【ミイラレ!第二十二話:隙間女のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。一方そのころ…… こちらは原文のみです。実況つきはこちら→ http://togetter.com/li/897943
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第二十二話:隙間女のこと】 #4215tk

2015-11-09 17:45:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『きゃあああっ!?』自室で退魔師連合からの通達事項を読んでいた草江 怜は、突然の悲鳴にぎょっとして顔を上げた。音源の方向は隣室。すなわち彼女の幼馴染である四季の部屋から。いったいなにが?そちらを見やった瞬間、壁から飛び出してきた半透明のなにかと衝突しそうになる。1 #4215tk

2015-11-09 17:48:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「うわあっ!?」『へぶっ!?』怜は反射的にそれを殴り飛ばした。奇妙な悲鳴を上げたそれは真横にすっ飛び、寝室の壁をすり抜けて消えていく。呆然と見送った怜は、ふと眉をひそめた。今の声、どこかで聞き覚えがあるような。『な、なにするんですかいきなりぃっ!』2 #4215tk

2015-11-09 17:51:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

抗議しつつ壁をすり抜けて戻ってきた怪異を見て、怜は思わず安堵の息をついた。「なんだ、小夜子さんか」『なんだとはなんですかなんだとは!今の結構痛かったんですよ!?』涙目で訴えてくるのは、不健康そうな女の幽霊だ……もっとも、健康な幽霊の方が珍しいのだろうが。3 #4215tk

2015-11-09 17:54:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ごめんね。でも、急に出てくるのは危ないよ。うっかり祓っちゃうところだった」『うっかりでそんな物騒なことしないでください!』「それより、どうしたの?さっきの悲鳴も小夜子さんだよね」『そう、そうですよ!そっちの方が大事なんです!助けてください怜さん、怪異が!』4 #4215tk

2015-11-09 17:57:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その言葉に、怜の表情が引き締まる。「怪異?四季の部屋に?」『は、はい』「どんな奴だった?四季は無事?」手早く武器となる反物を用意しながら、怜は尋ねる。『四季さんは大丈夫……といいますか、留守にしてます。ええと、神様?のところに行くとかで』「ああ、ヒルメさんの」5 #4215tk

2015-11-09 18:00:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜は頷く。今回は巡やあの昆虫怪異たちが同行するとのことだったので、向こうに不要な警戒をさせないよう待機していたのだ。「けど、四季の部屋ってあなた以外にも怪異がいたんじゃないの?」『ながれさんたちは、四季さんの地元に戻られているので……』「一人で留守番してた、と」6 #4215tk

2015-11-09 18:03:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

両腕にそれぞれ赤と青の反物を巻き、準備完了。「で?肝心の怪異はどんな相手なの?」改めて問い質すと、小夜子はバツが悪そうに顔を逸らした。『そ、その……あまりよく見てなくて』「ええ?」『だ、だってぇ……怖いじゃないですか』控えめに主張する小夜子に、怜は目を閉じる。7 #4215tk

2015-11-09 18:06:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「気持ちはわからないでもないけど。だいたい、どうやってその怪異は入ってきたの」『えーと、郵便受けから……』「郵便受け?」怜は思わず自室の玄関ドアに目をやる。その郵便受けを見て、首を傾げた。「小型の怪異、ってこと?」『いえ、大きさは人間並みだったと思います』8 #4215tk

2015-11-09 18:09:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

小夜子は手振りを交えて説明する。『こう、チャイムが鳴らされて。でも私、幽霊だから出るわけにはいかないじゃないですか』「……まあ、そうだね」『それで無視してたんですけど、そしたら……なんていえばいいのかな。黒い煙?みたいのが郵便受けから入ってきて』9 #4215tk

2015-11-09 18:12:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

煙。怜は眉間にしわを寄せ、そのような芸当ができそうな怪異を記憶から引き出そうとした。『煙がこう、最終的に人型に変わって……実体化しそうになったときに、思わず逃げてしまって』「実体化、か」怜は唸る。それなりに格の高い怪異。自分一人で対処できるだろうか?10 #4215tk

2015-11-09 18:15:34
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜は携帯を取り出し、短いメールをTと良子に送る。「……とりあえず、様子見はしてみようか」それが済んでから、彼女は立ち上がった。「一応小夜子さんもついてきて。なにかあったら四季に知らせてもらわなきゃいけないから」『は、はい』そして幽霊を伴い外に出る。11 #4215tk

2015-11-09 18:18:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

隣の205号室前。彼女は内部の霊気を調べようとして……顔をしかめた。元から怪異の多い部屋のためか、室内に霊気が充満している。つまり、どこに怪異が潜むかをここから判断するのは難しい。「……仕方ないか。小夜子さん、怪異が飛び出てきたら抑える準備しておいて」12 #4215tk

