不知火に落ち度はない2016 お正月SP その1『桜の道程』

そんなわけで、今回は神通教官の特別編。彼女が歩いて生きた道程を示す過去話です。 よろしければのんびりごらんください。 前 落ちぬい小話まとめ(番外編) 続きを読む
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不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

彼女が彼を初めて見たとき抱いた感情は、きっと憧れ。 物語に出てきたヒーローが、彼女に向けたと思った誓いへの感情。 物語に焦がれただけのものであり。 そして、今の感情はおそらく恋。 彼を知った上で、隣に立ちたいと願う自身の願いだった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 22:43:09
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ただ同時に、叶えるには少しどころではなく大変そうと感じた。 残念ながら、兵頭提督はまだその位置に立つことは出来そうにない。 彼の誓いは、彼自身を縛り続けていると神通は見ている。 その背中には様々な物がのしかかり、最終的に彼を引き込んでいくように見えた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 22:48:29
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

だから、今は部下で良い。 彼女はそう考えた。 なるだけ彼の荷を持って行ける部下であろう。 隣で戦い、酒を交わすような信頼の置けるものでいたい。 神通はそうあることにした。 彼の荷が全て下りることになれば、そこからスタートを切ればいい、と。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 22:53:20
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そう思ったから、彼女は恋という言葉を否定した。 否定することで恋を、己の中で静かに守ることにした。 そうして、今、神通は── #不知火に落ち度はない

2016-01-08 22:54:45

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

神通は、彼と共に鹿児島の枕崎に居た。 岬からは彼女の故郷がうっすらと見えるその場所で、彼はカップ酒片手に立っている。 大本営からの協力要請に伴い、彼と神通以下水雷戦隊がここ、枕崎に集結して事件の解決に当たった後のことだった。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 22:59:53
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「神通、お疲れさん」 「提督も……お疲れ様です」 手渡されたのはビールの缶で、どうやら彼の個人的な慰労の証らしい。 彼は知らない。彼の見ているその方向に──彼女の故郷があったことなど。 「急な要請に乗ってすまんな。気にかかる事があったから」 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:02:38
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「気にかかる……何ですか?」 「たいしたこっちゃねえ。念には念を入れるっつーか、繰り返したくねえもんでな」 彼の中で、あの時のことは余程忘れがたいものだったらしい。 酒を片手に、何でもなさそうに言うが──目は、海の向こうを見ていた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:06:27
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ま、神通にゃあまり関係ないおじさんの事情です」 「そう……ですか」 彼は知らない。彼女もまた、彼と同じようにそこで人生の形が変わったことなど。 彼の敗北の結果、艦娘になったことなど。 きっと口にすれば、この兵頭という男は── #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:09:11
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

言ってしまえば、隣は確約されるだろうか。 言ってしまえば、それ以上のことは待っているだろうか。 そう思い、そして神通は──ビールのプルタブを開けた。 ぷし、と小さく音がして、彼はおどけた様子でカップ酒を合わせる。 「乾杯」 「あ……はい。乾…杯…」 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:11:35
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして、ビールを飲み干すようにして、自分の考えも飲み込んだ。 故郷に近いせいだ。 『神通』ではなく、『桜』の思考に今のは近かった。 積み重ねた年の地盤が、少し脆くなっていた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:14:43
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

一方彼は少し口を付け、そのまま残りを岬から海に流す。 目が、供養だと言ってるような気がした。 その雰囲気に、少し黙り込むとまた彼はおどけ出す。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:19:03
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「安酒ってやっぱあんま美味しくないね。昔はこれでしこたま酔ったんだけどな」 「ビール……いかがですか?」 「お、いいの? って神通教官、間接ちゅーになりますぞ」 「……言われてみれば、そうですね」 「うむ。よろしくないのでここでビールをもう一本」 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:20:17
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

彼はそう言い、手品のように缶ビールを袖から取り出してプルタブを開ける。 そして口をつけながら、ぽそっとつぶやく。 「神通。ちょびっとだけ真面目に言うと、ここ10年ぐらい前にも来たことあってな」 彼も思い出したか、或いは察したか。 言葉が流れ出す。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:25:47
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「お前さんら艦娘が活躍するずっと前の話な。深海棲艦なんざ海の向こうまでぶっ飛ばしてやるって意気込んでたが」 残念──だめだったわ。 肩をわざと落として、道化のように言う。 「だからここでなんかあると、首つっこんじまう」 迷惑かけたな、と彼は続けた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:28:58
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「迷惑では……ありませんが」 「ありがと。助かるわ」 硫黄島なんて重要拠点でもねえのにな、等と嘯く。 おそらく続きを促せば、彼は語り出すのだろう。 あの日の光景、そこからの何かを。 この場所に、記憶が焼き付いているのならば。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:32:40
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

だから神通は、そっと告げた。 「風……」 「ん?」 「風、冷たくなってきてます。戻ってから、飲みませんか」 「……お、悪い。じゃ、そうすっか」 ぐっとその場でビールを飲み干し、彼は歩き出した。 神通もビールの中身を海に流し、彼に続く。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:35:15
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

それが桜ではなく神通──彼の部下のあり方だと思ったからか。 海風だけが、その場に小さく吹いていた。 #不知火に落ち度はない

2016-01-08 23:36:56

あとがき&おまけ

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

はい。そんなわけで特別編の1。神通教官の過去話はひとまず終演にございます。 10年ぐらい、いろいろため込んでいたことが判明しました神通教官。 そこで踏み込みにいけば大破までもっていけたのではないかと思いますが、それはなかなか難しいのだと思われます。 #落ちぬい

2016-01-08 23:40:39
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

なお、この話を踏まえた上で、ニンジャがボルネオで言ってたどうしようもない部分の一端についてはお察しいただけると幸い。 それ以上に罪の方が上回るけどね! #落ちぬい

2016-01-08 23:58:12

ぬい地獄

神通教官の下指導をされた不知火、後に語る

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ぬいさんの記憶によると地獄の三ヶ月間だったそうです。 もっとも険しい道を自ら選択するひとだものね。 お部屋も一緒だったそうですよ。 #落ちぬい

2016-01-08 21:10:27
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

ぬいぬい後に述懐す。 「最初は眠る度、二度と目が覚めないと思ってました。途中から朝日が昇る度に生きていることに感謝しました」 でも基本的に普段は優しかったそうです。 #落ちぬい

2016-01-08 21:12:52
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