グラウンド・ゼロ、デス・ヴァレイ・オブ・センジン #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ストーンコールドのユーモアのセンスは、恐怖に震えるマギタには理解できなかった。追従笑いをする余裕すらなかった。「あの……俺、私は、どうなるのでしょう」「軍法会議だ」ストーンコールドは即答した。そして付け加える。「いや、嘘だ。さあ、貴様の運命など我々にはどうでもよい事だからな」25

2015-11-15 01:28:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「しゅ、出撃、できますでしょうか」「何?」イリテイションが顔をしかめた。マギタは唾を呑み、続けた。「そのう、こうして身体も概ね無事で……ですから……引き続き前線に……」「バカ?」イリテイションが指をクルクル回した。彼らはマギタを残し、退出した。マギタは心臓の鼓動を感じていた。26

2015-11-15 01:33:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

震える手で、彼は己の顔を覆った。ニューロンに蘇るのは縦横に飛び交う黒いエネルギーの枝葉と、狂笑する白い影。マギタは手を伸ばす。影は笑う。我に返ると、当然、マギタは部屋の壁に向かってむなしく手をかざしているだけだった。 27

2015-11-15 01:35:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ええ、本当に日差しが強くて、驚いてしまうわ」『そりゃ素敵なバカンスじゃないか。あやかりたいね』モニタに映るIRC同期映像は、ミコシのフィアンセ……キョートのユタカ・アンド・クラシ貿易会社の若きCEO、クラシ・タケルだ。モニタ越しにもその笑顔は眩しく、歯は白い。29

2015-11-15 22:54:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『なにしろ、焼き放題だ』「よしてよ」ミコシは苦笑した。キョートにおいて、浅黒く美しく日焼けした肌は、家柄と財力を端的に示すバロメータだ。ガイオン地表人のタケルも勿論、滑らかなクリームめいて綺麗な肌、プラチナのネックレスが良く映える胸板の持ち主だった。「ここの紫外線は危険よ」 30

2015-11-15 23:00:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ハハハ、違いない。カイロやメキシコよりもキョート・ワイルダネスの日差しは強烈だからね』「貿易会社の社長殿のお言葉には含蓄があること」ミコシは肩をすくめて笑った。『……ねえ、ユウコ』タケルはややシリアスになり、ミコシの名を呼んだ。「ん、何?」『僕は君の仕事を心から応援してる』31

2015-11-15 23:07:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうしたのよ……」『結婚してからも、夫として、恋人として、全力で君の研究を応援したいとは思ってる。だけど……大丈夫かい?』始まった。ミコシは小さく溜息をつき、眉を動かして促した。『その……安全とは言い切れないわけだろう? なにしろ、ニンジャ・モンスター達の目と鼻の先でさ』32

2015-11-15 23:10:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ええ、そうね」『イラつかないでくれ。わかってる……僕だって仕事柄、タフな連中との折衝は慣れっこさ。銃を突き付けられた事もある。だけど、何しろ今、君は戦場、それも最前線にいるんだ。危険度で言うと今までとは……』「これが、わたしの、やりたかった、ことなの」ミコシは強調した。 33

2015-11-15 23:13:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャは実在する神話、神話の獣! 私はその獣に首輪をつける事に成功した。そしてこれは人類の義務、未来へ進むために勝ち得なければならない行いでもあるの!」『……』「ごめんなさい。ニンジャ伝説の講義なら、帰った後にいくらでもしてあげる。……そうね、無事で帰るわ」『ああ』 34

2015-11-15 23:19:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

通話を終えると、ミコシは前髪をかき上げ、溜息をもう一つついた。どうも、いけない。やはりこの戦場の張りつめたアトモスフィアと厳しい気候が……そして成功を前にした焦りが、ミコシをピリピリさせてしまう。「焦り?そうね」彼女は独りごちた。休憩は終わりだ。彼女は自室を出、廊下を進む。 35

2015-11-15 23:26:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドージョー型研究棟は、三重の隔壁フスマを開けた先だ。「お疲れ様です」研究助手がミコシにオジギした。「状態はどう?」「安定していますね」エレベータで3階まで上がり、モニタ室に入る。ガラス張りの窓からドージョーを見下ろす事ができる。「カブキコム」のニンジャ戦士たちを。36

