空想の街 ハンツピィの宴 #さるカフェ 2015.10.24〜26
- sarukotonagara
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「じゃあ話をしよう?」 立ち上がる作家の服を女房はぐいっと引っ張った。 「なんでそうなるの」 「何で? 良い人なら話してみると良いだろう」 「今お昼なのよ。飲食店なら、生きるか死ぬかの戦場なのよ」 「花月、君は何でそんなこと詳しいんだ」#空想の街 #さるカフェ #作家と女房
2015-10-24 15:29:55手早くできるもの…そうね、寒いし細いパスタでスープ仕立てなんかどうかしら。@sawajimayura227 #さるカフェ #作家と女房 #空想の街 お待たせいたしました。『蝶々の煌めき』のブイヨンと『髪の華やぎ』の甘煮のスープのパスタです。『不器用な恋慕』のチーズでどうぞ。
2015-10-24 15:22:36@sarukotonagara 二人でばたばたしている最中に店主が注文の品を持ってきてくれた。顔を紅くして、受け取る。作家はよく分からない顔をしている。 湯気の立つパスタは美味しそうで、とりあえず休戦して、二人でいただきますをする。#さるカフェ #作家と女房 #空想の街
2015-10-24 15:28:40食後に『混血の麗し』のハーブティーと『月夜の漆黒』の深煎り珈琲を飲む。お腹も幸せ、店の雰囲気も良い。けれども女房の胸にはわだかまりが消えない。さっきの風車の時もそうだ。女房は作家を睨めつけた。 「どうしてあなたはそう、勝手に行動するんです?」#作家と女房 #さるカフェ #空想の街
2015-10-24 15:35:19作家は女房の殴りつけるような言葉に面倒くさい気分になった。 「俺は何か悪いことをしたか?」 「そういう話じゃないんです。どうして一言、相談とか声かけとかしてくれないんです。あなたの中では完結しているんでしょうけど、私は全然完結していません!」#さるカフェ #作家と女房 #空想の街
2015-10-24 15:40:11女房のいきり立った言葉に作家は癪に障る。自分だけが悪者でないか。元から低い声がさらに低くなる。 「お前だって、俺に断らずに勝手なことをするじゃないか」 「例えば。何です?」 「なすの肉詰めの肉に椎茸混ぜただろ。俺が椎茸嫌いなことを知っていて」#さるカフェ #作家と女房 #空想の街
2015-10-24 15:45:43作家は拗ねた。少なくとも女房にはそう見えた。堪忍袋が点火する。 「子どもですか。あなた、不惑超えているのですよ。茸で惑う年ではないのですよ。健康面を考えて作ってあげたのに」 「君はそう言って、自分の嫌いな大豆は食卓には上げないだろう」 #さるカフェ #作家と女房 #空想の街
2015-10-24 15:49:09理屈でごねるのは作家らしく、作家は得意だ。十五才以上離れている女房は、こうなると歯が立たない。完璧な人間なんていない。皆欠陥だらけ。それでも注意する矛盾動物。頭の中でぐるぐる言葉がまわる。 「ほんとうにこの、ばか!」そうして女房は声を上げた。#さるカフェ #作家と女房 #空想の街
2015-10-24 15:55:40あら?可愛らしい拗ねた声が…。女のダダは愛より深いってね。今朝仕込んだスコーンをオーブンに放り込む。ほーら、いい匂いで仲直り〜…って野暮なおせっかいかしら。#さるカフェ #作家と女房 #空想の街 あ、気づいた気づいた、よーし、おせっかいしちゃお。
2015-10-24 16:07:51お話中すみません。これ、試作品なんでよかったらサービスで。『微笑んで包んで』の粉で作った生地に『それも幸せ』のナッツを砕いて混ぜたスコーンなんです。ほろっと柔らかい生地と、ちょっと引っかかるナッツ、どうかしら。@sarukotonagara #さるカフェ #作家と女房 #空想の街
2015-10-24 16:11:45「あなたはいつもそう! 人に心配かけてばかりで。こっちの気持ちも知らないで。ほんとう、すかぽんたん。唐変木。もう知りません!」 女房は自分の荷物を掴んで、店を飛び出す。 作家は呆然と女房が走り去る姿を見るしかなかった。#作家と女房 #さるカフェ #空想の街
