【新・日本推理小説体系・総解説】《第1期》上

松井さんの【新・日本推理小説体系・総解説】の《第1巻》から《第7巻》までをまとめました。
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松井和翠 @WasuiMatui2014

これらとともに採るか否かを迷わされた作品が『ミレイの囚人』。推理作家がかつての教え子に監禁されることから始まるこの物語は、土屋作品中でもとびっきりの異色作である。前半の異様な盛り上がりが尻つぼみになっていくのが残念だが、82歳で執筆したとは思えない意欲作であることは間違いない。

2015-12-30 00:08:28
松井和翠 @WasuiMatui2014

さて、短編の方の紹介に移ろう。基本短編においても長編同様、高値安定を誇る作者だが、モチーフが共通する場合が多いため、「加えて、消した」「Xの被害者」といった一部の例外を除くと、既視感を感じる作品が多い。

2015-12-30 00:09:42
松井和翠 @WasuiMatui2014

むしろ、『穴の牙』『粋理学入門』といった“奇妙な味”のテイストを持った作品に本領があるように感じられる。本巻では前者から「穴の上下」を、後者から「密室学入門」をそれぞれ採った。

2015-12-30 00:10:26
松井和翠 @WasuiMatui2014

また、数奇な運命を描いた作品に冴えを見せ、処女作「『罪深き死』の構図」や、男女の最悪な出会いを描いた「愛する」、語り口に特徴のある「推理の花道」等が佳編である。最後に、本巻には収録しなかったが推理小説指南本『推理小説作法』も見逃せない一冊。

2015-12-30 00:11:23
松井和翠 @WasuiMatui2014

「小説は事実よりもなお真実である」をモットーに掲げ、推理小説の書き方を詳述した好著。特に、自作「三幕の喜劇」の発想や成り立ち・欠点(!)まで分析した第7章は圧巻である。作者の推理小説にかける情熱が感じ取れるに違いない。

2015-12-30 00:11:57
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第6巻》 【都筑道夫】 『猫の舌に釘を打て』 『七十五派の烏』 『銀河盗賊ビリイ・アレグロ』 「黒猫に礼をいう」 「女か虎か」 「風見鶏」 「人形責め」 「蜃気楼博士」 「写真うつりによい女」 「改造拳銃」 「本所七不思議」 「天狗起し」 「雨上がりの霊柩車」

2015-12-30 00:12:49
松井和翠 @WasuiMatui2014

第6巻には都筑道夫の長編2作品、連作短編集1作品、短編・ショートショート10作品を収めた。 都筑道夫は今回最も作品選定に苦しめられた作家のひとりである。なにしろ、本格推理・SF・怪奇・冒険・時代・ハードボイルド・ショートショート、果ては評論までこなした多彩な天才であるため、

2015-12-30 00:14:01
松井和翠 @WasuiMatui2014

バランス良く選ぼうとすると散漫になり、ある特定のジャンルに固まってしまうと全貌が見えなくなってしまう。悩みに悩んで、選択した作品が以下のとおりである。

2015-12-30 00:14:44
松井和翠 @WasuiMatui2014

長編には『猫の舌に釘を打て』と『七十五羽の烏』を収録した。「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、どうやら被害者にもなりそうだ」という一文から幕を開ける前者は、その宣言通り“一人三役”に挑んだ都筑長編初期の代表作。

2015-12-30 00:15:37
松井和翠 @WasuiMatui2014

同時期の実験的な長編作品『やぶにらみの時計』『誘拐作戦』と迷ったが、“束見本に描かれた日記”という形式を十全に活かした本作を選んだ。

2015-12-30 00:16:09
松井和翠 @WasuiMatui2014

後者は対照的に自らの提唱した“論理のアクロバット”を実践した正統派の本格推理小説。氏の作品の中では最もスタンダードな本作だが、それでも数々の蘊蓄や諧謔味に溢れた会話で読者を楽しませてくれる点は流石である。

2015-12-30 00:16:47
松井和翠 @WasuiMatui2014

上記2作を軸に、短編やショートショートを散りばめた。「黒猫に礼をいう」はポーの「黒猫」を下敷きにしたユーモラスな短編。同じくストックトンの「女か虎か」を下敷きにした同題の作品を置いた。こちらは、シリーズ《即席世界名作全集》中の一編。都筑らしい捻くれた「女か虎か」解釈にニヤリ。

