サイレントラインの呼び声

軽巡棲姫の仮面がバイザーつけた神通さんみたい、という話を聞いてふと思い付いたので
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深海さかな @dzurablk_kai

たちまちのうちに、電子の目が逆行の中に神通の姿を見いだす 「2時の方向距離500より、真っ直ぐに接近してきます」 「魚雷の射程に入るまでは? 「残り200です」 十数秒しかない残り時間に焦る様子も見せず、提督はライターでタバコに火をつけ、 #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:27:21
深海さかな @dzurablk_kai

砂の混ぜ混まれざらざらとした甲板に伏す 「風向345、風速2!!」 距離をギリギリの300メートルに合わせ、クリック修正を済ます 「距離をカウントダウンしろ」 「400を切りました!!」 緊迫感を増す夕張の声 #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:29:46
深海さかな @dzurablk_kai

艦娘用の魚雷とはいえ、大した装甲もない現代の軍艦にとってのそれは、致命的な一打 それを小銃一丁で止めようとする提督は、間違いなく人から見れば狂人だったろう そう、それは巨大な敵深海棲艦に単独で立ち向かう神通を、遥かにしのぐ程に #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:32:06
深海さかな @dzurablk_kai

「やれやれ、どうしてこうも、俺の隊には狂ったやつらばっかりが集まるのかねえ」 紫煙に思い浮かべるは、夜戦狂いに戦闘狂、武道家アイドルとかとかとか・・・ その愛しの部下たちの顔にふっと提督はほくそ笑むと、紫煙を吐く呼吸を止める #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:34:58
深海さかな @dzurablk_kai

「・・・300、今です!!」 夕張の声と同時に提督はトリガーを引いた 7.62mm弾が朝靄にライフリングを刻みながら、乾いた音を響かせ、飛翔する 「しかしまあ、そんな可愛い部下たちを、そう易々と殺らせる訳にはいかねえなあ?」 #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:37:21
深海さかな @dzurablk_kai

提督の小銃から吐き出されたSS109 NATO弾は、3発の固まりとなってその身をよじりつつ、神通の頭へつけられたバイザー型の装備へと迫っていく 着弾する直前、それは提督の目には軽巡棲姫の仮面のように見えた ライフル弾が刺さった軽巡棲姫の角が、折れる #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:40:45
深海さかな @dzurablk_kai

魚雷を発射しようとグローブの中、トリガーにかけた指に力を込めた、その瞬間 「がっ!?」 突然激しい衝撃と共に後ろへ持っていかれた首に、神通の気道から声が漏れると同時に視界が途切れた 「敵弾!? 視界が、これでは射撃が・・・!!」 #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:43:56
深海さかな @dzurablk_kai

神通はバチバチと不穏な音を立てるバイザーを外そうとするも、コードが絡まり上手く取ることができない 「このままでは、敵の攻撃が・・・!!」 まだだ、まだ沈む訳にはいかない まだ自分は、あの憎き敵に魚雷の一発もお見舞いしていない #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:45:51
深海さかな @dzurablk_kai

「このまま、終わるわけには・・・!!」 そう狂犬のように唸る神通の肩に、突然暖かな手が置かれた 「神通」 「もう、戦わなくていいんだよ」 突然視界に射した光 そこに立っていたのは、ボロボロになったセーラー服姿の川内と那珂だった #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:48:15
深海さかな @dzurablk_kai

「あ・・・なんで・・・」 「なんでって、神通ちゃんのために決まってるじゃん!」 「全く、世話を焼かせてくれたわよホント」 事態が把握できない神通を他所に顔を見合わせて笑う二人 「まあいいや、こうして神通も無事だったんだし」 「そうだねー!」 #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:49:47
深海さかな @dzurablk_kai

「あの、でも二人とも怪我を・・・」 「大丈夫、かすり傷ほどもないよ」 「まあ、着てた強化装備は捨てちゃったけど」 川内は生傷だらけの手を神通に差しのべた 「お帰り神通、さあ、早く帰ろ?」 「那珂ちゃんたちの家に!」 #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:51:57
深海さかな @dzurablk_kai

「・・・はい」 その手を握り返した神通の笑顔は、旭に輝き、光を放つかのようだった #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 00:52:39
深海さかな @dzurablk_kai

「・・・で、結局暴走の原因は不明、と」 提督は紫煙を吐きながら、夕張の報告書を机に放り出した 今日のタバコはラークのメンソールらしく、苦い香りと澄み渡った涼しさが心地よい 「ただ、気になる噂を耳にしまして・・・」 その日の気分で吸うタバコが変わっては #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 01:10:11
深海さかな @dzurablk_kai

買い出しに行く駆逐艦も大変だろう そんなことを思いつつ夕張は提督の整髪料の匂いのする耳元へ顔を近づける 「今回問題を起こした装備は二菱重工の肝いりで開発された代物ですが、その開発は元々トヨカズ機械工業と春馬重工との共同計画だったらしいんです」 #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 01:13:28
深海さかな @dzurablk_kai

「どういうことだ?」 「二菱は資金難を名目に一度は計画から脱退したものの、他の二社の計画が『なぜかその直後から』種種の問題を起こして難航、最終的にコンペで二菱社が一人勝ちした、というのが業界で語られている噂です」 「・・・聞くところによると、 #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 01:16:23
深海さかな @dzurablk_kai

あそこは軍の上層部とも深い繋がりがあるらしいな」 「その影響も当然考えられますね」 提督は溜め息混じりにタバコを握りつぶすと、椅子にのけ反った 「つまり、今回の一件 二菱を逆恨みしたトヨカズと春馬が起こした事件だ、と?」 #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 01:21:03
深海さかな @dzurablk_kai

「私はそれを口に出すほど怖いもの知らずじゃありませんよ」 夕張はにこりと意味ありげに口元だけを吊り上げると、部屋から出ていった 「そりゃそうだ」 入れ替わりに近付く慌ただしい足音 提督が書類を引き出しに仕舞うと同時に川内姉妹が執務室に飛び込んでくる #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 01:22:44
深海さかな @dzurablk_kai

「ねー提督、夜戦していい!?」 「お姉ちゃん、まだ入院してなきゃダメだって・・・」 「でも私も、姉さんが行くんならご一緒したいです!」 「なら、那珂ちゃんも一緒行くー!!」 「お前ら・・・」 頭を抱える提督の眼前で、机の縁にしがみついた三人は #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 01:24:28
深海さかな @dzurablk_kai

まるでおやつをねだる子犬のようにきゃんきゃんと吠える 「あー、わかったわかった! 出撃させてやる、今日だけだからな!!」 巻き起こる歓声と、直後痛みに呻く声 こいつらは本当は、ものすごくバカなんじゃないだろうか #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 01:25:50
深海さかな @dzurablk_kai

そんな思いについ頬を緩ませながら、提督は編成書類の作り直しに取りかかるのだった #サイレントラインの呼び声

2016-01-12 01:26:23
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