【新・日本推理小説体系・総解説】《第1期》上

松井さんの【新・日本推理小説体系・総解説】の《第1巻》から《第7巻》までをまとめました。
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松井和翠 @WasuiMatui2014

見逃せない傑作が多数存在している。本全集で興味をもたれた方は是非そちらにも手を伸ばしていただきたい。

2015-12-28 22:50:21
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第2巻》 【大坪砂男】 「天狗」 「赤痣の女」 「三月十三日午前二字」 「大師誕生」 「美しき証拠」 「黒子」 「立春大吉」 「涅槃雪」 「暁に祈る」 「雪に消えた女」 「検事調書」 「浴槽」 「幽霊はお人好し」 「師父ブラウンの独り言」 「胡蝶の行方 贋作・師父ブラウン物語」

2015-12-29 23:20:26
松井和翠 @WasuiMatui2014

「盲妹」 「髯の美について」 「虚影」 「花束」 「閑雅な殺人」 「白い文化住宅」 「真珠橋」 「武姫伝」 「密偵の顔」 「霧隠才蔵」 「野武士出陣」 「私刑」 「花売娘」 「男井戸女井戸」 「ロボット殺人事件」 「三ツ辻を振返るな」 「日曜日の朝」 「零人」 「幻影城」

2015-12-29 23:21:15
松井和翠 @WasuiMatui2014

第2巻は大坪砂男の短編34作品を収録した。 芥川・太宰の例を引くまでもなく、短命作家・早世作家は神格化されやすいのが世の常である。探偵小説界にも戦前に大阪圭吉という戦火に散った探偵作家がいるが、その戦後代表として真っ先に名が挙がるのが大坪砂男であろう。

2015-12-29 23:22:37
松井和翠 @WasuiMatui2014

実働期間は10年足らず、遺した作品はすべて短編、というのがこの作家を如実に物語っている。それだけに、本来であれば全作品を収録したいところであったが、文庫で1000頁を基準に作品選定を行っていることが却って枷になり、中途半端に未収録作品を出すことになってしまったのは無念だった。

2015-12-29 23:23:31
松井和翠 @WasuiMatui2014

しかし、それを愚痴っていても仕方がない。作品の紹介に移ろう。

2015-12-29 23:23:51
松井和翠 @WasuiMatui2014

まず、巻頭に置くのはなんといっても「天狗」である。弟子・都筑道夫をして「「天狗」一作で大坪砂男の名は残る」と言わしめたこの異形の傑作は、5度の雑誌採録、14度のアンソロジー採録を誇り、都筑の予言を成就しるかたちとなった。

2015-12-29 23:24:45
松井和翠 @WasuiMatui2014

語り手が喬子という女性との“ある出来事”を機に彼女に対する復讐を決意・実行する話、といえばまともなように聞こえるけれども、その思考・道行がとにかく尋常ではないことに驚かされる。発表から半世紀たっても一切の類似作があらわれない「かまいたちのような、奇跡の一作」(島田荘司)。

2015-12-29 23:26:03
松井和翠 @WasuiMatui2014

「天狗」に比べるとまだまともに見えるが、その他の作品もなかなかに独創的なものばかりだ。鑑識課技師(大坪自身、警視庁鑑識課に勤務していた経験がある)緒方三郎を探偵役に据えた「赤痣の女」「三月十三日午前二字」「大師誕生」「美しき証拠」や、

2015-12-29 23:26:44
松井和翠 @WasuiMatui2014

思い切った物理トリックを駆使した「涅槃雪」「立春大吉」、酷薄な話の中にも僅かなロマンチシズムが漂う「暁に祈る」「花売娘」「花束」「盲妹」「虚影」なども十分佳作として味読に耐えうるだろう。

2015-12-29 23:27:22
松井和翠 @WasuiMatui2014

これらに共通するのは、ある状況に登場人物を追い込むことによって、奇矯な真相や思考を成立させてしまう手法である。そしてそれは、チェスタトンの諸作(例えば「イズレイル・ガウの誉れ」等)を思い起こさせる。

2015-12-29 23:28:35
松井和翠 @WasuiMatui2014

事実、作者はチェスタトンを愛読していたようであるし、ブラウン神父の贋作として「師父ブラウンの独り事」「胡蝶の行方」も物しているから、この特質はチェスタトンから学んだ技法を極端に先鋭化させたものとみることが出来るだろう。

