【ミイラレ!第二十九話:『演者』のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。厄介ごとは向こうから。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/927499
0
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第二十九話:『演者』のこと】 #4215tk

2016-01-18 20:56:29
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『……やれやれ。随分とスラップスティックな仕上がりになったものだ』闇の中。街灯に照らされ浮かび上がる黄色の影あり。その全身を覆うマントも、溢れる髪も黄一色。唯一違うのは、顔を覆い隠す仮面のみだ。『舞台の踊り心地はどうだったかね?我が友よ』『ぼちぼちかな』1 #4215tk

2016-01-18 21:00:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

応じた声の主が灯りのもとに歩み寄る。燕尾服にシルクハットという、時代錯誤ともとれる服装。照らされているはずのその顔には不自然に影がかかり、表情が伺えぬ。『ジャックはまあ、それなりに使えそうだ。……私のサポートあってこそだけれど!』『酷なことを』仮面が笑う。2 #4215tk

2016-01-18 21:04:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『いかに名高き霧の中の殺戮者を模倣させようと、妖精は妖精。古き妖や神々にぶつけるには荷が重かろうよ』『力を分けてやってるんだぜ、あれでも……とはいえ私もいい経験ができた。うん、なかなか頑張っていただろ?』『……見えなかったがね』仮面の人型が肩を竦める。3 #4215tk

2016-01-18 21:08:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

燕尾服の人型は気を悪くした風もない。むしろくすくすとした笑い声を漏らした。『君の目も誤魔化せるか。ははは!我ながら大したもんだ……ところで。首尾はどうだい』『仕上がってきている』言葉とともに、仮面の人型が片手を上げた。その周囲にいくつもの影がわだかまる。4 #4215tk

2016-01-18 21:12:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『少なくともあの悪戯小僧に指導するよりはずっと楽だ。君の影は覚えが早い』『そうだろう、そうだろう』燕尾服の人型が嬉しげに頷いてみせた。その声に悪意が滲む。『模倣の相手も大したことはない。単なる無名の殺人鬼だからねえ』『人間から命を刈り取ることしかできぬ殺し屋!』5 #4215tk

2016-01-18 21:16:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

高らかに応じる黄衣の怪異。『取るに足らぬ存在だ。不幸にも出会った人の子を殺めるだけの獣にすぎない。だからこそ人の身には恐ろしい怪物たりえる。舞台は整ったのかね?』『上々だ。精々彼らには踊ってもらうとしようじゃないか』燕尾服の怪異、シェイプシフターは言った。6 #4215tk

2016-01-18 21:20:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……二人の怪異は闇に溶けるように消え、あとにはただ影だけが残される。その影たちもまた、誰からともなく闇の中へと駆けて行った。音もなく、町中へ。7 #4215tk

2016-01-18 21:24:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

嵐のごとく現れたジャックなるカボチャ頭の怪異は、結局嵐のごとく去って行った。幸いにも被害は軽微。少なくとも霧の中に消えた怪異など一人もいなかった。が。「あんな餓鬼に引っ掻き回されるとは。情けないったらありゃしないね」不機嫌に唸ったのは薄青い肌の鬼女、巡である。9 #4215tk

2016-01-18 21:32:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

巡は四季を見やる。正確には彼に寄り集まっている部下たちにだ。急速に癒えているものの、その体には浅からぬ傷を負ったものもいる。「不意打ちだったことを抜きにしても無様すぎる。ちと買い被ってたかね」「言い過ぎだよ、巡さん」咎める四季に、冷たい一瞥が向けられる。10 #4215tk

2016-01-18 21:36:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「少なくとも舞さんや祈さん、赤城さんのおかげで俺は無事だったわけだし……」「どっちのおかげだかわかったもんじゃありませんがね」つっけんどんに言う。その傍ら、畳を突き破って顔を出していた大百足の怪異が身を竦めた。「まあまあ。そこらにしておきなさい」11 #4215tk

2016-01-18 21:40:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

割って入ったのはヒルメ。この神域を支配する主、天照大神その人である。「自分がしてやられたからって、部下をあげつらうもんじゃないだろうに」巡がヒルメを睨みつける。その眉間には深いシワが刻まれていた。「いや、実際大したものだと思うよ。あの小僧の背後にいた奴は」12 #4215tk

2016-01-18 21:44:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は小さく首を傾げた。真意を問おうと巡を見やるも、彼女はふいと顔を逸らしてしまう。仕方なくニコールへ視線を向ける。「君は疑問に思わなかったかね?そこにいる古き蜘蛛……はまあともかくとして、仮にも神であるそいつらや大悪魔たるこの俺がなぜあの霧を払えなかったか」13 #4215tk