2015-11-09 18:21:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

一方的に言い捨てた怜はポケットから針金を取り出した。『御前様、よろしく』『おうよ』そこに蛇神の分身を憑かせると、針金はぐにゃぐにゃと変形し始める。それを鍵穴に突っ込む。数秒もしないうちに鍵の開く音。ドアに耳を押し当て、中の動向を確認。意を決してドアを開けた。13 #4215tk

2015-11-09 18:24:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

部屋の中は薄暗く、静かだ。怜は油断なく部屋に踏み入り、部屋を見渡す。怪異の影はない。『お、おかしいな。本当にいたんですよ』「しっ」弁明し始める小夜子を黙らせ、怜はポケットから数枚のスカーフを取り出した。少し霊気を込めてやると、それはひとりでに筒状に変形する。14 #4215tk

2015-11-10 17:54:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

床に置かれたスカーフたちは蛇のごとく這い始め、リビングを改め始める。目を丸くしている小夜子の気配を感じながらも、怜は油断なく構えをとった。小夜子がこの部屋から離れている間に、侵入者が逃げ出しているという可能性もなくはない。が、彼女の勘がそれを否定している。15 #4215tk

2015-11-10 17:57:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜は目を瞑り、スカーフに宿らせた蛇神の分身の気配を追う。部屋中央……何もなし。寝室。何もなし。キッチンは……怜はかっと目を見開き、動く。キッチンと冷蔵庫の隙間。そこから伸びた白く細い腕がスカーフを鷲掴みにしている。「見つけたっ!」怜は左腕の反物を投擲!16 #4215tk

2015-11-10 18:00:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

隙間に戻らせるより早く、反物は腕に巻きつく。怜はそのまま反物を手繰り寄せ、怪異を引きずり出そうとした。しかし「くっ……!?」予想外の力で引っ張り返され、怜は顔を歪めた。床を踏みしめているはずなのに、なお引きずられる。『怜さんっ!?』小夜子の狼狽する声。17 #4215tk

2015-11-10 18:03:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜はそれに答えない。『御前様、相手に憑けない?』『やってみよう。もうちと踏ん張っておれい!』返事と同時に、いくつもの白い蛇の影が反物を辿り、絡みついた腕へ、腕が伸びる隙間へと入り込んでいく。「……あうっ」隙間から小さな声。反物を引っ張る力が弱まる。18 #4215tk

2015-11-10 18:06:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「小夜子さんっ!相手が出てきたら、取り憑いて捕まえて!」『ええっ!?そんな、心の準備が』「やれ!っつってんの!」幽霊を叱り飛ばしつつ、怜は思い切り反物を引いた。ずるり、と隙間から怪異が姿を現わす!『え、えーい!』意を決したように小夜子が怪異に飛び憑いた。19 #4215tk

2015-11-10 18:08:54
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ふぎゃっ」絡みつく白蛇を振り払おうとしていた怪異が悲鳴を上げ、ぐったりとその身を横たえる。「よし、確保!」怜の声と同時、両腕の反物が解け、怪異の体を縛り上げた。額の汗を拭い、怜は改めて侵入していた怪異を見下ろす。「……うー、油断した」怪異が悔しげに唸った。20 #4215tk

2015-11-10 18:12:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

退魔師はあらためて怪異を観察する。反物で簀巻きにしてしまっているため服装は見えないものの、ひとまずは女の怪異。印象としては、細い。背丈自体も相当に高いのだが、それよりも体の細さにまず目がいく。「……『隙間女』、でいいのかな』眉根を寄せつつも呟く。21 #4215tk

2015-11-10 18:15:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『隙間女』は現代になって流行り始めた怪談を基にした怪異だ。数センチにも満たぬ隙間から家主を覗き、場合によっては自身の結界へと引きずり込む。あまりたちのよくない怪異、ではあるのだが……『それにしてはやたら力が強い気がするんだけど』『うむ。実際相当な霊気じゃの』22 #4215tk

2015-11-10 18:18:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

じっとりと見つめてくる怪異に辟易しつつも、怜は屈み込んだ。「あなた、何者?素直に答えてくれれば、除霊は勘弁してあげる」「……御笠。龍造寺 御笠」案外素直に答えが返ってきたために、怜は拍子抜けする。「そ、そう。じゃ、ええと……御笠、さん。何のためにここへ?」23 #4215tk

2015-11-10 18:21:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

御笠と名乗った怪異は、やや考え込む素振りを見せる。怜は訝しんだ。何か企んでいるのか?「私がここにきたのは」奇妙なほどにあっさりと、御笠は口を割る。「今の山ン本組の頭領さんを観察したかったから。日条 四季。この部屋で合ってるよね?」怪異の言葉に怜は目を丸くした。24 #4215tk

2015-11-10 18:24:14