【ミイラレ!第二十九話:『演者』のこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。厄介ごとは向こうから。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/927499
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ただでさえ退魔師が多いんだ。出くわしたらややこしいことになる」「そんなことを心配してやる歳でもなかろうよ」巡が口を挟む。そして顔をしかめる伊奈に構うことなく、充虎を見据えた。「で?どんなだった、その怪異は」「ええと……影みたいなやつ」充虎はあっさりと言った。50 #4215tk

2016-01-28 21:32:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「影」その言葉に眉をひそめたのは伊奈の隣に座っていた化け猫、夜桜だ。「影とはな。そりゃ人型だったか、充虎」「う、うん」「それでのっぺらぼうで、目立った特徴もない」「うん。……なんでわかるの、お父さん?」「ついさっき、我輩らも同じものを見たばかりだからな」51 #4215tk

2016-02-02 20:32:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

夜桜は微笑んだ。しかし、その目は厳しい。「さて頭領殿、どう思う?あの連中の同類が町をうろついておるとよ。偶然と思うかね?」「……えっ?ああ、いや、違うと思う」ようやく我を取り戻したらしい四季が慌てて答えた。「……たぶん、だけど」そして小さく付け加える。52 #4215tk

2016-02-02 20:36:01
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

満足げに頷いた夜桜は、ついで巡に視線を送る。当の鬼女は腕組みをして思案しているところ。「既に町中へ蔓延ってるとはねぇ。以前に見たことのあるやつだったのかい?」「ああ、いえ。今日が初めてです。町中の散歩はしょっちゅう行ってたんですが」充虎の答えに巡は目を細めた。53 #4215tk

2016-02-02 20:40:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「となると、飛羽たちが見たとかいうでかい方の影がばら撒いていったのか。しち面倒臭いことをしてくれる!蝿の大将殿、あんたはどう……おや?」話を向けようとしていた巡が怪訝な顔をした。怜もすぐにその理由に気づく。先ほどまでいたはずのニコールの姿がない。54 #4215tk

2016-02-02 20:44:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……いつの間に出て行きやがった?誰か見てたやつはいるかい」渋い顔で問いかける鬼女の問いに、答えられるものはいない。「ええい、これだから悪魔ってのは……!」「いないもんをどうこう言っても仕方ないだろ」伊奈が肩を竦める。「だいたい、あれは外様じゃないか」55 #4215tk

2016-02-02 20:48:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「まあ、そうさ。だからって……いや、もういい。ひとまずあたしらでその影の対策を考えましょう。いいですね、若旦那?」「う、うん」頷く四季を眺めながら、怜もまた携帯を取り出す。報告のためだ……しかし、あの悪魔はいったいどこに行ったというのだろう?56 #4215tk

2016-02-02 20:52:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

神社の外は既に闇に包まれている。それもそのはず。天照の力が届く結界の中ならともかく、そうでなければすでに真夜中と言える時間帯だ。そんな中、鳥居から足を踏み出し現れる影あり。白の着物に緋袴、狐の面を被った怪異。それは御狐衆の一員。もう一人の祭神、倉稲魂の配下だ。58 #4215tk

2016-02-02 21:00:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その怪異は未だ慌ただしい本殿を抜け出し、悪びれた様子もなく闇夜の街へと足を踏み出した。誰にも気づかれることなく。「彼の周りはいつも賑やかそうでいいねえ」誰にともなくそれが呟く。「羨ましい限りだよ。あれよりもっと楽しくさせられるといいんだけど」59 #4215tk

2016-02-02 21:04:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

言葉は闇に溶けて消える。さらに歩を進めようとした怪異は、不意に足を止めた。後方から風。直後、そのお面に、顔に、体に黒い線が刻まれる。その線を境に怪異の体がズレる。「ははは」自らの身に起こった異常に構わず、怪異は笑った。「やっぱり潮時だったか。気づかれてたな」60 #4215tk

2016-02-02 21:08:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その視線の先には小さな影が立ちはだかる。抜き身のサーベルをぶら下げた小さな悪魔。蝿の王。「ええと、ニコールだったっけ?さすがに目ざといね、大悪魔殿」「当然だ」悪魔はつまらなさげに吐き捨てる。「ま、気づいたのは俺だけのようだがな。つまらん小細工だ」61 #4215tk

