金木犀さんの「日中文学話と中国の宇宙観」集中講義!
私は文学研究、とりわけ中国の漢文が日本でどのように受容されたかを考える、日中比較文学をやっている。古代日本の文学と思想を、文化の発信者である中国と、受け手であった日本の双方の視点から眺められるのが面白い。
2010-03-14 00:07:12中国でも日本でもよく読まれた本は数多いが、その捉え方は異なっている。「史記」や「論語」でも差があるのだが、こと、文学作品だと顕著だ。
2010-03-14 00:09:00日本でよく知られている「史記」・「漢書」・「論語」・「白氏文集」・「文選」などの本文に、実はいろんなバージョンがあるのは意外と知られていない。
2010-03-14 00:12:15それは、大別すると古写本(専門用語では「旧鈔本」と言う。「鈔」は手で写すことなので、「旧鈔本」は古写本の意)の系統と、木版印刷本(「版本」と言う)の系統、有名なところや気に入った箇所を抜き書きしたり再編集した本(「流布本」)になる。
2010-03-14 00:16:14私が専門にしている奈良~鎌倉前期ごろの漢籍(中国で作られた本全般を指す)は、中国人にとっては自国語で書かれた本だが、日本人にとっては海外からやってきた高価で貴重な外国語の本だったというのは紛れもない事実であり、日本で漢籍が尊重されたのは想像するまでもない。
2010-03-14 00:22:51中国人にとって漢籍は、内容に分からないことや不都合な箇所があった場合、それは容易に変更できるものだったろう。何せ自国語だ。
2010-03-14 00:24:28日本人にとって漢籍は、それを読むために専門の特訓を受けた人々――学問を職業とした貴族や僧侶――をして初めて読めるものだった。しかも、遣唐使を送ってまでその文化を吸収しようとした中国から渡来したものだ。尊重の度合いは高かっただろう。
2010-03-14 00:27:41.@kin_mokusei さんの本業の研究内容は、古典文学作品が写本で現代に伝わる課程での変化を追う内容と聞いてたけど、結構突っ込んで聞くのは久しいので、どんどんつぶやいてくださいw
2010-03-14 00:29:17木版印刷が発明されるまで、本は写本であった。日本でも中国でも、これは変わらない。だが、両者には決定的な差があった。版本ができて世の中に広まった後、写本をどうしたか、ということだ。
2010-03-14 00:33:20余談。続き物の本を数える「巻」というのは、かつて書物の主流は巻物だったことに由来する。冊子の本が主流になるのは木版印刷が広まってからだ。一枚板を用いた印刷では、一枚紙を用いた方が便利。更に、特定の箇所を読みたいときは冊子体の方が便利。かくして冊子本が主流となった。
2010-03-14 00:37:29ではどんどんつぶやきます(笑) QT @kimi_lica: .@kin_mokusei さんの本業の研究内容は、古典文学作品が写本で現代に伝わる課程での変化を追う内容と聞いてたけど、結構突っ込んで聞くのは久しいので、どんどんつぶやいてくださいw
2010-03-14 00:37:52本題に戻る。結果から言うと、日本の場合、写本は版本と棲み分けして残った。中国では写本は滅んだ。「印刷=改竄がない、動かない本文」という認識だったようであり、人の手で写された本の価値はとても低かった。
2010-03-14 00:40:5720世紀初頭、敦煌から大量の写本が見つかって大騒ぎになったが、それは中国が伝統的に版本ができると写本を廃棄していたせいで、古写本がほとんど伝わっていなかったからだ。他にも理由があるが、それは後ほど。
2010-03-14 00:43:08. @kin_mokuseiさんの話がめっちゃ面白い。こういう自分が今まで接点がなかった世界のわくわくな話にもふっと出会えてしまうのがついったーの良い所。あと宇宙クラスタってこういう知的興奮なネタの引き出しを(宇宙に限らず)たくさん持ってるすごい人が多いよね。
2010-03-14 00:45:01日本でなぜ写本が残ったか、私が考える理由は以下の通り。細かいところは省略。1.中国から来た本を非常に尊重した。2.学問をする貴族の家系(博士家:ハカセケ、という)で代々教科書として使っていたテキストが、写本だった。そしてその本は門外不出であった。
2010-03-14 00:47:37ありがとうございます。 QT @sctracker: . @kin_mokuseiさんの話がめっちゃ面白い。こういう自分が今まで接点がなかった世界のわくわくな話にもふっと出会えてしまうのがついったーの良い所。あと宇宙クラスタってこういう知的興奮なネタの引き出しを(宇宙に限らず)た
2010-03-14 00:47:59中国の場合、五代十国時代の活版印刷黎明期が象徴しているように、大きな戦乱期には写本での典籍の保存での限界がこれまであったから、北宋以降に活版印刷が進むと写本が一気に廃れたというのもあるんじゃないかな
2010-03-14 00:51:27今述べた日本の状況は、概ね平安時代のこと。鎌倉時代になると、中国で木版印刷の技術が確立したために大量に生産された本が、日本にも渡ってくるようになる。このころの王朝は宋。すなわち宋版の渡来である。
2010-03-14 00:53:28@hadukino それもあると思いますが、なぜ写本が廃れた理由を考えると、私は科挙の存在が大きいと思います。写本だとどうしても転写ミスがありますが、版本だと一度版木を作ると動きません。全国の科挙を目指す若者や試験官の間で、ある程度統一したテキストが使えるようになるのです。
2010-03-14 00:58:00