稲川淳二の『つぶやき怪談』(2015.11.30)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

私が出て行くと、 「あ、タクシー、よろしいんですか」 って聞かれたんでね、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いや。順番待ってても大変なんで、 歩きながらどっかで拾いますよ」 と言ったら、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「そうですか。お気をつけて。ありがとうございました」 と言うから、 「いや、どうも」 　と。で、歩きながら、ふっと思い出したんで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「すいませんがねえ、 私より先に、どなたかもう歩いてった方、います？」 って聞いたら、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いや、まだどなたもいらっしゃいません」 と言う。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

というのは、私は自分の帰る方向へ向かって歩いてるわけだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

だから、後ろから来たタクシーに乗るわけですよ。 で、私が歩いていく。 タクシーが後ろへ来た。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時に、後からだれか来てて先に拾われちゃったらたまんない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

逆に、私より前に人が歩いてるんならば、 横取りするような感じでなんか悪いような気がしたんでねえ。 それで、聞いたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが、ボーイさん、いないって言うんで、 「じゃあ、今のうち、拾おうかな」 と思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところが、なかなか来ないんですよね。 歩きながら、ひょいっ、と見るんですよ、後ろのほうを。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

タクシー来ないかなと思って。 でもいっこうに来ない。 たまに来たなと思うと、もう人乗ってるんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ここら辺はタクシーが少ないんだなあ」 と思いながら、暗い歩道をてっくてっく歩いてた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

街路灯があんまりない。暗い。 と、そのうちに、ずーっと長い石の塀が続いてるところへ来た。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

文京区って、そういうとこ結構多いんですね。 うっそうと木が生えてて。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ずいぶんとここら辺は、暗いな」 と思いながら、歩いてた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

とね-----。 前方に、人影が立ってんですよ---。 ふたり。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あれー、バスでも待ってんのかな」 と思って。近づいてった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

距離がだんだん、だんだん近づいて……。 ずいぶん近くになったらば、向こうがこっち向いたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

なんとなく顔が合っちゃった。 私が頭下げたら、向こうも、頭下げて。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

通り過ぎようと思ったらば、 「歩いてお帰りですか」 と言われたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ええ、もう……」 と言いながら、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ああ、このふたり、きっと同じパーティーのお客じゃないかな」 と思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いやあ、もう車つかまんないから、歩きながら拾おうと思いましてね」 と言って見ると、白髪頭というかな、 白髪の御夫婦で、かなり年配の人なんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その奥さんのほうが、胸に白い菊の花束を抱えてる。 で、私、「じゃあ」って言って歩いてたら、一緒についてくる。