2016-02-02 21:12:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怪異がお面の奥で笑う。その体が崩れ、粒子と変わり、シルクハットに燕尾服姿へと組み変わった。「いやはや。やはり彼の縁が一番の難敵だな。はじめまして高貴な方。私はシェイプシフター」「無駄な挨拶だ。覚える気はない」ニコールが眼を細める。「食物の恨みは恐ろしいぞ」62 #4215tk

2016-02-02 21:16:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

シェイプシフターは笑みを深めた。両腕を広げ、蠅の王と対峙する。腕の先が黒く霞み、その内側から放電音。蠅の王は鼻を鳴らし……音もなく上から落ちてきた第二の怪異にサーベルを振るう!闇夜に鋭い金属音が鳴り響いた。「おお。さすが蠅の王たる大悪魔よ」63 #4215tk

2016-02-08 20:18:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

感嘆の声を上げたのは、不意打ちをしかけた第二の怪異。黄色の衣に身を包み、白い仮面で顔を覆い隠した人型。杖での一撃を受け止められても、落胆の素振りすら見せぬ。「当然ではあるが、やはり簡単にはあしらえぬか」「無礼であるぞ、下郎」ニコールが唸る。64 #4215tk

2016-02-08 20:22:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「貴様ごときの力で……」杖を押し返しながら、悪魔は己の翅を広げた。髑髏の刻印がなされた蠅の翅を。「この俺に傷をつけられると思ったか!」ぶぅん、と重い羽音が辺りを包む。同時に、風の刃が殺到した。黄衣の怪異だけでなく、その後ろのシェイプシフターをも巻き込んで。65 #4215tk

2016-02-08 20:26:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あらら」シェイプシフターが困ったように呟く。その体が細切れに刻まれていく。一方「むうっ!」黄衣の怪異はニコールから距離をとった。いかなる手管を使ったか、その衣装には切り傷一つ見られない。「成る程、成る程!やはり歴史に名を残す悪魔は強いな」66 #4215tk

2016-02-08 20:30:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

なおも余裕を崩さぬ黄衣の怪異に、ニコールは不愉快げに眉根を寄せた。同時に警戒する。霊気の量だけで比較するならば遥かに自分の方が上。にも関わらず余裕の態度を崩さぬということは「おいおい、遊んでる場合じゃないぜ『演者』殿」声を上げたのはシェイプシフター。67 #4215tk

2016-02-08 20:34:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

細切れになり、地面に落ちていた肉片が逆再生のごとく組みあがる。軽く埃を払ったシェイプシフターが、嗜めるように言った。「少なくとも、正攻法でぶつかっちゃ絶対に勝てない相手なんだ。出し惜しみせずやってくれ」「言われずとも、そうしようとしていたところ」68 #4215tk

2016-02-08 20:38:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『演者』と呼ばれた黄衣の怪異は、片腕を軽く掲げた。その瞬間、黄色の何かが『演者』とニコールの周囲に広がる。「……ふん。なんの余興だ?」「なに、大したことはない。ただ貴君を招待しようと思ってな」「招待だと?どこにだね」『演者』はくぐもった笑みを漏らす。69 #4215tk

2016-02-08 20:42:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「我が劇場。主役は私で、演目は見てのお楽しみ。では、楽しもう」70 #4215tk

2016-02-08 20:46:12
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

都月家の二階。暗闇の中、トリルは以前うなされている薫を看病していた。汗を拭き、血の滲んだ包帯を取り替える。一連の作業を終えてから、彼女は自らの人差し指の腹に爪を食い込ませた。血の玉が吹き出る。それを薫の口元へ運び、口内に含ませた。血の補給だ。72 #4215tk

2016-02-08 20:54:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

薫の表情がやや和らぐ。それを愛しげに見下ろしてから、トリルは小さく息をついた。この状況、いつまで続くのか。居場所さえわかれば、呪いの元凶などあのときと同じように焼き尽くしてやるというのに!苛立つトリルの吐息は炎と変わり、一瞬だけ部屋の中を照らし出した。73 #4215tk

2016-02-08 20:58:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そのときだ。なんの前触れもなく、薫の呪いを『食い止めて』いた蛆たちが一斉に体を震わせる。「……なんだ?」トリルは訝しむ。ただ食べることしかしなかった彼らが、こんな挙動をするのは初めてだ。いったいなにが?……不意に、窓がびりびりと震え出した。74 #4215tk

2016-02-08 21:02:16