- anokazenikike
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1)2015年11月29日、23時24分。ニューヨーク市警、警視総監であるトーマス・リンチ(Age-51)は自室で独り、お気に入りのブランデーを嗜んでいた。一般市民の平和と安全な日常を守る警察官、それも更に重い役職を持つとなれば、本当の意味でオフの日など無いに等しい。
2015-12-21 22:22:242)だがそれでも人間、たまには気を抜く時も絶対に必要だ。トーマスは極めて実直かつ厳格な人柄だったが、連勤に継ぐ連勤を終え、翌日が非番であるような晩には、家族にも干渉しないようしっかり言い含めてから、こうして独りの時間を満喫するのが常となっていた。
2015-12-21 22:22:413)そんな中、突如。携帯電話が鳴る。「……」思わず無言で睨んでしまう。仕事用の携帯に掛かって来るということは火急の要件、極めつけに厄介な事件ということだ。溜息をつきながらもそこは仕事、と割りきって携帯を手に取れば……知らない番号。どういうことだ?
2015-12-21 22:22:504)「もしもし。……誰かね」トーマスが問う。応えたのは「やあ、こんばんは。夜遅くにごめんよトーマス。僕さ」全く知らない、若い男の、軽薄そうな声だった。「誰だね君は。私には君くらいの歳に知り合いなんて居ない」
2015-12-21 22:23:045)「酷いなぁトーマス。確かに会ったことはないさ。だけど僕、お孫さんとはよく遊ぶ仲なんだよ?」「なんだと?」「きみ。去年だったか、孫娘で、7歳、かわいい盛りのコニーちゃんに、買ってあげたでしょ。絵本」「……何故、そんなことを知っている」トーマスの頭が一気に警鐘を鳴らし始める。
2015-12-21 22:23:206)「タイトルは”ウォーリーを探せ”。違うかい?」「……何故知っているのかと聞いている」「やだな、会話はキャッチボールさトーマス。まずは僕に話したいこと話させてよ。コニーちゃん、とってもプレゼント、喜んでくれたよね。ありがとうじーじ、あたし、沢山読むね!って」
2015-12-21 22:23:407)「コニーちゃんは宣言通り、夢中になって絵本を楽しんでいたらしい、ってのは君も聞いてるんじゃないかい?子供の知育に絵本は最適だからね。そして彼女は実に優秀で、何度も”僕”を見つけてくれたよ」「……僕?」
2015-12-21 22:25:518)「僕は僕さ。ウォーリー。それが僕の名前」「くっ、はは。何を言い出すかと思えば……」酒が回っていたのもあるだろう。個人情報をどこから握られたのか情報を引き出さなくてはというのもあるだろう。段々と、不審者の話に、ほんのすこし。トーマスは耳を傾け始めていた。
2015-12-21 22:26:159)「僕はね、知っての通り、世界一の隠れんぼ上手さ。世界で、一番だよ?一番。隠れんぼして、まあ正確には隠れるというか紛れてるわけだけど、そうやって子供たちの心を楽しませる仕事に、とても満足していたんだ。だけどある時、気付いてしまった。それだけじゃ、満たされないものがあるとね」
2015-12-21 22:26:5410)「ところでトーマス、連日のお仕事本当にご苦労様だよ。市民の平和を守る為に尽力する姿は実に尊いね。そしてここ最近の大きな事件といえばそう、ニュースにもなった、あれだよね」あれ。おそらくは。「ホワイトハウス……大統領の爆破暗殺未遂。それも。三件連続で」
2015-12-21 22:27:1211)――およそ2ヶ月ほど前。ホワイトハウス内で爆発物が発見されるという騒ぎが起きた。当然、大問題だ。警備体制の厳重な見直しが為され、人員も大きなローテーションがあった。しかし。……またしばらくして同じように、ホワイトハウス内で、爆発物が発見された。
2015-12-21 22:27:2412)間隔を空けて、3度。しかも3度とも、発見された爆発物には起爆装置の類が着いていなかったのだ。誤爆しないよう、厳重な処置も為された上で。故に、処理班が出動した時は凄くスムーズに処理が済んでしまったという。
