【ミイラレ!第二十九話:『演者』のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。厄介ごとは向こうから。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/927499
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

訳知り顔で頷くのは、四季の膝の上に乗っていた家鳴だ。もたれかかりながら続ける。「しかし慣れてもらう必要があるのであります。頭領殿の霊気は、我らにとってまさに甘露でありますので」「うーん」「さながらアブラムシのごとく、であります」「もっといい例えなかったの?」25 #4215tk

2016-01-20 21:24:27
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は思わず顔を歪めた。アブラムシ。たしか甘い蜜と引き換えに蟻から守ってもらっているあの小さい緑色のやつである。家鳴は蟻の怪異であるため、とっさに例として出したのだろう。決して悪気はないのだろうが……あれのごとくと言われると、少し物悲しさを覚える四季だった。26 #4215tk

2016-01-20 21:28:51
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

情けなく顔を歪める四季とその周囲に寄り集まる怪異たちを、怜は少し離れた場所で眺めていた。やや心がささくれだったような気持ちになっているのは否めない。仕方ない。医療行為の一環。彼から進んでああしているわけではない……そう自分に言い聞かせ、平静を保とうとする。27 #4215tk

2016-01-25 20:12:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なに面白え顔をしてんだよォ」そのためか、彼女は隣に別の怪異が近寄ってきていたことに気づけなかった。はっとそちらを振り向いて一瞬気が遠くなる。隣に胡座をかいてこちらを見下ろしていたのは裂けた口に鋭い牙を覗かせた女の怪異。口裂け女、龍造寺 美咲。28 #4215tk

2016-01-25 20:16:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……別に。元からこういう顔」恐れと怯みを必死に押し込み、怜は平然とした表情を保つ。怪異相手と接するときに重要なのは、相手に見せないことだ。見せたが最後、憑かれて内側から心を壊されることもありうる。「へぇえ」小馬鹿にしたように嗤った美咲が、四季の方を一瞥した。29 #4215tk

2016-01-25 20:20:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「いつもそんな辛気臭いツラしてるってか?冗談だろ?あいつの方を見てるときだけじゃねえのか」怜は思わず言葉を詰まらせる。渋面を作った彼女を見て、口裂け女はさらに笑みを深めた。「へへへ、面白えなぁあんた。いつもは澄まし顔してんのに」「……余計なお世話」30 #4215tk

2016-01-25 20:24:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜はそっぽを向く。相手は完璧にこちらを舐めている。まともに相手するだけ無駄だ。「おいおい、そうつれない真似すんなよォ。こっちが気にかけてやってるってのに」「そんなこと頼んだ覚えはない」言いつつも気になる。特に接点もないはずのこの怪異が、なぜ自分に近づくのか。31 #4215tk

2016-01-25 20:29:37
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そう警戒すんなって!あたしはさ、あんたと仲良くしてやろうと思ってんだから」「は?」思わぬ言葉。素っ頓狂な声とともに怜は美咲を見上げた。怪異は相変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべるのみ。「どういうつもり?ただの気紛れじゃないでしょ」「あァ?いや、そんなことは」32 #4215tk

2016-01-25 20:33:58
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

美咲が少しばかり狼狽したように見えた。「別に深い意味はねぇよ?あいつに近づく前に外堀埋めといた方がやりやすそうとか、そもそも退魔師に近づいておけばなんかいい情報が入るかもしれねえとか、そういうことは一切考えてねえからな」「……そう」怜はかろうじて無表情を保つ。33 #4215tk

2016-01-25 20:38:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

まあ。なんの見返りもなしに近づいてくることなどないだろうし、彼女の言葉がそのまま真意なのだろう。どうやら隠し事ができない性格と見える。それとも高度な情報戦を仕掛けてきているのだろうか?「まあそんなわけだ、仲良くしようじゃねえか。どうせこれからも顔合わせんだし」34 #4215tk

2016-01-25 20:42:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜は首を傾げる。事実ではある。そしてこちらを利用する気満々とは言え、害をなす気はないらしい。ならば。「いいよ。よろしくね、美咲さん」「マジか!頼むぜ蛇神憑き!」強引に手を握られる。その力の強さに怜は顔をしかめた。「……痛い。あと、せめて名前で呼んでもらえる?」35 #4215tk

2016-01-25 20:46:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ん?ああー、悪い。…………なんだっけか、名前」「怜だよ。草絵 怜」溜息混じりに答える。あまり怪異に本名を教えるのもどうかと思ってから、大丈夫だろうと思考を掻き消す。この怪異、力はともかくそこまで悪質ではなさそうだし。「そっか。仲良くしようぜ、怜。ところでよ」36 #4215tk

2016-01-25 20:50:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

と、美咲は再び視線を四季たちへと移す。「要はあれだろ、お前。あれに混ざりたいんだよな?」「……へ!?」思わず頓狂な声が出る。美咲は特に気にした風もなく、独り合点して頷いている。「お前だって一応戦ってたみたいだし、霊気の補給はしたいよな。わかるぜ」「いや、その」37 #4215tk

