「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」 #5
「「アイエエエエエエ!」」高速回転するテクノカタナの刀身が軽く触れただけで、ヤクザバイカーたちの肉体は、ジュースミキサーにかけられたトマトのように血飛沫を撒き散らしながら爆ぜた! ナムサン! コントロールを失った2台のバイクは橋から転落し、海面に叩きつけられて激しい爆発を起こす!
2011-01-22 00:33:19「ザッケンナコラー! 解ったか!」モタロウは返り血で顔をオニのように赤く染め上げながら、他の連隊メンバーたちに対して素早いIRCメッセージを送信した。「これが臆病者の末路だ!今頃あいつらは、冷たいネオサイタマ湾で、黒目がちな殺人マグロどもと楽しくやってるだろうぜ!」
2011-01-22 00:39:57連隊長の言葉で戦意をみなぎらせたヤクザバイカーたちは、さらに危険な第二段階ニトロを吹かして、稲妻のようなスピードで武装霊柩車を追う。上空から見ると、まるで船を襲う殺人マグロの群れのように、毒々しいネオンサインを輝かせた数十台以上のヤクザバイクが武装霊柩車の後方へと接近していた。
2011-01-22 00:48:13BLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!! ヤクザバイクに搭載された小型マシンガンが、銀色の武装霊柩車めがけて一斉に火を噴く! ゴウランガ! だが、デッドムーンは眉ひとつ動かさない。防弾加工が施された武装霊柩車の車体やタイヤを、この程度の銃撃で破壊することはできないのである!
2011-01-22 00:52:22「ザッケンナコラー!」ヤクザバイクが武装霊柩車の左右から迫る! ナムサン! だがデッドムーンは顔色ひとつ変えず、ハンドルに備わった攻撃ボタンを押す! 小型シュラインのカワラ屋根からマシンガンの銃口がいくつも現れ、ジゴクめいた一斉射撃で両側面のヤクザを蜂の巣にした! 「グワーッ!」
2011-01-22 00:53:37「テメッコラー!」新手のヤクザバイクが武装霊柩車の左右から迫る! ナムサン! だがデッドムーンは顔色ひとつ変えず、ハンドルに備わった攻撃ボタンを押す! シャーシの下腹部から大型バズソーが出現し、両側面のヤクザバイクを一瞬で切断した! 「グワーッ!」
2011-01-22 00:54:40「ザッケンナコラー!」さらに新手のヤクザバイクが武装霊柩車の左右から迫る! ナムサン! だがデッドムーンは顔色ひとつ変えず、ハンドルに備わった攻撃ボタンを押す! 小型シュラインから何本ものバイオタケヤリが突き出し、両側面のヤクザを一瞬で串刺しにした! 「グワーッ!」
2011-01-22 00:55:54「スッゾコラー!」新手のヤクザバイクが武装霊柩車の左右から迫る! ナムサン! だがデッドムーンは顔色ひとつ変えず、ハンドルに備わった攻撃ボタンを押す! 防弾タイヤのホイル部分からダイヤモンド・カマが出現して回転し、ローマ式チャリオットのごとく両側面のヤクザを粉砕! 「グワーッ!」
2011-01-22 00:57:24「ブッダコスモス……ウィーアーインザスペース……」武装霊柩車のレディオから流れるダークエレクトロ・ポップに合わせ、デッドムーンは無表情に鼻歌を歌っていた。ドアの外で起こっている殺戮に比べ、快適な車内はまるで別世界だ。ネズミハヤイに搭載されたAIが、マッチャとオカキを2人に振舞う。
2011-01-22 01:03:20その時『実際あぶない』という警句がフロントガラス右下のLEDディスプレイで明滅した。「アブナイデスヨ」という女性的な電子合成音がオーディオから流れる。「解ってるぜ、レディー」デッドムーンはサイバネ義手でハンドルを握り直し、アクセルを踏み込む。そして助手席に「また車酔いに注意だ」。
2011-01-22 01:07:59そこは、グラントリイ・ブリッジの切れ目だった。ここでタダオ&ヒロシ重工の資金が尽きて倒産し、工事も頓挫したのだ。この先、300メートル先に築かれたグラントリイ・ブリッジの西端部まで、道路は無い。真っ黒いヘドロに満たされた、アビスのごときネオサイタマ湾が広がっているだけだ。
2011-01-22 01:11:28「グワーッ!」ダークオニのヤクザたちは橋が途切れていることに気付き急ブレーキをかける。それが逆に大混乱を招き、連鎖的にクラッシュして次々と爆発炎上するか、あるいは横滑りのまま転落した。「ザッケンナコラー!」連隊長モタロウは勢いよくジャンプしたが、150メートルが限界だった。
2011-01-22 01:16:52では、デッドムーンの駆る武装霊柩車、ネズミハヤイはどうか? おお、平安時代に生きたコトワザの巨匠ミヤモト・マサシよ、アノヨからご照覧あれ! 銀色の車体の側面にはセスナ機めいた翼が生え、死せるヤクザの魂をヴァルハラへと運ぶ、凛としたヴァルキリーのごとき美しさで空を舞っていたのだ!
