Bunzo氏による、WW2における米軍の迷彩塗装規定についての話

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Bunzo @Kominebunzo

米陸軍機の迷彩はOD色の基本塗装に色々なバリエーションが現地で考案されて部隊ごとに塗られたので例外的迷彩も数多く見られる・・・という認識はけっこうな部分で間違っている、米国でも軍隊はお役所の最たる存在なので大概のことには規定がある、という話を忙しい年の瀬にしたら怒られるかしら。

2015-12-27 06:26:23
Bunzo @Kominebunzo

史料と呼べるものは残っているのか、といえば帝国陸海軍とは比較にならない水準で残されている。広まっていないのは多くの「新事実」と同じように「あんまり読まれて来なかった」からで、現実には大小取り混ぜてうんざりする程の情報がある。多すぎるので纏め難かったのかもしれない。

2015-12-27 06:37:07
Bunzo @Kominebunzo

面白いことに「米陸軍機の迷彩色はオリーブドラブである」という半ば常識のような話からして事実ではない。どこかに「迷彩はODで」と定められていてとにかくODが塗られているといった何となく感じられた推論が重なって常識となっているだけのことで、原則を定めた規定には違うことが書かれている。

2015-12-27 06:45:39
Bunzo @Kominebunzo

T.O.(Technical Order)07-1-1 Marking & Insignia & Camouflage 1941年6月20日のこのT.O.が米陸軍機の本格的な迷彩塗装規定となる。 これを補足する形でAir Corps Spec.24114が出て、この二つが基本。

2015-12-27 06:46:01
Bunzo @Kominebunzo

07-1-1は迷彩塗料は定着性、耐久性が悪く剥離しやすいものであくまでも応急的に塗装されるものとしている。だから翼前縁などが剥離しても補修塗装は禁じられた。いい加減に補修すると無駄な重量を喰うのでたとえ見た目が悪くなっても補修禁止。「迷彩塗装は余計な重量物」この考え方が重要。

2015-12-27 06:49:56
Bunzo @Kominebunzo

米陸軍は「迷彩塗装は余計な重量物」と考えている点がとても重要で、迷彩塗装の始まりと終わりに絡んでくる。不要になれば剥がしたい。塗料としての性能が悪くても構わない。不要になれば剥がす。といった考え方は日本陸海軍と同様だけれどもより徹底しているのが米軍の特徴。

2015-12-27 06:54:05
Bunzo @Kominebunzo

そして07-1-1が定めた迷彩色はオリーブドラブとミディアムグリーンの2色。米軍は最初から緑の多い地域ではOD色の迷彩効果が上がらないと考えていたことがわかる。米軍機OD色には茶系のものと緑系のものがある、と昔から言われていたのはミディアムグリーンという制式が存在していたためだ。

2015-12-27 06:57:35
Bunzo @Kominebunzo

07-1-1による塗装規定の仕上げ法を定めたのがSpec.24114 全面にZincを一回塗した後で迷彩色を2回塗るといったことの他に「マスキング禁止」がある。下面のニュートラルグレーとの境界は必ずボカすと決められている。上下色の境界は塗装の都合でボケている訳では無いということ。

2015-12-27 07:02:27
Bunzo @Kominebunzo

黒く塗られている米軍機のプロペラブレードも迷彩塗装のうちに数えられる。先端4インチ幅の黄色塗装も24114の修正No.4で決まる。プロペラ塗装も「補修禁止」でハゲチョロになっても次のオーバーホールまで再塗装できない。再塗装した後にバランスをとって再び取り付けられるという規定。

2015-12-27 07:08:00
Bunzo @Kominebunzo

上面色と下面色との塗り分けにも原則がある。上空から30度の角度で見える範囲には上面色を塗るというもの。機体ごとに事情が違うせいか繰り返し命じられるのは上から下面色が見えないように塗るというもの。まあ、常識的な規定だと思うけれどもそこまで規定がある、ということ。

2015-12-27 07:13:25
Bunzo @Kominebunzo

ODとミディアムグリーンに加えて夜戦色の黒が定められるのは1942年3月、アーノルド大将が「Summer Camouflage」を命じてから。どこがSummerなのか本人に問い質さないとわからないけれども、それは御当人が鬼籍に入られた現代だけでなく、当時でも「不可能」だった。