2016-01-25 20:54:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

なにやら妙な誤解をしているらしい美咲に、怜は声をかけようとした。その体が浮く。美咲が襟首を掴んで持ち上げたのだ。「とりあえず照れてねえで行ってこいよ」「え、ちょっと!離し」最後まで言わせてもらえなかった。美咲に放り投げられ、怜は宙を舞う。四季の方へ。38 #4215tk

2016-01-25 20:58:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

それは互いにとってまったく予想外の出来事だった。怜には周囲の時間がゆっくり流れていたようにさえ感じられた。四季が目を丸くしてこちらを見ている。その顔がだんだんと近づいて……「きゃっ!」「うわっ!?」「ふぎゅ」二人はほとんど抱き合うように衝突した。39 #4215tk

2016-01-28 20:48:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季の膝に陣取っていた家鳴が押し潰され、もがく。「うー……!」怜は苦しげに呻いて顔を上げる。すぐ側に四季の顔があった。彼は惚けたように怜を見つめ返し、状況の把握に努めているように見えた。やがてその顔が傍目からわかるほどに紅潮する。「えっ、あっ、ご、ごめん!?」40 #4215tk

2016-01-28 20:52:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「き、気にしないで。四季が悪いわけじゃないんだから」にわかに動転しはじめた四季に、怜は慌てて首を振る。その反応を意外と思いながら。「どくで!あります!」「きゃあっ!?」突然強い力で突き飛ばされ、怜は再び宙を舞う。今度は押し潰されていた家鳴の仕業だ。41 #4215tk

2016-01-28 20:56:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

見た目からは想像もつかない膂力。壁に叩きつけられんばかりの速度。怜は思わず目を瞑った。「まったく、なにをしてんだか……赤城!」「は」巡の呆れ声とともに、彼女の体は抱きとめられた。畳から上半身を覗かせていた百恵が体を伸ばし、受け止めたのである。42 #4215tk

2016-01-28 21:00:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「す、すいません!」「謝る必要はない。姉様の言いつけ故助けてやっただけだからな」そっけない言葉とともに、怜は畳に降ろされる。礼だけは言っておこうと振り向いた怜はその行動を後悔した。彼女の眼前にあったのは、紅い甲殻に覆われた巨大な百足の体。怜は思わず身震いした。43 #4215tk

2016-01-28 21:04:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「だーっ!離すであります軍曹!あの子どもに常識というやつを叩き込んでやるであります!」「誰が子どもだこのチビ助!上等だかかってきやがれ!」立ち竦む怜の後ろでまた騒ぎ。見ると、大金槌を取り出した家鳴と美咲が喧嘩寸前。かろうじて颯と曳子が身内を抑えている。44 #4215tk

2016-01-28 21:08:34
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

一触即発の空気。怜はおろおろと周囲を見回す。巡は渋い表情を浮かべ、美咲の両親である伊奈と夜桜は微笑ましそうに様子を見るのみ。立場的に上である彼らがこの様子では、なんとかできるのは四季だけか?怜はこっそりと視線を彼にやる。まだ動揺が治らぬのか、呆然としていた。45 #4215tk

2016-01-28 21:12:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

となると、場は自然と険悪な空気になる。睨み合う怪異二人。なんとかして仲裁に入った方がいいのだろうか……怜がそう思い始めてきた矢先。「ただいま。なにやってるの美咲姉さん」割り込んできた冷静な声に、自然と一同の注目が声の主に集まった。古めかしい軍服を着込んだ怪異。46 #4215tk

2016-01-28 21:16:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「よう、充虎ちゃん!」曳子をやや邪険に振り払い、美咲は満面の笑みとともに軍服の怪異へ振り向いた。睨み合いが中断されたのをきっかけに颯が家鳴を引きずって四季の元へ。「別になんもしてねえよ?まだ」「まだって……あのさ美咲姉さん。一応は仲間なんだから喧嘩はやめよ?」47 #4215tk

2016-01-28 21:20:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

龍造寺 充虎。三姉妹の末っ子。どうやら美咲には溺愛されているらしい……と、至極冷静に怜は記憶を改めた。少なくとも姉に比べれば大人しい。そういえば周辺の見回りをしているのだったか。「随分と遅くなったじゃないか。なにかあったのかい?」巡が声をかける。48 #4215tk

2016-01-28 21:24:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「すいません。ちょっと帰りがけに妙な怪異に会ったものだから」「怪異だとォ?」「なにもされてないから!出会った途端逃げられて。気になったから追っかけてたらこんな時間に」「あまり不用意に町中で鬼ごっこをするんじゃないよ、充虎」眉をひそめたのは彼女の母、伊奈。49 #4215tk

2016-01-28 21:28:17