ニンジャカタナ 『Location No.93』 #10

@Fw009による小説ニンジャカタナ 『Location No.93』の#10まとめです。 連載中アカウント @NJkatana 続きを読む
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ニンジャカタナ! @NJkatana

ニンジャカタナ ―Location No.93―◆ #10

2015-10-29 22:15:56
ニンジャカタナ! @NJkatana

背後から響く重々しい破砕音。随分と奥へ進んだはずなのに、もとより殆ど無音だったこの最下層ではそういった音は反響し、良く響いた。リーゼは既に止血を行った左足をかばうように、壁に手をつきながら、出来る限りの速さで通路を進んだ。全身傷らだけになったが、幸い左足以外は軽症だった。1

2015-10-29 22:23:17
ニンジャカタナ! @NJkatana

((急がないと――ヒンメルがあの二人を止めてくれている間に))ともすれば止血した部分から再度出血する可能性すらある。しかし今のリーゼにはそういったことを気にする余裕は無かった。今の彼女に残された手段は何もない。武器といえば実弾装填の拳銃が一丁。これだけだ。2

2015-10-29 22:27:44
ニンジャカタナ! @NJkatana

リーゼは特攻するヒンメルの重力偏向システムのリミッターを解除していた。重力偏向システムが使用前に入念な解析を行うのは、その影響領域を限定するためだ。もし際限なく使用すれば、偏向された重力はヒンメルに乗るリーゼすら押し潰してしまう。しかし自身の安全を考えなければ解析は不要となる。3

2015-10-29 22:32:21
ニンジャカタナ! @NJkatana

スピカがカルマの材質、形状を再構成したとしても、もはや重力偏向システムは対象をカルマに限定してはいない。システムはヒンメルの周辺を無差別に飲み込む。カルマほどの巨体では今度こそ確実に行動不能だろう。万が一スピカがカルマを人間大のサイズに戻したとしても、すぐには動けないはずだ。4

2015-10-29 22:37:24
ニンジャカタナ! @NJkatana

だが一度二人が追跡を再開すればリーゼに為す術はない。ヒンメルは炎上し、更に自分ごと押し潰していくのだ。重力偏向システムが壊れ、機能停止すればたちまち彼らは自由となる。どれだけの時間が残されているのか?それは彼女にも予測不可能だった。((――カタナは、無事かしら))5

2015-10-29 22:43:39
ニンジャカタナ! @NJkatana

脳裏に、恐らくメダリオンと対峙しているであろうカタナの姿が浮かぶ。カタナを海から拾った時、リーゼは何度か彼の息の根を止めようと試みたが、どれも上手く行かなかった。「ふふっ――」リーゼから笑みが漏れる。あの時はなんてしぶとい奴なんだと、どうやれば殺せるのかと思っていたのに―― 6

2015-10-29 22:47:53
ニンジャカタナ! @NJkatana

((私、いつの間にか彼のこと――随分気に入っていたのね))リーゼは呆れ気味に笑った。それは彼女にとって、カタナが半年振りに話した人間だったからだろうか?それとも、達観しているように見えてもまだ15歳という若さの少女が、一人で懸命に生きてきたことによる反動だったのだろうか。7

2015-10-29 22:54:58
ニンジャカタナ! @NJkatana

少なくとも彼女にとって、カタナと過ごしたこの二日間――悪くはなかった。それだけは確かな事実だった。((私は、私のしたいことをする。そして、ついでに貴方の迷子も見つけておいてあげる。だから、死んだりしたら承知しないわよ――カタナ))リーゼはその瞳に決意を灯し、通路を先へと進んだ。8

2015-10-29 23:00:01
ニンジャカタナ! @NJkatana

――いつしか背後からの音は止み、地の底から響くような音はリーゼが向かう通路の先から聞こえるようになる。当初はヒンメルすら通行可能だったこの通路も、曲がり、下っていく中で生身の人間の通行に適したサイズへと変わっていった。白い通路にはいくつかの扉があったが、それらは全て開いていた。9

2015-10-29 23:13:07
ニンジャカタナ! @NJkatana

これほどの重要施設の扉がロックすらされずに開放されていることにリーゼは訝しんだ。だが、背後からいつスピカ達が追いつくかわからないこの状況で、それらを深く考える余裕は今の彼女には無かった。額に血や煤と混ざった汗を滲ませながら、リーゼは懸命に最下層の深奥を目指す。10

2015-10-29 23:19:26
ニンジャカタナ! @NJkatana

その扉は唐突に現れた。周囲と変わらぬ白い通路に白い壁面。その先にある何の変哲もない白い扉。だがただ一箇所だけ、一箇所だけ他とは違う部分があった。「これは――ネームプレート?」リーゼはその無機質な扉にはあまりに不釣り合いな、可愛らしいキャラクターの描かれた木製の板に手を添えた。11

2015-10-29 23:25:13
ニンジャカタナ! @NJkatana

リーゼはその板に書かれた文字を読もうとしたが、無理だった。((カタナなら――読めるかしら))リーゼはそのネームプレートをそっと扉から外すと、ホルスターの一つに収めた。後で読んでもらおう――彼女はそう考えた。そして、そのまま扉の中央に手をかざす。方式は一般的なセンサー開閉扉だ。12