2016-01-18 21:48:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

あ、と思わず四季は声を上げた。言われてみればその通り。彼女たちほどの力の持ち主ならば、あの結界を破壊するなど容易いはず。「結論から言うと執拗な妨害を受けていたからだ。あの忌々しい姿無き怪異にな。あれほど小煩いやつには初めて出会ったぞ!」ニコールが鼻を鳴らした。14 #4215tk

2016-01-18 21:52:56
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「小煩い?」忌々しげな様子で首を振る大悪魔に、四季は眉をひそめてみせた。『強い』でも『厄介』でもなく、『小煩い』。彼女にそう言わせしめる怪異の力とはいったい?「あれはな、いくら消し飛ばしても再生するのだ」「へ?」「どころか中途半端に削ると増える」15 #4215tk

2016-01-20 20:42:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

平然と語るニコール。とうてい信じられぬ内容だ。怪異とて不死の存在ではない。力を失えば消滅は免れぬ。ましてトリルと同等以上の力を持つであろうニコールにかかれば文字どおり消し飛ばすこともできるのだろう。しかし、再生どころか分裂?「いや、あんな怪異は初めて見たね」16 #4215tk

2016-01-20 20:44:30
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

口を挟んできたのはヒルメだ。うんざりしたように溜息をつく。「私もそいつに絡まれてて身動きがとれなかったんだ。イナメや御伽さんたちのところにも行ってたんじゃないかな」「何度倒しても蘇るばかりか数を増す。厄介な手合いでしたよ、ありゃあ」白狐の伊奈が同意する。17 #4215tk

2016-01-20 20:52:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季にもようやっと巡の機嫌が悪い理由が理解できた。透明な怪異に調子を乱され、満足に動けなかったことに対する苛立ちのせいか。「他と合流できたんなら話は違ったのかもしれんがねえ。そうなると今度はあの霧が邪魔になる」伊奈の言葉に、巡の顔がさらにしかめられた。18 #4215tk

2016-01-20 20:56:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あんなどこの馬ともしれん怪異風情に、山ン本がここまでしてやられるとは……!あってはならんことです、まったく!」「そんなこと言ったって仕方ないだろう。昔と規模が違うもの」宥めるような伊奈の言葉にも、返って巡は怒りの眼差しを向ける。相当腹に据えかねているらしい。19 #4215tk

2016-01-20 21:00:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ええい、やはりまともに戦えん連中が多すぎる!ここは若旦那に一肌脱いでもらうほかありますまい」「……えっ、俺?」唐突に話を振られ、四季は間の抜けた声をあげた。巡は眦を吊り上げそんな彼を見やる。「そうですとも。その霊気、もっとほかの連中に分けてやってくださいな」20 #4215tk

2016-01-20 21:04:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ああ、と四季は納得した。今ひとつ忘れがちだが、自分の持つ霊気とやらは怪異が力をつけるに最適なものであるらしい。「ほら、あんたたちももっと若旦那に寄りな。それでちっとはマシになるだろうよ!」巡の言葉に昆虫怪異たちが顔を見合わせた。数秒後、揃って四季に身を寄せる。21 #4215tk

2016-01-20 21:08:34
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……あの!ここまで寄られると身動き取れないんだけど!?」「それくらい我慢してください。むしろ役得じゃありませんか?若旦那の年頃ならば、異性に囲まれることもまた夢でございましょうに」揶揄するように巡は言う。「多少息苦しいくらい、我慢してくださいな」22 #4215tk

2016-01-20 21:13:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そうそう、巡さんの言う通りだよ頭領」右に陣取った飛羽がにやにやと笑う。四季の右腕に自身の両腕を絡め、体を密着させている。「ここで少し親密になろうじゃないか。ねえ?」「なんだかんだであんまり仲良くする機会もなかったしネ」反対側から囁くのは舞。23 #4215tk

2016-01-20 21:16:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「自分で言うのもなんだけどサ、美人に囲まれてるんだからもっと嬉しそうな顔してほしいナー?」「ええと……」悪戯っぽく顔を寄せてくる舞から、四季は困ったように視線を彷徨わせた。なんというか、反応に困る。「突如降りかかった幸運への身の振り方。難しいものでありますな」24 #4215tk

2016-01-20 21:20:45
1 ・・ 4 次へ