2011-01-22 01:26:02数秒の無重力体験……下降……そして無事着地。ネズミハヤイのタイヤがわずかに左右にぐらつくが、この程度の衝撃で破壊されるほどヤワな車ではない。強烈なグリップとサステインの力で、すぐにコントロールを取り戻した武装霊柩車は、何事も無かったかのように平然と港湾倉庫地帯を駆け抜け始めた。
2011-01-22 01:30:33「どうだい、クライアント=サン。酔ってないだろうな?」デッドムーンは助手席に問いかける「あと数分でウシミツ・アワー。そしてダルマ・シュラインに到着だ。…結局、今回の運びの潜在敵ってのは、最後まで現れないんじゃないのか? まさか、さっきのダークオニ・クランのイカレ野郎じゃあるまい」
2011-01-22 01:34:28「……敵の名は、ニンジャスレイヤー」ついにカメラヤクザはその重い口を開いた。デッドムーンが問う「ニンジャスレイヤー? 知らん名だな。そいつが本当に、1人でヤクザクラン数個分に匹敵するというのか?」「そうだ。IRCで今入った情報によると、奴はダルマ・シュライン内部で待ち伏せている」
2011-01-22 01:40:44「ブッダファック! そいつは斬新な攻め方だな!」デッドムーンはニューロンがちりちりするのを感じた。通常、武装霊柩車を使った死のゲームは、棺桶が目標のテンプルに到着した時点で終了となる。そのテンプルには、クライアント側のヤクザが十分な兵隊を集めて守りを固めているのが通常だからだ。
2011-01-22 01:43:34「どうしたらいいんだ? クライアント=サン」「名誉にかけて、この棺桶はウシミツ・アワーまでにテンプルに運ばなくてはいけない。テンプルに突撃し、ニンジャスレイヤーを殺すのだ。安心しろ、ものの数分で増援も到着する」「オーケイ、了解だ。1億の仕事だからな、そのくらいの歯ごたえが欲しい」
2011-01-22 01:46:16その時、デッドムーンは背筋にぞくりと冷たい汗が走ったのを感じた。彼は自らの耳を疑う。まるでニンジャスレイヤーという言葉に呼応したかのように、武装霊柩車の後ろに積まれた鋼鉄の棺桶の中から、不吉なうめき声と、蓋を力任せに叩くような音が、微かに漏れ出してきたような気がしたからだ!
2011-01-22 01:51:12「ウッ……」デッドムーンは持病の偏頭痛に顔を歪めながら、助手席に居るクローンヤクザに問う「クライアント=サン、今後ろで、何か物音が聞こえなかったか?」と。するとカメラヤクザは、ぞっとするほど機械的な笑顔の表情を作り「武装霊柩車ドライバーが、幽霊を信じるのか?」と言い放ったのだ。
2011-01-22 01:54:26「まさか…俺はプロフェッショナルだぜ」デッドムーンは頭痛をこらえながら、ネズミハヤイに備わった心音スキャニング装置を作動させる。反応ゼロ。後方の小型シュライン内における生体反応は皆無だ。「すまないな、クライアント=サン。俺のニューロンはだいぶ錆びついてきてるようだ。忘れてくれ」
2011-01-22 01:57:52ああ、何たるマッポー的運命か! 彼はソウカイヤにはめられたことも、棺に入っているのがゾンビーニンジャ被検体1号レベナントであることも知らぬのだ! デッドムーンはカキノタネで頭痛を消し飛ばし、再びプロフェッショナルな武装霊柩車ドライバーの顔に戻って、アクセルペダルを強く踏み込んだ。
2011-01-22 02:00:49