい燃えそうですが燃えますか？ A.残念ながら不燃性です。燃えないゴミに分けてください #空想の街

天晶 @tensyou99

シヘンは街を歩いている。先導しているのはやはり黒い箱だ。歩く速度は随分と遅い。しかし、言い方を変えれば話し掛けやすい速度ではある。 すれ違う人々の視線を気にもせず、シヘンと黒い箱はゆっくりと街の中を進んでいく。#空想の街　#シヘン

天晶 @tensyou99

複数の鈴と、紙ずれ合わさったような涼やかな音が響く。降り注ぐ雨が、それに合わせるかのようにシヘンの紙にて曲を奏でる。シヘンはしばらく歩いた後『きつね橋』という橋の傍に立ち止まる。黒い箱もシヘンの右前方に立ち止まった。#空想の街　#シヘン

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シヘンが口を開き、男とも女ともつかない声が響く。 『吾が名はシヘン 　捧げるがいい 　受け取るがいい 　吾が身の一部を与えよう 　引かねば凶事が降りかかろうぞ 　恐れる無かれ喜ぶ無かれ 　それは導なりて導にあらず 　ただし、代償が対価とは限らぬぞ』 #空想の街　#シヘン

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その声に、一人の老人が足を止めた「占いの様なものかい？」『似たようなものだ。引くことをならばその黒い箱に対価を入れるがいい』随分とえらそうな口調に老人は笑みをこぼす「いくらだい？」『何でも良い。ただし』　#空想の街　#シヘン

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『箱に何か一つでもモノを入れたならば、引かなければ必ず凶事が降りかかるぞ』「それは恐ろしいね」老人は笑みを浮かべたまま膝を折り、黒い箱の中に硬貨を一枚入れた『では、好きなものを引くがいい』それを確認したシヘンが、老人に告げる　#空想の街　#シヘン

天晶 @tensyou99

「では、失礼するよ」老人は一枚、シヘンから紙を抜き取った。白い短冊の様な紙には一輪の青い花の絵と、その花と同じ色のインクで言葉が添えられていた 拡がり　収まり　八雲の幻夢 轟き　静まり　再起の夕べ 沈んで　浮かぶは　黄昏なりや？ 泣きて　笑いて　音に伏す #空想の街　#シヘン

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『それは導なりて導にあらず』呆気に取られる老人に声をかける『大事にするもしないも、君次第だ』「…これは意味を聞いても答えてくれないんだろうね」『尋ねられる前に、今答えたはずだが？』「成る程な」ありがとう、そう言いながら老人は片手をあげてシヘンもとを離れて行く #空想の街　#シヘン

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「遅かったですね」シヘンから少し離れた屋根付きベンチに、1人の老女が座っていた。老女はシヘンから引いた紙を手にしている老人に笑いかける「そこでくじを引いたんだ」老人は隣に座り、彼女に先程からずっと片手を塞いでいたコーヒーを差し出した「あら、結果はどうでした？」#空想の街　#シヘン

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「こんな感じだ」苦笑しながら老人が差し出した紙を老女は受け取る「あらあら」そして、嬉しそうに声を上げた「昔を思い出しますねぇ、おじいさん」「そうだな」「数行の文章を頼りにして世界中を飛び回りましたね」「そうだな」「何処を示してるんですかね、扉が開く時間かしら」#空想の街　#シヘン

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「どうだろうな」「こんなお婆ちゃんになって動けませんけど、こういうのを見るだけで、胸が躍りますね」「お前も引いてくるか？」「いいえ、それよりあなたが引いたこの文章をもう少し一緒に考えましょう、あ、あの時の碑文に似てません？あなたがサソリの大群に襲われた時の！」#空想の街　#シヘン

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「あの時はもう駄目だと思ったな」「だから火薬はもっと持って行った方って言ったんですよ」思い出話に花が咲く。それを咲かしたのは一枚の紙きれだ。老女は不意にそのことに気がつき、まるで愛おしい何かの様に白い紙をするりと撫でると、老人と顔を見合わせゆっくりと微笑んだ　#空想の街　#シヘン

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シヘンは晴れた空に顔を向けた。しかし、その瞳は瞼に隠されたままだ『澄んだ青空だ』シヘンがポツリと呟き、それまで動かなかった黒い箱がその言葉を確認するかのように空を見上げた『さて、参ろうか』黒い箱は空からシヘンの方へと一瞬視線を移すと、短い4本の足で歩き出す　#空想の街　#シヘン

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橋を渡る黒い箱が、ソワソワしている『魚、だな』先程、シヘンにつられて空を見上げた際に見つけたであろう雲。その形が魚に見えたことが気になったようだ『先程の放送で流れた思考雲というものかもしれないな』放送を聞き損ねたらしい黒い箱が話を促すようにシヘンに視線を振る　#空想の街　#シヘン

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『その下にいる人のイメージを読んで、その形になるそうだ』シヘンと黒い箱は再び雲を見る。雲は細長い魚の形をしていた『秋刀魚…かもしれないな』小さく、黒い箱がステップを踏んだ『成る程、誰か腹が空いた者がいたのかもしれないな』黒い箱の推測にシヘンは笑う　#空想の街　#シヘン

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『さて、時計塔の下にお邪魔しよう思っていたのだが』橋を渡り終えた黒い箱とシヘンは溢れかえる美味しそうな香りと人々の活気に足を止めた『ここでは少々お邪魔だな』何番に投票する、どれも美味しかったとの言葉の中で、シヘンと黒い箱は鈴と紙ずれの音を響かせながら移動する　#空想の街　#シヘン

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アンカーブリッジ。シヘンと黒い箱はその橋の近くで足を止める。コンテスト会場がわずかに見えた。しばらくあの熱気は収まりそうにはない『…吾と君に食欲は無いからな』シヘンの独り言に、黒い箱は反応しなかった　#空想の街　#シヘン

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佇むシヘンに一人の花束を持った男が近づいた「おう、あんた易者かい？」『似たようなものだ』「じゃ、一回頼む。いくら？」『君次第だ。金銭の類でなくもいい』「気持ち次第って奴か？」男は笑いながら、手に持っている花束から黄色い花を一本抜き取り、黒い箱へと差し出した　#空想の街　#シヘン

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『箱の中へと入れてくれたまえ』「え、入るかな？」男がそっと黒い箱の前面にある、ポストの投入口のような部分に、花を差し入れる。するすると止まることなく花の茎は飲み込まれ、やがて黄色い花自体もはみ出ることなく黒い箱へと飲み込まれた。明らかに箱の長さを越えている。　#空想の街　#シヘン

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「…どうなってんの？」『見た目よりも少し中身が大きいだけだ』眉をひそめる男の言葉を、シヘンはさらりと受け流す『さあ、好きなモノを引くが良い』「お、おう…」男はシヘンのわき腹辺りにある白い紙を一枚引っ張った　#空想の街　#シヘン