#リプが来たキャラごとに今思いついた書く予定なんてひとつもない小説を140字で書く/ガルパンおばさんまとめ

表題のタグへ頂いたお題への回答です。たまに誓約をぶっちぎっておりますがご愛嬌ということで何卒ひとつ。
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【言葉には力がある/冷泉麻子と武部沙織】

ひゃくまる @osiroiobake

【お題/冷泉麻子】  言葉には力がある。人や、世界や、時には運命すらも変えてしまうほどの力がある。「言霊」と言うのだと、昔おばぁが教えてくれた。  オカルトや迷信だと一笑に伏して切り捨てる人間は多いだろう。だが、冷泉麻子にはその実感がある。「言霊」は確かに存在するのだと。

2016-02-22 01:05:06
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake  否、実感、というには、あまりに重い。それは冷泉麻子にとって、いつまでも生々しく化膿して残る感傷。あるいは悔悟と呼ばれるものとして、心の奥深くへ何重もの鎖を巻いて沈められているのだった。幼少の頃に起こした癇癪で、母と父を巻き込んで発展してしまった喧嘩だ。

2016-02-22 01:05:33
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake きっかけなどもう覚えてはいない。ただ、泣きじゃくりながら嗚咽を漏らし、真っ赤になった鼻からタラタラと鼻水を流しながら、八つ当たりのように母へ最後に投げつけた言葉だけはしっかりと思い出せる。 「おかぁなんて大っ嫌いだ! 居なくなってしまえば良いのに!」

2016-02-22 01:05:50
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 「居なくなってしまえば良いのに」。 親に浴びせた最後の言葉がそれになった。 そして、仲直りをする暇もなく、あっけないほどあっさりと。

2016-02-22 01:06:40
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 書き損じた紙をグシャグシャに丸めてゴミ箱の中へ放りこむような気軽さで、ペシャンコになった車もろとも「冷泉麻子の吐いた言葉通り」母と父は居なくなり、子どもの小さな体躯でもじゅうぶんに抱え込めるほど小さな骨壺になって帰ってきた。

2016-02-22 01:06:56
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 言葉には、力がある。 「……麻子ぉ。とりあえず顔上げなよ」 心底弱った声が頭上から振って来た。知らない、聞こえない、と抵抗するように、畳へうつ伏せになったまま冷泉麻子はぐりぐり枕へ顔を押しつける。返答は深いため息だ。

2016-02-22 01:07:17
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 学習机と布団だけが残された四畳一間の下宿部屋には、それは酷く空しく響いた。顔を見上げずとも解る。どうせ荷造りもしてないんでしょ、と言いながら押しかけてきた世話焼きの幼馴染は、綺麗にまとめた敷き布団を崩されてご立腹のまま仁王立ちしているに違いない。

2016-02-22 01:07:42
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake もう部屋には、冷泉麻子の朝を毎日騒々しく彩った数々の目覚ましもない。積み上げられた段ボールの中でカチコチ生真面目に針を刻んでいる。 明日には荷物を残して退艦だ。 それもこれも、大洗女子学園は夏休みまでの期間を持って廃校が決定したと勧告されたからだ。

2016-02-22 01:08:21
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 「沙織」「なに。枕戻してくれる気になった?」 言葉には、力がある。冷泉麻子には未だ晴らせぬ悔悟がある。 普段ならばポーカーフェイスで沈められているそれは、焼き増しの今になってブクブクと不気味な泡を上げながら「忘れていたつもりか」と水面から顔を出す。

2016-02-22 01:08:59
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 枕にじわりと水分が移っていくのを感じながら、矜持で声は震えさせずに冷泉麻子は武部沙織に問うた。 「わたしが、私が学校なんてなくなってしまえば良いのに、と言ったからか?」 言葉には力がある。何気なく口走ってしまったもの、この運命を手繰り寄せてしまったのか。

2016-02-22 01:09:59
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 「頭が良いのに、たま~にすっっごくバカだね」 くすくすというささめきのような笑い声が響いて、っは、と麻子の口から息が漏れる。「麻子のせいだよ」と返されてしまうかもしれない事が怖くて、止めてしまっていた。そこで初めてどれだけ畏れていたのか身に染みる。

