なぜ世界にはいろいろな言語があるのだろうか?
まず、語尾の m は、オセアニアの言語に広くみられる「あなたの」を表す語です。調査者がきっと、「これはなんですか」とご自身の耳を指さしながら質問されたのでしょうね。 だから、diŋam というのは「耳」と「あなたの」が組み合わさった「あなたの耳」という語であることがわかります。
2015-11-29 09:45:58そう思って、パラオ語の「目」を表す語をみるとこちらも madam となっていて、「あなたの目」という語になっていることがわかります。
2015-11-29 09:46:30さらに表にある他の言語をみてみると、フィジー語の語にも mu という形がついています。こちらも「あなたの」を示す語です。
2015-11-29 09:47:11余談になりますが、現在話されているオセアニアの言語には、親族名称や身体名称をいうときには、必ずこのように「誰の」という単語をつけなくてはならない言語もたくさんあります。フィジー語もそのひとつです。
2015-11-29 09:48:30フィジー語の単語の方はといえば、パイワン語の c に対応する音は d のときと t のときがあるようです。これもフィジー語の広い単語にみられる音対応で、詳細は省略しますが、フィジー語ではなにか追加の変化が起こったことがわかります。 pic.twitter.com/8RZulgQdzi
2015-11-29 09:50:42このように、単語を比べるだけでも、音の変化、音節の付加や消失など、語の付着など、いろいろなことが起きたことがわかります。よく見ると、同様のことが先に見た「数字の3」や「数字の5」で起きています。キリバス語やハワイ語に注目して、音の配列を見てみてください。
2015-11-29 09:54:22系統がつながっている言語の単語を並べて聞いたときに、似ているような、似ていないような気がするのには、このような理由があるのです。音と音には規則的に対応するという関係があります。
2015-11-29 10:36:13けれども、すべての要素がそのまま対応しているわけではなく、一部分がなくなっていたり、入れ替わっていたり、ちがうものが付け加わっていたりするために、直観的には「似ているような似ていないような」印象になるのですね。
2015-11-29 10:37:21言語の系統関係は、このような細かい対応に関する関係を積み上げていくことで、解明することができます。
2015-11-29 10:39:44生物の系統関係同様、ある変化を共有しているかどうか、共有している変化がどの段階で起こったのか、さらには、その変化がどの順番で起こったと考えれば現在の状態がもっともよく説明できるのか、を合わせて考えます。
2015-11-29 10:40:07そうすることで、言語Aと言語Bがどの段階まで一緒に発達したのか、どの段階で分岐したのか、がわかることになるのです。
2015-11-29 10:40:56その結果、最初にお見せしたような系統図を描くことができるようになり… pic.twitter.com/u5q6QKRxUT
2015-11-29 10:42:32系統図に基づいて人の移動史を知ることができるようになるわけです。 pic.twitter.com/sispYtCT0f
2015-11-29 10:43:25このような研究はこれまで、地理的に比較的離れた言語を対象に行われてきましたが、近年では、もう少し小さな地域の中の方言資料などを比較する研究が出てきています。
2015-11-29 10:52:37ちいさな地域の中の言語の比較は、先祖伝来の特徴だけでなく、隣の村や島の間の接触の結果起こった借用や同化(=表面上は似ているけれども系統関係を反映しない)や、逆に、人的な異化(周りのグループとはわざと異なる話し方をするなど)などが起こった結果が混ざっています。
2015-11-29 10:54:34そのため、分析にあたってはいろいろな難しい問題がでてきますが、その一方で、分析がうまくすすめば新しい先史に関する事実も知ることができるようになります。
2015-11-29 10:55:17たとえば、ある植物を示す語を比較し、それが、先祖伝来のものなのか、借用によるものなのか、を特定することで、その植物がどこで栽培化され、その後どのように他の地域に伝わったのかに関する仮説をたてることができるようになります。これについては別の場で詳しくお話ししたいと思います。
2015-11-29 11:01:09長くなりましたが、最後に、このような音対応で言語の歴史を探る伝統的な方法、すなわち「比較方法」からさらに一歩すすむには?というお話をしたいと思います。 pic.twitter.com/jDsiTpLfc0
2015-11-29 11:02:03最初にお話ししたフィジーの方言の話にもどります。 pic.twitter.com/xxRgEK7n9X
2015-11-29 11:09:55音の対応と配列に注意してみてみると… pic.twitter.com/fMQS8ODbNV
2015-11-29 11:11:11Bau(ンバウ)方言の oqoo と Nadrau(ナンラウ)方言の qoi は関係がありそうです。 o q o o q o i 一方、Lau(ラウ)方言の nei は形は全然違うようですが、こちらも最後に i があります。なにかつながりがあるかもしれません。
2015-11-29 11:16:13一方、Kadavu(カンダヴ)方言とBatiwai(ンバチワイ)方言の x と kw は、対応している可能性があります。母音も違ってしまっていますが、同じ語にさかのぼれるかもしれません。
2015-11-29 11:17:56こうしてみると、フィジー語の「これ」を表す語には、三系統の起源がありそうであることがわかります。音対応に基づいて語彙の対応を調べることにより言語の発達経緯をさぐる比較方法を適用することで、このようにいろいろなことがわかります。
2015-11-29 11:19:26