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《連鎖式》を得意とすることからもわかるように、山田風太郎の本領は実は短編にあるのではないか―、そんなことを思わせるほどに短編は珠玉の作品がそろっている。探偵作家クラブ賞を受賞した「眼中の悪魔」「虚像淫楽」、“作中作中作中作”という手法が見事に決まった書簡ミステリ「死者の呼び声」、
2015-12-29 23:43:11![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
どんでん返しをこれでもかとリフレインさせた怪作「厨子家の悪霊」あたりは世評も高く、山田風太郎の作品のみならず、国産推理小説を語る際には避けて通ることのできない名作である。これらはすべて『虚像淫楽』(角川文庫)に収められている。
2015-12-29 23:43:38![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
この他になかなか陽が当たらない短編として「新かぐや姫」「この道はいつか来た道」「怪異投込寺」「幻妖桐の葉おとし」を収録した。「新かぐや姫」は稀代のひねくれ者である作者がひねくれにひねくれて最も崇高な境地にまで達してしまった隠れた名作。
2015-12-29 23:44:22![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「この道はいつか来た道」は“1章ごとに増えていく動機”という奇妙な謎を扱った作品で、同じく“動機”をテーマにした連作『夜よりほかに聴くものもなし』(光文社文庫)に収められている。
2015-12-29 23:45:11![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「怪異投込寺」は“一休さん”でおなじみの一休宗純を狂言回しに据えた連作の一編で乱歩にも絶賛された時代ミステリ。余談だが、紙幅の都合上明治ものを入れられなかったのは残念である。
2015-12-29 23:46:10![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「幻妖桐の葉おとし」は関ヶ原の戦いに敗れた大坂方に焦点を当てた作品だが、豊臣方の忠臣が次々と謎の死を遂げていく戦国時代版“そして誰もいなくなった”のような快作であり、このような作を物にする作者の奔放な想像力・創造力には脱帽するほかない。
2015-12-29 23:46:43![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
山田風太郎の時代小説といえば、前述した“忍法帖”は避けて通れないわけだが、その中にもミステリ味の強い(むしろミステリそのものといっていい)作品が多く含まれていることはあまり知られていない。今回は、その代表として「忍者傀儡歓兵衛」を収録した。
2015-12-29 23:47:50![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
さて、本巻のラストを飾るのは戦争ものの短編「黒衣の聖母」と長編『太陽黒点』である。両者とも優れた青春ミステリであり、作者の怒りと悲しみが最もストレートなかたちであらわれた傑作である。作品の性質上、具体的な紹介は避けるが未読の方は是非一読をお薦めする。
2015-12-29 23:48:33![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
《第4巻》 【鮎川哲也】 『黒いトランク』 『人それを情死と呼ぶ』 「五つの時計」 「赤い実室」 「道化師の檻」 「薔薇荘殺人事件」 「達也が嗤う」 「朱の絶筆」 「春の驟雨」 「かみきり虫」 「或る誤算」 「裸で転がる」
2015-12-29 23:51:17![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
第4巻には鮎川哲也の長編2作品と中短編10作品を収録した。 鮎川哲也といえば“アリバイ崩し”である。ただ、近年では“アリバイ崩し=退屈”というイメージから“鮎川哲也=退屈”という図式が勝手に生み出され、読者もなかなか手を伸ばしづらい状況があるのではないだろうか。
2015-12-29 23:53:35![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
確かに、鬼貫警部が活躍する一連の長編は特定の容疑者のアリバイを崩す、ハウダニットに力点を置いた作品がほとんどではあるが、最後までフーダニットの興味を残した作品もあるし、何より緩急自在の捜査小説としての面白さもある。
2015-12-29 23:54:05![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
それに加え、作者が最も力を入れているのはトリックよりもそれを解きほぐすロジックであり『死のある風景』(創元推理文庫)の解説で麻耶雄嵩が指摘する通り、鬼貫警部は論理を重んじる探偵エラリー・クイーンの子孫でもあるのだ。
2015-12-29 23:55:15![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
こういった面白さを一番わかりやすく伝える作品として長編の1本目に『人それを情死と呼ぶ』を選んだ。シンプルなアイディアと意外な犯人、哀切かつ題名と呼応した見事な結末など、三拍子も四拍子もそろった傑作である。鮎川哲也の長編にこれから触れようという読者にはまずこの作品を薦めたい。
2015-12-29 23:56:45![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
2本目の長編は、本来ならば『りら荘事件』を収録すべきであっただろう。ただし、作者を語る際に『黒いトランク』はどうしても外せなかった。『人それを』とは対極に位置する鮎川長編の中でも最も込み入った作品であり、初心者には到底お薦めできかねる作品ではあるが、
2015-12-29 23:57:23![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
この2長編を採ったことにより、必然的に星影ものの『りら荘』を採れなくなってしまったのは残念だが、その代わりに同じ星影もの「朱の絶筆(中編版)」を収録した。長編『朱の絶筆』の元となった小説だが、引き締まっている分こちらの方が上なのではないか。ちなみに、長・中編共に光文社文庫に収録。
2015-12-29 23:59:18![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
短編の方は、まずアリバイ崩しの「五つの時計」、密室ものの「赤い密室」「道化師の檻」、犯人当ての「薔薇荘殺人事件」「達也が嗤う」といった定評のある名作を採った。いずれもそれぞれの分野を語る際には外せない作品ばかりである。
2015-12-30 00:00:51![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
残り4編は、とぼけたユーモアのある作品を入れた。小林信彦に「ユーモアの欠如」を弱点として挙げられた作者であるが、決してそんなことはない。確かに、スラップスティックな笑いや毒のきつい皮肉・あてこすりなどは苦手としていたかもしれないが、そのとぼけた味わいのユーモアは珍重すべきものだ。
2015-12-30 00:01:23![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
その好例として《三番館のバーテン》シリーズから「春の驟雨」を、倒除ものから「或る誤算」を、ノンシリーズ短編から「かみきり虫」を、ノンシリーズ中編から「裸で転がる」をそれぞれ収録した。そのユーモアとともに、そこはかとないペーソスが混じるのが鮎川流。見逃してほしくない作品群である。
2015-12-30 00:02:36![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
《第5巻》 【土屋隆夫】 『危険な童話』 『針の誘い』 「『罪深き死』の構図」 「推理の花道」 「加えて、消した」 「Xの被害者」 「りんご裁判」 「変てこな葬列」 「情事の背景」 「美の犯罪」 「密室学入門」 「穴の上下」 「愛する」 「判事よ自らを裁け」
2015-12-30 00:03:47![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
第5巻には土屋隆夫の長編2作品と短編12作品を収録した。 鮎川哲也とともに長きにわたって戦後の本格推理小説を支えてきた作者は、作品数こそ少ないものの常に一定のレベルの作品を供給し続ける作家であった。特に長編はいずれも高値安定、どれを採っても異論はないのではないか。
2015-12-30 00:04:49![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
ただ、そんな中でも、『危険な童話』だけは頭一つ分抜け出している印象だ。決して、大きなトリックがあるわけではない本作だが、作者特有のロマンチシズムと小さなアイディアを積み重ねることにより、緊密に構成された推理小説と成っている。
2015-12-30 00:05:28![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
もう一方の長編『針の誘い』にも同じことが言える。こちらは、作者の看板探偵・千草検事シリーズの代表作である。サスペンスフルな展開と多段的な謎解きが読者の興味を離さない誘拐ミステリの傑作だ。特に、犯人の動機は作者が終生追い求めたテーマだけに、凄まじい印象を残す。
2015-12-30 00:06:23