2015-12-27 07:21:37
Bunzo @Kominebunzo

北アフリカへの侵攻計画準備が始まるとアーノルド命令で「サンド」が迷彩色に追加される。上面サンドという塗装が公式のものとなる。下地はZincの1回塗りで迷彩は3度、と言いたいところを2度で済ます。 そしてこの頃、迷彩って応急塗装でいいのか?との疑問が出始める。

2015-12-27 07:26:47
Bunzo @Kominebunzo

翼下に描かれるU.S.ARMYの黒文字は1942年5月28日に省略が命じられる。但し、これは戦地のことでこれ以降も翼下にこれを描いた機体は工場から送り出される。訂正されるまでの期間、戦地に配備されたら消すという面倒なことをやっていた。

2015-12-27 07:59:19
Bunzo @Kominebunzo

翼やフィンに見られるムラムラ塗りが男らしい米重爆。実はこれも現地迷彩ではなく規定によるOD、ミディアムグリーン迷彩でODの上に翼舷の20%までのミディアムグリーンを雲形に塗り輪郭をボカす迷彩パターン。だから工場で塗る。 pic.twitter.com/NK2Y6SckWw

2015-12-27 08:04:06
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Bunzo @Kominebunzo

対潜哨戒機に塗られた下面色の白は1942年4月のハリファックス、ノヴァスコシアでの実験で効果が確認された。洋上で低空飛行する機体の下面色は白が最も迷彩効果が高く、次いで無塗装、ブルーグレー(ニュートラルグレー)は最下位。しかも白はグロスの艶あり塗装が良い結果を出している。

2015-12-27 08:33:59
Bunzo @Kominebunzo

良好な結果が得られた対潜用の下面色はなかなか制式にならない。北アフリカ、太平洋と広大な戦線で用いる迷彩の種類を出来る限り共通化する必要があり、材料不足を理由にグロスのオイスターホワイトの制式は1943年6月までペンディング。 pic.twitter.com/EPAvwwWBIv

2015-12-27 08:38:29
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Bunzo @Kominebunzo

多種の迷彩の必要は理解しても出来る限り統一したいとの米軍方針にとって邪魔な存在が大量に生産され続けている英軍向け機体の存在。英軍は英軍スキームの迷彩を強く要求し続け、英国人には雑でぶっきらぼうに見える米軍迷彩の効果を認めない。逆に米軍も英国迷彩の効果を半ば意地で否定する。

2015-12-27 08:46:48
Bunzo @Kominebunzo

対潜哨戒機用の白色塗装は米陸海軍と英軍がその効果を仲良く認めた唯一の例といっても良い位のもの。なのに採用が大きく遅れる。 pic.twitter.com/2SCiGe4GyC

2015-12-27 08:51:07
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Bunzo @Kominebunzo

迷彩を巡る米英両軍の相克は売り手市場ゆえに米軍が有利。英空軍は迷彩機の70%が使用しているダークグリーンは「OD色と似ている」から妥協するとの態度を見せ、FAAは米海軍塗装のまま供給してくれれば文句は無いと言い始める。

2015-12-27 09:00:15
Bunzo @Kominebunzo

迷彩塗装の他に米英で異なるのは国籍標識。結局、工場発注時にどちらの軍向けかを指定して仕上げられ、変更のある祭はModification Centerで修正することが1942年5月に決まる。つまり必要に応じて「英軍塗装の米軍機」が生まれることになる。

2015-12-27 09:03:32
Bunzo @Kominebunzo

Modification Centerとは何なのか。 それは民間航空輸送会社の整備工場群のこと。巨大な設備を持っているこの施設で細かな艤装を行い、改造による生産現場の混乱を最小限に抑えることを目的に設置された。日本海軍が航空廠でやっていたことをより大規模に実施したのがこの制度。

2015-12-27 09:06:14

続き的な

まとめ 試行錯誤する米陸軍機迷彩塗装~迷彩なくせば30~40km/hアップ?~ 少しでも速く、高くともがいたってことなんでしょうねぇ…… 11301 pv 26 3 users