@gesukore すり、と擦り寄られると、鶴丸の耳の下あたりに江雪の鼻があたった。その次に唇の感触がして、つつ、となぞるように移動し、血を吸うでもなく耳たぶをやわく食んだ。何がしたいのかと、鶴丸は混乱した。彼の戯れを享受するしかできずに体温ばかりがじわじわと上がる心地がした。
2015-10-08 15:11:10@gesukore 正直生殺しもいいところだった。二人の絡んだ指にかり、といやらしく爪が立てられる。もう片方の手はうなじから背を降り、腰の線を確かめるように指が這わされている。じわりじわりと獲物を嬲る蛇のようだった。
2015-10-08 19:18:55@gesukore 想い人にこんな仕打ちを受けて、熱を溜めないでいられるほど鶴丸はまだ年を重ねてはいない。動かない身体がもどかしくて、湿った吐息がじわりと震えた。
2015-10-08 19:21:15@gesukore 「鶴丸」 耳に直接声を吹きこまれて鶴丸の身体がはねて粟立つ。情けない声が漏れなかったことに内心ほっとしていると、耳を弄んでいた唇が頬を撫でるように滑って、額をこつりとあわせられた。
2015-10-08 19:29:51@gesukore 息を呑む。 鶴丸の眼前に広がる深い湖のあお。その水面は怒りか、情欲か、熟れた色に波打っているようだった。唇は触れそうな程近く、けれど決して重ならない。彼はまるで動かないこの身体をどうしようもなく恨めしく思った。
2015-10-08 19:34:27@gesukore 彼は思った。 ああ、自分はどうしようもなく彼に焦がれている。 彼がその瞳に秘めた激情をぶつけてくれたのなら、それがどんなに残酷なものでも自分は喜んで受け入れてしまうのだろうと思うほどに。
2015-10-08 19:37:14@gesukore しかし、 「……すいませんでした」 江雪はふ、と目を伏せると、深く息をつき人形と化した鶴丸の身体をソファに横たえ、愛しげに一度髪を梳いた後、離れてしまった。その顔に浮かぶのは少しの高揚、そして後悔と懺悔。 「」
2015-10-08 19:43:01@gesukore そうして、今日はもう休みますと残して、自室へ篭ってしまった。 鶴丸の身体は晴れて自由を得たが、どうしても彼は江雪の部屋には歩をすすめることができなかった。 それはつまり、彼が鶴丸を拒んでいるから。 まだ寝るには早い。朝焼けがくる前のこと。
2015-10-08 19:45:37@gesukore 空が白み始める。ゆるゆると訪れる眠気に、鶴丸はもう抗う気力もなかった。ソファに寝転がったまま、ここまま寝てしまおうかと思う。ソファの側には厚い遮光カーテンがあいたままの窓がある。自分は日向で眠っても平気なのだろうか。わからないが、もうなんだかどうでもよかった。
2015-10-09 07:50:46@gesukore なかばやけになっているのかもしれない。 彼を怒らせてしまった焦りと、彼に拒まれたショックは存外大きかった。 そして一人で眠りに落ちるのは初めてで、寂しい。いつものように髪を梳いておやすみと言ってくれる彼が隣にいない。それが何より堪えて、一粒の涙と共に瞼をとじた
2015-10-09 08:05:12@gesukore 江雪は青褪めた。 日が昇る前に眠った彼は、朝日が昇り始めた頃に目を覚ました。そうして、昨日のことを思い返し憂鬱な気分のまま、自室から出て今に至る。 鶴丸は昨日の姿のままソファで眠っていた。 日の光が柔く差し込む明るい部屋の中で。
2015-10-09 08:18:28@gesukore 慌ててカーテンを閉める。それでも漏れ出る光で部屋は明るい。急いで窓のない彼の部屋へと鶴丸を抱き抱えて連れて行く。彼の身体は渇いていて呼吸も弱々しかった。江雪は迷うことなく唇を噛み切ると、口移しで自分の血を流し込んだ。
2015-10-09 08:27:41@gesukore 鶴丸の喉がこくりと動くと、白くまろい頬にみるみるうちに赤みがさした。胸にぴたりと耳をつければ穏やかな心音に暖かい体温。ほう、と江雪は安堵の息をついた。 自分が日が高くなるまで眠っていたらと思うとぞっとする。彼はまだ日の元に出るには早すぎる。
2015-10-09 12:52:57@gesukore 今はもう綺麗に治ったといっても、異形になりたてだったころ、不注意に日の元にでようとして腕を溶かしたことを忘れたわけではないだろうに。昨日彼を突き放した自分も悪いけれど、そのままあんな場所で眠った彼にも憤りを覚えた。 自分の命をそんな簡単に危険に晒さないでほしい
2015-10-09 12:53:47@gesukore だって、江雪の命が鶴丸のものであるのと同じように、鶴丸の命は江雪のものなのだ。そして、江雪のただひとつの拠り所。結局は自分勝手な都合なのだな、と暗い部屋の中、暖かな鼓動に寄り添いながら江雪は自嘲した。 彼が眠っている間は退屈だった。
2015-10-09 12:54:19@gesukore 大抵は彼のそばで本を読むか、こうして何もせずに触れているか、あまり彼に会わせたくはない者達に会いにいくか、いずれにせよ早く日が落ちればいいのにといつも思う。彼と過ごす時間が惜しくて、眠りにつくまでそばにいて目を覚ます時は寄り添う。結局はこれも自分の都合だった
2015-10-09 12:57:36@gesukore 目を覚ますと、胸のあたりが重かった。 やはり日なたで寝るのはまずかったのだろうなと、鶴丸はぼんやりと考えた。思考が霞んで瞼が落ちそうだ。寝ぼけている、とどこか遠いところで思った。 あくびをひとつおとす、視線をひとつおとす こちらを見上げる湖に心臓が止まった
2015-10-13 08:05:18@gesukore 暗がりの中にも静かに波打つ湖は吸い込まれそうな程綺麗だった。胸につけられた頬は鶴丸の体温が移って、まるで血を飲んだ後のようにほのかに暖かい。添えられた手までもしとやかで、美術品のようだった。 「…おはよう」 掠れた声を絞り出すと、喉の奥で彼の血の味がした
2015-10-13 08:12:01@gesukore 表情も指先も人形のように動かない。けれどその瞳だけはゆらりとさざめく。江雪の瞳は雄弁だ。浮かぶのは安堵と歓びと少しの怒り。鶴丸が胸にもたれる頭を髪をすくように撫でてやると、ふるりと睫毛が震えて、かすかに擦り寄った。 「鶴丸」 こぼれる音さえも愛しいと思った
2015-10-13 08:18:31@gesukore 「…きのうは、私、貴方にひどいことをしました。…でも貴方もひどいことをしました………だから、あやまりません」 涼やかな声は段々と萎んでいって、最後には胸に顔を埋めて消え入るような声で江雪はそうのたまった。ばつが悪いのか耳がほのかに赤い。
2015-10-13 08:23:58@gesukore 鶴丸は思わず吹き出した。江雪は存外意地っ張りで強情だ。うまい甘え方も折れ方も知らない。くつくつと肩を震わせる鶴丸を恨めしげに見やる江雪の髪をぐしゃぐしゃと乱暴にかき回して、身体を起こして思い切り抱きついて「なら俺も謝らない」と口づけをした。
2015-10-13 08:29:04@gesukore 鶴丸はすこぶるご機嫌だった。 あの夜、といっても昨日のことだが、江雪と夜が明けるまでずっと、寄り添い、手を絡め、戯れに口づけをし、抱き合ってまた眠りに落ちた。
2015-10-18 14:14:44