2015-12-21 22:27:3713)傾向からして、明らかに愉快犯。それも、本気を出せばいつでもこの、厳重な警備を掻い潜ってでも要人を暗殺、大規模なテロにも発展させることが出来るんだぞという、アピール。そうとしか取れなかったし、警察は躍起になって犯人の捜査に当たったのだが……尽く空振り。
2015-12-21 22:27:5114)3度目以降はひと月経っても犯人側からアピールは皆無で、少し、捜査本部の気も緩む。トーマスが取った休みはそんな折の1日だった。「あれね、犯人僕。僕がやったの」「……言っていい冗談と悪い冗談があるぞ、ウォーリー君」
2015-12-21 22:28:0115)「世界一の隠れんぼ上手である僕からすればさ、あんなとこ忍びこむなんて簡単なんだよ。あくびが出ちゃうくらいにね。言いたいことわかる?」「……」
2015-12-21 22:28:3816)「僕はさ、自分の隠れんぼスキルの限界を試したいんだ。どこまで通用するのか自分で検証したいんだよ。その為には多少、強引な手段を使ってでもね。大統領を木っ端微塵にするのも、コニーちゃんをバラバラのパズルピースにしちゃうのも、僕なら簡単ってこと。よく覚えておいてね」「…………」
2015-12-21 22:28:5217)「来月25日、クリスマス当日。イルミネーションで彩られるNYの街は、さぞ多くの人でごった返すだろうね。そこで僕は、爆弾を156個仕掛けるよ。気が向いたらもっと沢山」「それで?」「クリスマスにはパーティーゲームが付き物だろ?ゲームをしてほしいのさ」
2015-12-21 22:29:0618)「僕はNYの街を出歩くよ。夜景を楽しみながらね。なにか食べたりもするかも。写真を撮ったり。クリスマスを満喫する。そしてそんな僕を……見つけて欲しい」「ふん。そこでやっとウォーリーに繋がる訳だな」
2015-12-21 22:29:2019)「2つ、約束するよ。僕は絶対に、寒くてもどこか室内へ入ったり、遮蔽物のある場所へ隠れたりしない。そして、絵本でよく知られたあの格好以外をしない。その上で、僕を見つけて欲しいのさ」「なるほど?NY市街全域では勿論かなりの広範囲だが」
2015-12-21 22:29:3520)「イルミネーションが近くで見える場所にしか行かない、ってのもじゃあ追加しよう」「ふむ」「そして僕からの条件はひとつだけ。……見つけるのは、警察官じゃない。子供じゃなきゃダメだ」「何故」「何故って君。決まってるだろ。僕のライバルはいつだって、子供たちだからさ!」
2015-12-21 22:29:5121)「見つけたら必ずこう叫ぶこと。”ミッケ!”ってね。僕には及ばないけど、彼もまた隠れんぼ界では有名だから。名前をあやからせてもらう」「なるほど、なるほど。それは確かに隠れんぼなんだろう」「あ、子供以外を使って僕を見つけたら勿論その瞬間全ての爆弾を起爆するからね」
2015-12-21 22:30:0622)「ああ。わかったよミスタ・ウォーリー。君の言うことを信じよう。今は」「今は?」「だが実際の君はキャラクターの名を騙り意味不明な理由でテロを企てるサイコパスだ。それをすぐに思い知らせてやる。待っていろ」「へえ。いいね。楽しみにしてるよ」
2015-12-21 22:30:3223)ここまで滔々と語らせておいて、ではあるが。全てが狂言であるという可能性も勿論ある。しかし、自分と孫娘についてのこと、そしてホワイトハウスで発見された爆発物について、捜査関係者でしか知り得ないであろう情報を淀みなく話されては、信じざるを得ない。
2015-12-21 22:30:4224)かくして、決戦はXmas。ウォーリーの出版社とタイアップした高額賞金の宝探しゲームとしてアメリカ全土から観察力に優れた子供たちが集められ、その中から更に選抜された200人の子供たち(コードネーム・ミッケ)と、ウォーリーの戦いが始まった。【劇場版 ウォーリーvsミッケ】
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