茂木健一郎氏 @kenichiromogi 第1646回【所有する電子データは、なんとなく美しくない】連続ツイート

2015.11/5 茂木健一郎氏【所有する電子データは、なんとなく美しくない】連続ツイート …『東京藝大物語』は、今のところ紙の本しかなく、電子書籍を出す予定も具体的にはない。その理由の一つは、講談社の担当編集者の柴崎淑郎さんと、「モノ」としての本を大切にしたいよね、と言っていることにある。祖父江慎さん @sobsin の装丁も、素晴らしいし…
0
茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート1646回をお届けします。文章はその場で、即興で書いています。本日は、感想です。

2015-11-05 07:12:23
茂木健一郎 @kenichiromogi

『東京藝大物語』は、今のところ紙の本しかなく、電子書籍を出す予定も具体的にはない。その理由の一つは、講談社の担当編集者の柴崎淑郎さんと、「モノ」としての本を大切にしたいよね、と言っていることにある。祖父江慎さん @sobsin の装丁も、素晴らしいし。

2015-11-05 07:14:56
茂木健一郎 @kenichiromogi

もちろん、電子書籍は便利で、私は、特に英語の本はほとんど電子書籍で読んでいる。日本語の本も、特に急いで読まねばならず本屋さんに行く暇がない時は電子書籍で読む。そんな中で、電子書籍と紙の本の違いについてはいろいろ言われてきたが、「あっ、これが本質だな」と思うことがある。

2015-11-05 07:16:20
茂木健一郎 @kenichiromogi

それは、電子書籍は、(今のところのシステムでは)一人ひとりのユーザーに閉じていて、体験の共有、手渡しが難しいということである。紙の本だったら、「この本面白かったよ」と読み終わったのを渡すこともできる。あるいは、「この本借りていくわ」と持っていくこともできる。

2015-11-05 07:17:31
茂木健一郎 @kenichiromogi

前の人が読んでいて、線を引いたり、頁を折ったりしているのを見るのも面白いし、コーヒーの染みがついていたり、チョコレートのかけらがついていたりして興味深い。そんな「モノ」としての歴史が、人から人へ、ひょいと渡すことができることが、紙の本のユニークな特徴だと思う。

2015-11-05 07:19:23
茂木健一郎 @kenichiromogi

電子書籍は、共有ができない。もちろん、アマゾンのハイライト機能で、ここは何人が線を引きました、というのは面白いけれども、それは、紙の本を、「これ、面白かったよ」と渡すのとは、どうも、勝手が違う。本当のことを言えば、電子書籍も、「これ、面白かったよ」と渡すことができたらいい。

2015-11-05 07:21:06
茂木健一郎 @kenichiromogi

ところが、電子書籍という存在自体が、書籍の譲り渡しのようなメタファーには向いていないように思う。自分が買った電子書籍を、相手に渡したら、自分が読めなくなる、というのは、なんとはなしに、電子データの属性についての直観に反する。モノは占有と所有を区別できるがデジタルはそうではない。

2015-11-05 07:22:16
茂木健一郎 @kenichiromogi

むしろ、電子データは、所有というよりも、アクセスする権利を買うというイメージに近い。ならば、電子書籍にアクセスする権利を、人から人へ譲渡できるようにすればいいのだろう。しかし、「お前にこの本にアクセスする権利をあげるよ」というのも、気分としては、紙の本を渡すのとは随分違う。

2015-11-05 07:23:43
茂木健一郎 @kenichiromogi

結局、電子データは、その本質上、万人に無料でアクセスできるというのが一番スッキリしている。その意味では青空文庫やプロジェクト・グーテンベルクのような無料の電子データが、「この本面白い」と紹介するには一番適している。そうではなしに、有料でデータを買う電子書籍はつまり中途半端である。

2015-11-05 07:25:07
茂木健一郎 @kenichiromogi

紙の本は、もともと「モノ」としての制約があって、「今、ここ」にあるという限定のもとに世界に存在しているから、その売買や流通に独自の文化が生まれる。電子データは、本来万人が自由にアクセスできるのに、所有の擬制という経済原理を入れるから、なんとはなしにその存在が美しくないのだろう。

2015-11-05 07:26:15
茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、連続ツイート1646回「所有する電子データは、なんとなく美しくない」をテーマに、9つのツイートをお届けしました。

2015-11-05 07:29:16