【十八歳、冬へ】 福間健二 #k2fact131
きみはもう十七歳ではない。きみはもう傲慢になれない。笑い声のひびく草むらや風の吹き抜ける街を歩く自分を三人称で記録する。それにも飽きたけど、彼女あるいは彼は入り江に出る階段をおりていく。黒い手がさしだされる。ごめんね、何もあげるものがないよ。(十八歳、冬へ1)#k2fact131
2015-11-30 09:50:19いいやつといやなやつに会う。この湿った国。空き缶と枯葉が落ちているコンクリートの上。お金が好きか。人殺しができるか。どんな注射を打たれたいか。質問のあとは、涙と精液の対位法的な取引。そしてどこにいるのかわからない人類についてのおしゃべりだ。(十八歳、冬へ2)#k2fact131
2015-12-01 11:31:45入り江の生物と鉱物、速度と色彩。海からやってきてここに共存する。緊張感も老化の程度も異なるブロックのあいだの、彼女あるいは彼の死体への、音の波。きみは数をかぞえる。きみは意見を言う。許されなくても駅のキオスクで買ったサービスサンド食べながら。(十八歳、冬へ3)#k2fact131
2015-12-02 09:06:50パンとハムとレタスと卵だったものの思い出。盗みをして、タバコをすい、ジーパンのジッパーを下げ、最悪の国に生まれてくる怪物のやさしい目のために古い体を放棄して、まだ新しい体を手に入れていない。中途半端に殺したのだ。血のついた手がまだ動いている。(十八歳、冬へ4)#k2fact131
2015-12-03 11:33:09建物とコンクリートの道といくつかの人影。衝突はない。爆発はない。ガソリンの匂いのする夜だけが我が物顔で腕をひろげる。その皮膚。その細胞。何から命令を受け、何にさわり、何を吸い込み、そんなに醜いのか。雲、そのなかに隠れている滝の音がうるさい。(十八歳、冬へ5)#k2fact131
2015-12-04 12:15:59いくつものVのかたち。壁にも壁に打ちつけた額にもできて、だれも勝利させない、粘着質の疲労におおわれたこの世界の、せかせかした態度。ただ点線に沿って切るだけ。なんだ、こんなものでだれもがだれかの使う道具になることを納得させるのか。トカゲがいた。(十八歳、冬へ6)#k2fact131
2015-12-05 15:27:42夜の目、分裂する細胞を見つめたそれ自体分裂していく目。タバコをすう女、地図の川をなぞるその指。ガラス質の繊維の、孤島。ウイスキーを飲みつづける病気の猫、その耳の黒い惑星、そこに棲む虫たち。それらに支配され、眠らずにいる十八歳。聞こえるかい?(十八歳、冬へ7)#k2fact131
2015-12-06 11:44:57十八歳。いまはさらば、死にたい地球よ。十分に我慢して、そういう身ぶりで。あるいは三十四歳。あるいは七十一歳。まだ硫黄の匂い。性欲的な放物線、あらゆる方向に。ただ黒い斑点が増えて。あるいは九十六歳。空きビンを投げつける。砕ける音を聞くために。(十八歳、冬へ8)#k2fact131
2015-12-07 09:49:16きみのおしゃべりにはウンザリする。きみのトカゲには社会が、下着の広告が、何度も言われてきたことが、トマトソースが。下水溝の匂いを発散して停止と逆まわりをくりかえして。いいか、裏側を見せないように階段をおりてきたこの惑星は百円ショップで買える。(十八歳、冬へ9)#k2fact131
2015-12-08 08:04:11見知らぬ道を選んだことを後悔するな。いくつかの死を錯覚の生む「運動」にとりかえたことも、毎日気温三十度以上のダルエスサラームからの通信を受けそこなったことも。大丈夫、きみの好きなマユラちゃんは元気らしいよ。きみを食べる寒さはこれからだけど。(十八歳、冬へ10)#k2fact131
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