2015-12-30 00:17:58
松井和翠 @WasuiMatui2014

怪奇方面の傑作としてはショートショートの名作として名高い「風見鶏」と雪崩連太郎シリーズから「人形責め」を収録した。いずれも人間の心の闇を描いて秀逸な逸品。

2015-12-30 00:18:47
松井和翠 @WasuiMatui2014

本格推理短編は代表シリーズ《退職刑事》と《なめくじ長屋》からそれぞれ2編ずつを採った。《退職刑事》は第1作「写真うつりのよい女」とアンチ・ミステリの一歩手前とでもいうべき中期の異色作「改造拳銃」を収録。

2015-12-30 00:19:26
松井和翠 @WasuiMatui2014

対して、《なめくじ長屋》は「本所七不思議」「天狗起し」をそれぞれ収録した。謎解きの鮮やかさは勿論、この時代でしかあり得ない解決方法も注目。特に前者の無情な結末は忘れ難い。

2015-12-30 00:19:57
松井和翠 @WasuiMatui2014

個人的に再評価を促したいのがハードボイルド系列の作品群である。本巻にはボクサー上がりの私立探偵・西連寺剛シリーズから「雨上がりの霊柩車」をチョイス。欧米のハードボイルドとは一味違う続きハードボイルドをお楽しみいただきたい。

2015-12-30 00:20:35
松井和翠 @WasuiMatui2014

最後に稀代のエンターテイナーらしく読者を楽しませることを主眼に置いた傑作エンターテインメントを紹介したい。その名も『銀河盗賊ビリイ・アレグロ』。

2015-12-30 00:21:21
松井和翠 @WasuiMatui2014

宇宙を股にかける盗賊ビリイ・アレグロ・ラトロデクトス・ナルセとそのパートナーと老蛇・ダイジャのコンビが活躍するスペースオペラ兼一大冒険小説兼本格ミステリ連作である。長らく入手困難であったが『暗殺心』とともに創元推理文庫から復刊された。読むべし。

2015-12-30 00:21:49
松井和翠 @WasuiMatui2014

《第7巻》 【日影丈吉】 『真赤な子犬』 『内部の真実』 「かむなぎうた」 「狐の鶏」 「王とのつきあい」 「吉備津の釜」 「男の城」 「奇妙な隊商」 「東天紅」 「善の決算」 「枯野」 「オウボエを吹く馬」 「鵼の来歴」 「猫の泉」

2015-12-30 00:23:24
松井和翠 @WasuiMatui2014

第7巻には日影丈吉の長編2作品と短編12作品を収録した。 日影丈吉といえば、フランス文学を愛好していたこともあり、一般的にはスマートな幻想短編や『真赤な子犬』のような洒落たミステリを得意としているように思われがちであるが、「かむなぎうた」や「狐の鶏」等を読むと分かる通り、

2015-12-30 00:24:06
松井和翠 @WasuiMatui2014

土着的な題材を扱うことも多い。むしろ、その土臭い部分と洗練されたウェルメイドさが奇妙にまじりあって独自の世界を形成している点に作者の魅力があるだろう。

2015-12-30 00:25:32
松井和翠 @WasuiMatui2014

それゆえに怪奇幻想面に落ちるか、現実的な解決を迎えるか、最後まで予断を許さない作品も多い。「王とのつきあい」「男の城」「オウボエを吹く馬」「鵺の来歴」「奇妙な隊商」等はまさにその好例である。

2015-12-30 00:26:22
松井和翠 @WasuiMatui2014

それは密室殺人を扱った春日検事ものの「善の決算」「枯野」も例外ではない。これは、作者がギリシャ神話や古事記などの古典文学を二重写しにする手法を好んで使うことも大いに関係している。名作「吉備津の釜」がまさにその所産といえよう。

2015-12-30 00:27:22
松井和翠 @WasuiMatui2014

対して、長編の『真赤な子犬』はノンシャランで軽妙洒脱な本格推理である。各章がAからZで表記されるなどこの時代に描かれた作品としては、破格のオシャレさを持っている。一方、『内部の真実』は戦時中の台湾で起こった曹長殺害事件の謎を扱った作品である。

2015-12-30 00:28:05
松井和翠 @WasuiMatui2014

『真赤な子犬』とは打って変わった文学身の強い作品であり、文庫本にして僅か200頁強の短い長編だが、その重厚感はなまなかではない。日影ミステリの最高傑作といえよう。

2015-12-30 00:28:31
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