2016-02-22 01:12:11
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake ギシギシと音を立てながら、錆びついたブリキ人形が無理やり動作を繰り返すかのように心が痛む。その悲痛な音こそ、良心の呵責とも呼ばれるものかも知れず。 「……麻子はさぁ」 けれど、いや、それを全部見越してのものだったのか。武部沙織の返答はどこまでも軽かった。

2016-02-22 01:10:46
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 「……うるさい、沙織のくせに」  数秒のタイムラグの後に言った減らず口に「もー、すぐそういうこと言う!」と間髪入れずに小気味いいリアクションが来る。それから沙織は、少しだけ声のトーンを落として包みこむような優しい声色で続けた。

2016-02-22 01:12:38
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 「そう思っちゃうならそのままでいいんじゃない? だったら言い直そうよ、『学校はなくならない。二学期も登校する』ってさ」 なくならないかもしれないでしょ? その軽さと温かさがどうしようもないほどの救いのように思えて、沙織こそバカだろうと思わず笑った。 了

2016-02-22 01:14:18

【逸見エリカとホットミルク/逸見エリカと西住みほ】

ひゃくまる @osiroiobake

【逸見エリカとホットミルク】 1.キッチンの流し台の下。戸棚の奥で蜂蜜のビンが眠っている。 前に口を開けてやってから果たしてどれ程になるか。 全寮制加えて食事も配膳される黒森峰で、持て余すといえば然りの調味料がそこにあるのか。顛末を思い返すたび、逸見エリカは苦い顔をする。

2016-02-15 02:00:18
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 2.エリカに一言だって告げもせず、冬が明けるのと同時に、綺麗さっぱり荷物を纏めて出て行ったルームメイトに連なる記憶だからだ。 / 寝る前にホットミルクを一杯。ミルクパンに牛乳を入れてコンロにかけ、泡が立つ寸前までじっくり熱し、マグカップへ移す。

2016-02-15 02:01:09
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 3.湯立つ乳白色にふうふうと息を吹きかけながら、ゆっくり飲み下し、胃を暖めてから布団へ入る。 それは物心が付く前からの習慣で、どの家庭でもやっているのだ思っていた。 どうやらそうでもないらしいと知ったのは、黒森峰に入学して、寮生活が始まってからだ。

2016-02-15 02:01:29
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 4.正確には、まだ少し肌寒さを覚える4月の夜。就寝の間際、椅子に腰掛けながらそれを飲んでいたとき。「毎晩飲んでるね、ホットミルク」ベットの縁に腰掛けて、興味深そうな視線をびしびしと投げてきていたルームメイトがそう言ったからだった。

2016-02-15 02:01:45
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 5.「だから?」「えっと、なんていうかイメージが違うというか、エリカさん子どもっぽくてかわいっ、ひゃい、いひゃい!」湯だつコップを机へ置いて近づいて、無遠慮に両手で相手の頬を伸ばして抗議を表す。子どもっぽいも可愛いも、どちらも決して認められない。

2016-02-15 02:02:37
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 6.「……るっさいわね。これ、もう習い性なのよ」頬に熱が集まっているのはホットミルクのせいに違いないと言い聞かせつつ舌打ち混じりに返したところで、はたと思うた。「というか、そういえばあなたは飲んでるところ見たことないわね」「普通はあまり飲まないと思う」

2016-02-15 02:02:54
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 7.「……そうなの?」「う、うん」ぎこちない肯首にええー……と思わず声が漏れた。カルチャーショック、というには大げさかも知れないけれど、少なくとも衝撃ではあった。「……」寝る前のこの習慣は、限りなく不本意ながら、微笑ましいくらい子どもっぽいらしい。

2016-02-15 02:03:35
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 8.「ああ、そうだ。なら」けれど身に染み付いてしまった習慣をやめられるわけもなく、「一緒に飲めば? 淹れるわよ、あなたの分も」だったら仲間へ引き込んでしまえばよいと、その閃きを良い考えだと心中で膝を打ってしまったのが、思い返せば事の発端で、失態だった。

2016-02-15 02:04:04
ひゃくまる @osiroiobake

@osiroiobake 9.……もし誘いさえしなければ、戸棚を開ける度、役目を果たせない食材に恨みがましそうな視線を投げられる気分にだってなることもなかった。逸見エリカだけのものだったものは、二つ返事で頷いたルームメイトの付き合いの良さも手伝っていつしか二人の習慣になり、

2016-02-15 02:04:44