2015-10-29 23:35:58
ニンジャカタナ! @NJkatana

小気味良い音と共に開いた扉を抜ける。今までの扉は全て別の通路へと繋がっていたが、この扉は違った、そこは間違いなく部屋であった、だが――「これは――なに?」目の前に広がる光景に、リーゼは思わず口を開く。そこは、先程までの無機質な金属の通路とは余りにもかけ離れた暖かな部屋だった。13

2015-10-30 12:45:55
ニンジャカタナ! @NJkatana

木材のフローリングの上にはパステルカラーのカーペット。壁には小さな時計がかけられ、その下には寝具。向かいには大人が使うには小さな机と椅子。机の上には開いたままのノートと数冊の本。そして写真立て。「一体――どうなってるの?」リーゼは自身の予想と違いすぎる光景に足を止める。 14

2015-10-30 12:49:07
ニンジャカタナ! @NJkatana

生まれ育ったコロニーで見た記録映像の中に、この部屋のようなシーンが映っていたような気がした。恐らく旧時代の部屋を模しているのだろう。もしくはこのコロニーの一般的な住居だろうか。一瞬思考を奪われたリーゼだったが、すぐに部屋の中へと足を踏み入れる。ここには何もないのだろうか? 15

2015-10-30 12:52:37
ニンジャカタナ! @NJkatana

もしそうなら来た通路を引き返さなくてはならない。今の彼女にとっては余りにも大きなロスだ。室内へと入ったリーゼは机の上の写真立てを見る。「親子――」そこには1枚の写真が飾られており、母親らしき女性と、その女性によく似た、恐らく10歳にもなっていない少女が二人で写っていた。16

2015-10-30 12:54:41
ニンジャカタナ! @NJkatana

((きっと、仲良しだったのでしょうね))その写真の二人の表情を見れば、二人の仲がいかに良好なものであったのかは、容易に想像できた。リーゼは自分の家族のことを一瞬思い出しそうになったが、断ち切る。それは今の自分には必要のない感情だ。今は、もっと別のことに意識を向けなくては。17

2015-10-30 12:59:30
ニンジャカタナ! @NJkatana

リーゼは更に室内に目を向ける。特に目立った物は無い。彼女は次に机の引き出しを開けた。「これは――端末かしら」そこには、小型のスクリーンボードがしまわれていた。恐らくなんらかのモバイル端末だろう。リーゼがそのボードを手に取ると、ボードは自動的にモニターを点灯させた。18

2015-10-30 13:03:00
ニンジャカタナ! @NJkatana

点灯したモニターには操作を促すイラストが表示される。リーゼはその文字を読むことはできなかったが、イラストからなんらかのカードを端末へと挿入するように要求していることは理解できた。「これ――かしら?」再度机の中を探すと、そこにはプラスチックケースに入った親指大のカードがあった。19

2015-10-30 13:07:20
ニンジャカタナ! @NJkatana

カードにはやはり文字が書いてあり、その文字の中にはリーゼでも理解できたものが幾つかあった。「―64PBD」恐らく64はこのカードの記憶容量だろう。Pはペタバイト、単位だ。64ペタバイトの容量を持つディスクという意味だろう。リーゼは一瞬逡巡したが、すぐにカードを挿入する。20

2015-10-30 13:14:13
ニンジャカタナ! @NJkatana

ボードの画面に、カードを読み取っていることを示す画面が現れる。画面はすぐに読み取りが完了したことを示すと、ボードは一度機械的な音を鳴らした後、暗転した。「何が入っているのかしら?」呟くリーゼ。だが、次の瞬間、リーゼの持つそのボードは彼女の手の中から忽然と消えた。21

2015-10-30 13:17:30
ニンジャカタナ! @NJkatana

先程まで感じていたボードの重さも、質感も完全に消えている。((一体――何が、起こったの?))リーゼはあまりの驚きに後ずさり、部屋の背面に背中をぶつける。彼女の反応は無理も無い。目の前の机――その椅子に、先程写真に写っていた少女が座り、一生懸命ノートに何かを書いていたからだ。22

2015-10-30 13:21:56
ニンジャカタナ! @NJkatana

リーゼがそのノートに目を向けると、幾つもの数字と記号が並んでいた。リーゼにもわかる――彼女もまた、両親や祖父から同じように、数についての勉強を教えてもらっていたからだ。「それ――」思わずその少女に声をかけようとしたその時、軽い二度のノックと共に、別の人物が部屋に入ってくる。23

2015-10-30 13:26:33
ニンジャカタナ! @NJkatana

「おまたせ、疲れたでしょう?温かいココア、持ってきたわよ」快活そうな、利発そうな声で少女に呼びかけるその女性は、やはり写真の中で見たもう一人の女性と同じ姿をしていた。「あ!ありがとう!ねえ、おかあさん見て!わたし、もうこんなに出来たの」その女性を母と呼びながら少女が振り向く。24

2015-10-30 13:30:36