座敷鎮守府「欧州難民船団護衛編」◆艦これSS◆その１

座敷犬 @zash_dog

本年もボンクラのツイートにお付き合い頂きありがとうございました。 社会人になり気力を奪われっぱなしですが来年もお付き合い頂ければ幸いです。 座敷犬

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「――こいつは」スタッフが言いかけ、言葉を閉ざす。「病院船」と称された船。酸鼻極まる状況がそこにはあった。あらゆる床に横たわる人、人、人。身を苛む苦しみに声を上げる患者から、既にその命を吸い取られ、燃殻となった人型まで。生という言葉が限りなく遠ざかっていくような。 #座敷鎮守府

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《我々は》船の外で待機する米軍側の医療スタッフ――こちらのスタッフだけでやらせて欲しい。彼らは見るからに物々しい防護服を纏っている(無論その必要性はあるが)。難民たちに与える心理的影響は大きい。白衣を着た衛生兵たちが治療を始める――対症療法だ、元を断つ術は未だ無い。 #座敷鎮守府

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《入れてくれ(ない？)》船室入口で張っている米兵のマイクが、女二人の声を捉え、此方のインカムにも届く。声の主が誰かは半年ぶりでも分かる――忘れるものか。入れてやってほしい。「久しぶりだな」「ご無沙汰ねぇ」天龍、龍田。――すまなかった。「何を謝るってんだ」 #座敷鎮守府

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僕がもっと君たちの準備を整えてやれたら――「ふざけるなよッ」壁に叩き付けられる。「天龍ちゃん」「こちとらお前の『最善の判断』を信じてここまで来て、戦った！ 護った！ 最善を尽くした！ んで――皆死んだ。なのに」「お前は今更、最善を尽くしてなかったって言うのか？」 #座敷鎮守府

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突き放される。彼女の脚は患者たちの元へ。――ッ。「天龍ちゃんはやり過ぎだけど、私も同意見よぉ。皆、人も、艦娘(わたしたち)も、あなたの備えを、決断を信じてあなたについていったし、あなたについてく。それを裏切るような物言いはやめてね」――ああ。 #座敷鎮守府

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「ばあちゃん」『テンリュー……来てくれたのかい』「あんた達が頑張った甲斐があった。俺たちの仲間が来たんだよ。もうこれで大丈夫だ」 「ああやって皆を励ましてきたんだよ」鈴谷。「皆の『希望』、あなたに背負えまして、提督？」熊野。――その為に来たつもりだ。 #座敷鎮守府

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《ハスキーよりヘッドクォーター、定時連絡――敵影なし》《了解だハスキー。――ありがたいものだな》《何がだい、オペレータ》《君たちが来てくれた事だよ――正直もうダメだと思ってた》《艦娘(わたしたち)の根源は人々(あなたたち)の抱いた希望だ――だから、希望を捨てないで》 #座敷鎮守府

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まがたまに戻り、手当を受ける黒木大尉に会う。半年に渡る隊の指揮、ご苦労だった。「――何もできなかった。悪くなっていく状況に呑まれて、絶望して。希望を与えるつもりだったのに、私たちが希望を与えられてた。大佐ッ――何かを『護る』というのは、こんなに、難しい事なのですか」 #座敷鎮守府

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半年間、それを実感させられ続けていた。今もだ。「――ううぅッ」もう良い、今は休め。あれだけ近距離でSSMの破片を受けて五体満足なら、君も恵まれた方だろう。処置室が空いたようで、彼女を乗せたストレッチャーが運ばれていく。僕はスーパーユニバースへと戻った。 #座敷鎮守府

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これだけ絶望的な状況でも冷静な人間はいる物だ。「黒い靄」を始めとする深海棲艦の通信妨害故に高度な航海術が求められた難民船団だったが、辿っていた航路は無秩序な気候なども考慮した上で最短のものだった。船団護衛にあたってはこの航路をそのまま使う事にする。 #座敷鎮守府