2015-11-15 23:31:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キョートの特務機関カブキ・フォースは、カブキマスターであるアキラノ・ハンカバの秘儀に立脚したニンジャ・コントロール・テクノロジーの研究を進めてきた。常人を遥かに上回る戦闘能力をもつニンジャを電子的に隷属させ、兵器として用いる……それがマジックモンキー計画だ。37

2015-11-15 23:38:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マジックモンキー達はUNIX首輪と脳内爆弾の二重のセキュリティによって支配されている。これを破るすべはない。ニンジャは思い上がっており、非ニンジャを取るに足らない虫ケラと見做す。マジックモンキー達が当初反抗的だったのは当然だ。今は違う。彼らは学習した。学習と、信頼関係。 38

2015-11-15 23:41:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マジックモンキーは学習と訓練を通じ、精強なる戦士となった。彼らによって組織された戦闘部隊がカブキコムである。ミコシはガラス越しにドージョーを見下ろした。現在ザゼン・トレーニングを行っているのはキリンギとシンド。否、もう一人いる。宙に浮かぶジュー・ウェア。あれはミエザルだ。39

2015-11-15 23:46:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ミエザルは不可視のニンジャだ。ジュー・ウェアと首輪が宙に浮かんで見えるのは、そういう事だ。アッパーガイオンに潜み、下劣な犯罪に明け暮れた男には、こうして祖国に貢献する運命が待っていた。年貢の納め時といったところだろう。そしてドージョーの中央。五重の電磁柵の中に「あれ」がいる。40

2015-11-15 23:51:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カブキコムの者達には独房が与えられている。しかしこの兵舎における「あれ」の居場所は、このドージョーだ。様々な理由から、そうしている。『よォ姉ちゃん!居るんだろ!』スピーカーがミエザルの声を拾った。『ヤらしてくださいよ!アバーッ!』ミコシは懲罰ボタンを押し続ける。『アバーッ!』41

2015-11-15 23:57:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『うるさく、かつ、懲りない男だ』キリンギがザゼンを解いて立ち上がった。ジュー・ウェアはくねくねと動いた。『エッヒヒ……一応やっとかねえと、気持ちがシャキッとしねえからよ。間近で見ると、無表情を努める奥で心が動いているのが感じられて、たまらねえ。勃つぜ。アバーッ!』42

2015-11-16 00:01:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あのミエザルが実際戦力となるか否か、議論の余地がある。しかしその透明体質は研究対象としては重大だ。ミコシはあのモンキーの扱いには、もはや慣れている。彼女は注意を電磁柵の中でアグラする『デスドレイン』に向けた。俯いていた『デスドレイン』の目が動き、ミコシを見上げた。 43

2015-11-16 00:08:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『……寂しいのか』それがデスドレインの放った第一声だった。ミコシは思わず一歩後ずさった。『ヘヘヘヘ……寂しいのか。ミコシ=サン。そりゃそうだよ……』ミコシは奥歯を噛み、反射的に懲罰ボタンに指をのばしかけた。だが、留まった。彼との信頼関係のステージはもはやそこにはない。 44

2015-11-16 00:13:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『外も中も、快適とは言い難いぜ、ここはよォ……アンタもそうみてェだな』「正直、そうね」ミコシは会話に応じた。『ヘヘヘ……だがよ、ビックリしちまう。とんでもねえ青い空だ』「出撃はどうだった?快適なワークアウトは出来て?」『ああ、いつもと変わらねえな』「それはよかった」 45

2015-11-16 00:18:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ミコシはUNIX席の研究助手を見やった。研究助手は頷いてみせた。「初陣という意味では、今回の出撃はカウントできないわね。あくまでテストの延長だから」『どうだ?確かめられたか?俺の事は』「ええ」ミコシは微笑んだ。『そりゃ良かった』「いよいよ貴方の力を敵軍に見せつける時が来た」 46

2015-11-16 00:27:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デスドレインの投下作戦は、元老院も重大な関心を寄せる一大デモンストレーションだ。成功すれば、キョート共和国軍の戦力をネオサイタマに強烈にアピールし、膠着した戦況を覆すとともに、株価曲線の手綱を握る事が可能となる。 47

2015-11-16 00:32:49