2015-12-29 23:30:10
松井和翠 @WasuiMatui2014

この特質は時代物やハードボイルド風の作品にも共通する特質である。探偵作家クラブ賞を受賞した「私刑」や忍者もの「密偵の顔」「霧隠才蔵」もその物語の背景に貫かれる砂男独自の論理を感じ取れるはずだ。

2015-12-29 23:30:58
松井和翠 @WasuiMatui2014

割とありがちな発想から出発したと思しい「髯の美について」「閑雅な殺人」といったあたりの作品も、この作家の手にかかれば唯一無二の作品に化けてしまうのだから恐ろしい。対して、「白い文化住宅」「男井戸女井戸」「黒子」「零人」「幻影城」あたりは作者にしか書き得ない分類不可能な作品であり、

2015-12-29 23:31:43
松井和翠 @WasuiMatui2014

特に「零人」は「天狗」と並ぶ異形作である。

2015-12-29 23:32:24
松井和翠 @WasuiMatui2014

最後に、大坪砂男の全作品は創元推理文庫から刊行された『大坪砂男全集(全4巻)』で読むことが可能である。作品のみならず、付録や解説等も充実した全集であるため、それに比べるとむしろ本全集での収録は屋上屋を架す行為であったかもしれない。

2015-12-29 23:33:06
松井和翠 @WasuiMatui2014

しかし、この不世出の鬼才の名を、錚々たる巨匠と伍することはそれだけで価値のあることである。「天狗」一作のみならず、大坪砂男の名が一つのスタンダードとなる事を願ってやまない。

2015-12-29 23:33:38
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第3巻》 【山田風太郎】 『十三角関係』 『太陽黒点』 「チンプン館の殺人」 「帰去来殺人事件」 「虚像淫楽」 「眼中の悪魔」 「新かぐや姫」 「死者の呼び声」 「厨子家の悪霊」 「黒衣の聖母」 「この道はいつか来た道」 「怪異投込寺」 「幻葉桐の葉落とし」 「忍者傀儡歓兵衛」

2015-12-29 23:34:48
松井和翠 @WasuiMatui2014

第3巻には山田風太郎の長編2作品と短編12作品を収録した。 少し前までは山田風太郎といえば“忍法帖”、もしくは映画化された『魔界転生』の作家というイメージが一般的であった。それを覆したのが、光文社文庫から刊行された《山田風太郎ミステリー傑作選》と後続の評論家らによる再評価である。

2015-12-29 23:37:02
松井和翠 @WasuiMatui2014

その甲斐もあって、1985年の東西ミステリーベスト100では1作のランクインもなかった氏の作品が、同企画の2015年版では4作品(『妖異金瓶梅』『太陽黒点』『警視庁草子』『明治断頭台』)がランクイン。まさに、時代が作者に追いついたといえるだろう。

2015-12-29 23:38:20
松井和翠 @WasuiMatui2014

@WasuiMatui2014 『警視庁草子』は『警視庁草紙』の誤りでした。謹んで訂正いたします。

2015-12-30 00:43:05
松井和翠 @WasuiMatui2014

その後、《山田風太郎ミステリー傑作選》を元に編集・追加を経て、より求めやすい角川文庫《山田風太郎コレクション》が刊行されたわけだが、その中で惜しくも漏れてしまった傑作も存在する。長編で言うと今回に収録した『十三角関係』がそれだ。

2015-12-29 23:39:08
松井和翠 @WasuiMatui2014

基本的に、山田風太郎の長編ミステリは短編を数珠つなぎにして語り継いでいく《連鎖式》がほとんどを占めるのだが、『十三角関係』は例外的にその手法を使わない、真正の長編ミステリの一つだ。

2015-12-29 23:40:19
松井和翠 @WasuiMatui2014

ただ、それぞれの登場人物に事件に関わるエピソードを用意して、それを収斂させていく構成なので、《連鎖式》の諸作を《順列つなぎ》の長編とするならば、さしずめ『十三角関係』は《並列つなぎ》の長編といえるだろう。

2015-12-29 23:41:12
松井和翠 @WasuiMatui2014

新宿の酔いどれ医者・荊木歓喜を探偵役に置いたこの長編に、歓喜先生の初登場作「チンプン館の殺人」と歓喜先生“最後の事件”ともいえる鬼気迫る傑作「帰去来殺人事件」をサンドイッチするかたちで本巻は幕を開ける構成とした。

2015-12-29 23:41:53
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