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「ヴァリー・フォージは再びこの船団を襲うでしょう――今回は確認できませんでしたが、アレが鬼(オーガ)クラスであれば『眷属』を召喚してもおかしくはありません」短期決戦覚悟で叩きに行けば、その隙に船団がやられる事もあり得る。「その為当船団の護衛を継続し――」「待って」 #座敷鎮守府

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「なんでしょう、ハンナヴァルト大尉」「どうしてもこの船団は戦いに巻き込まれる、そう考えていいのかしら」護衛艦隊指揮官、カサンドラ・ハンナヴァルト大尉が僕とエイハブを一瞥する。「――恐らくは。善処はしますが、敵の狙いが船団である以上は」「――その割には」 #座敷鎮守府

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「対艦ミサイルの一発を除けば船団の被害はゼロ。その一発も艦橋構造物周辺での弾頭の爆破で護衛艦隊スタッフに怪我人が出たのみ。あの深海棲艦に、クルーたちの心が僅かに残っていて、私たちへの攻撃を抑えてくれていたとしても」「些か不自然ではなくて？」 #座敷鎮守府

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「否定はしません、今回の船団への被害の小ささはまさに奇跡です」「――ごめんなさい、私も疲れてるみたいね。窮地を救ってくれた味方を疑るなんて」「お気になさらず、半年もの逃避行の中で冷静であり続けたあなた方を僕は尊敬します」「引き続き協力をお願いするわ」「了解しました」 #座敷鎮守府

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ブリーフィングルームのドアが閉まる。ハンナヴァルト大尉の様子は控えめに言って健康体といえるものではなかった。「――彼女も、棄民病を患っています。彼女だけじゃない。ドイツ艦艤装を装備した兵士皆がそうです」何故。彼女たちはドイツ人の筈だ。「――菌が変化しつつあります」 #座敷鎮守府

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「幸いワクチンを破る事はないようですが。対象はもう、白色人種全体に及んでいます」――彼女らをどうする。「――護衛を続けます」そうじゃない。太平洋に辿り着いた後だ。合衆国(ステイツ)は難民たちをどうするつもりなんだ。「――それこそが僕達の真の任務です」 #座敷鎮守府

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「第77任務部隊に与えられた任務は……『欧州からの難民船団の検疫と、超自然病原菌の北米大陸流入の阻止』――これが意味するところはお分かりですね」僕たちを騙したのか。「――そうなります。しかし、難民の保護とヴァリー・フォージ撃破も目標の一つです」 #座敷鎮守府

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「先程調査にあたっていた兵士から報告を受けました。難民985人中棄民病罹患者は723人、不明56人。計779人の『リスク』が北米に渡ろうとしています。幸い棄民病の感染力はかなり低く――現状では、これ以上の感染拡大を防ぐ事は容易でしょう」 #座敷鎮守府

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罹患者たちはどうなる。「僕達が任務を果たさなければ上陸地に駐留する各軍の部隊が彼らを『始末』するでしょう」それが人間のやる事か。「他ならぬアメリカ合衆国のやる事です。WWIIの亡霊たちに対してのスタンスが『自衛』に留まる事に変化はありません――これからも。」 #座敷鎮守府

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「第77任務部隊は船団の護衛を継続、ヴァリー・フォージの襲撃に備えます。しかし難民たち全ての命は――保証しかねます」おかしいと思わないか。「僕だって！ アイオワたちに難民を撃たせるような真似はしたくない！ でも！ これは命令で！ 僕は軍人で、彼女らの提督だ！」 #座敷鎮守府

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我々リンガ先遣艦隊も難民船団の護衛を継続する。ヴァリー・フォージの襲撃があればこれと交戦し、「救済」する。それでいいな。「――構いません」ブリーフィングルームを出る。「大分長い会議だったな」木曾。「俺も難民たちを励まして回ってた、結局こっちが元気を貰ってしまったが」 #座敷鎮守府

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「天龍たち、それに向こうの連中とも話したよ。――強いな」あぁ。僕だったら折れていただろう。「俺も信じるよ。お前の信じるものを。それでもまだ不安か？」否。まがたまに戻ろう。ヴァリー・フォージを救ってやらねば。彼らと彼女を救うには、作戦が必要だ。 #座敷鎮守府

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