2015-10-24 16:04:34…って奥さん行っちゃった!やだ旦那さん、なにぼぅっとしてるの!はい、これ包んだから、持って仲直りしてきなさい!どうやってって、おばかさん!全速力で追っかけて抱きしめて、僕の可愛い人、ごめんね、って言うのよ!@sawajimayura227 #作家と女房 #さるカフェ #空想の街
2015-10-24 16:17:44@sarukotonagara 作家は考える。そんなことを自分の小説のキャラクターでも言わせたことがない。けれど店主は星のように煌めき、太陽のように熱い視線を自分に送る。何故こうなった。作家は息をつき、袋を受け取る。 「すまない。その頂く」#さるカフェ #作家と女房 #空想の街
2015-10-24 16:22:46「騒がせて申し訳ない。今度は仲直りして、また来店させて頂く」 作家は料金を払うとかるく頭を下げて、店を飛び出した。 花月はどこだ。もう少しで街は黄昏時を迎える。 #さるカフェ #作家と女房 #空想の街
2015-10-24 16:26:10いってらっしゃい!!なんで自分が悪いかなんて考えなくていいのよ!ごめんって言ってぎゅってするのよ!そんでそれ一緒に食べれば仲直りできるから!甘いものは無敵だからー!@sawajimayura227 #さるカフェ #作家と女房 #空想の街 走り去る背中に叫びながら、お客様にタメ口。
2015-10-24 16:25:57▲難しいよね男女の仲ー!でも仲直りしてー!がんばってー!(でもこの後まさかの展開が!それはどうぞゆらさんのまとめで!)
さて。ちょうどお客様もはけたし、いったん引っ込むか。セルフサービスの品を整えて、看板にセルフサービス中の札を掛ける。楽しかった。#さるカフェ #空想の街
2015-10-24 16:34:11セルフサービスのお品はこちら。 ●『混血の麗し』のハーブティー ●『月夜の漆黒』の深煎り珈琲 ●『満面の笑み』の瓶入りサイダー ●『素朴な吐息』パンを使った『陽射しの恵み』の野菜サンド ●『踏み出す一歩の爽快感』のクッキー #空想の街 #さるカフェ
2015-10-24 16:34:40
セルフサービスの文字と共にある品札が目に入った。「月夜の漆黒!」幼い少年の見掛けだが、重ねた年月は比例しない。珈琲もブラックで嗜む派だ。さっそく一杯頂いて、窓際の席に落ち着いた。ひとくち含めば、月夜の名の通りあっさりした、けれど深い味が広がる。 #空想の街 #さるカフェ #飴渡り
2015-10-24 19:30:30「美味しい」そっと寄り添う気配に、丁寧に淹れられていると分かる。 きっと放っておけない人だろうな、とその人を想像して微笑んだ。のんびりと堪能させてもらったお礼に飴玉をひとつ添えた。とんぼ玉のように美しい色と模様を持つ。「ありがとう、また来ます」 #空想の街 #さるカフェ #飴渡り
2015-10-24 19:33:36さーてと。 ちょっと時間外だけど余裕できたわ。 少しだけ店に戻ろうかな? えっと、セルフサービスの補充と、軽いお掃除と、あっ、そうよ、売上確認! #空想の街 #さるカフェ
2015-10-24 23:15:24お客様のいない店内にざっとほうきをかけ、カウンターとテーブルの上を拭いて、洗い物を片付け、コルク箱を覗く。うん、ぼちぼちかな…ん?何かお金以外のものが…うわぁ、綺麗!飴だわ。いやーん、食べるの勿体無いくらい綺麗!#さるカフェ #空想の街 #飴渡り
2015-10-24 23:20:56ああこういうのがあるから、この仕事はたまらない。 オーダー以外のもの。交わす言葉、ちょっとしたサービス、お客様からの手土産やちょっとした心遣い、何より人間くささ満々の空気。ああ大好き。みーんな大好き。でもどうしよう、この飴ほんとに綺麗で食べられない…。 #さるカフェ #空想の街
2015-10-24 23:34:46▲初めましてのご来店ありがとうございました(^^)そして綺麗な飴を。きっと店主はガラス瓶に入れて当分眺めます。でも美味しさが落ちる前に、惜しみつつもしっかりいただくと思います!