- gundamvaka
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「寝顔、可愛いわね」 恋人に膝枕されて眠る魔理沙の頬に触れながら、私はそう呟いた。幻想郷で一番の枕に頭をあずける彼女の寝顔は、何の不安もないであろう、穏やかな表情だった。こういう顔もするのね、と小さな驚きが心を揺らしたのを私は自覚していた。
2016-01-19 01:32:05膝枕をする神社の主は私の呟きを聞いて、こいつはいつもこうだから、と苦笑を浮かべて返していた。 「ねぇアリス? 魔理沙って、全く遠慮がないのよ。膝枕をして欲しいって、素直に言ってしまえるのよね」 霊夢の言葉に少なからず納得するところを感じて、私はあぁと頷いた。
2016-01-19 01:33:37この夢見る魔法使いは自分の小さな欲望を押し通して憚らず、それでいて人を決して不快にさせない、稀に見る特性を備えた少女だった。霧雨魔理沙は甘え上手なのだ。 「そうね。魔理沙はそういう子だわ」 「あら、知ってたの?」 「毎度家に来る魔理沙の相手をしていれば、自然と分かってくるもの」
2016-01-19 01:35:45私は森の家に度々訪れる魔理沙のことを思い返し、そしてもう一度彼女の寝顔を見つめて、さっきの呟きが自分の軽い嫉妬から発されたものだったのだと気付いてしまっていた。
2016-01-19 01:36:29家に来る魔理沙の態度は、きっと今日の霊夢に見せたような若干の不躾さと無遠慮さが見えるそれと同じものであるはずなのだが、今の彼女が浮かべる安らかな寝顔は、家で私に見せる彼女なりの付き合いの一線を超えた、私には決して届かない場所にあるもののように思えてならなかったのだ。
2016-01-19 01:36:51私は自分の中に認識したこの嫉妬の念を、敢えて否定しようとは思わなかった。それは私がかつてこの少女に対し、恋慕の念を抱いていたという事実を認めていたからだ。
2016-01-19 01:37:22幽香様が失恋したならば、幻想郷中に悲しみの花を咲かせまくって異変騒ぎを起こして、しばきに来た巫女と弾幕りあってぼこぼこにされた後に、巫女の胸の中でわんわん泣くといい話になるんじゃないかなぁ、とか妄想したのでそんなお話どこかに転がってませんかね #あるのかそんなの
2016-01-28 23:24:38雲一つない夜空に浮かぶ満月を背にして、彼女は私をじっと見つめていた。山に鹿討に出た、寒さが一層厳しい夜のことだった。彼女と邂逅し、ひと目で心を奪われてしまった私は、猟銃を構えることも、動くことすらも出来ずに、雪原の中にただ立ち尽くすしかなくなっていた。
2016-01-30 23:44:35冷たい風が身体の熱を奪っていく。命の危険が静かに忍び寄ってくるのを徐々に自覚していながら、私は彼女から目を離すことが出来なかった。このままでは死ぬかもしれない。そんな予感がふとよぎった時、彼女は雪のように消えてしまったのだ。 まるで最初から、そこにはいなかったかのように。
2016-01-30 23:45:24自分の存在は歯車であると自覚している。それも、欠けてしまうと他が立ち行かなくなるほどに重要な立場にある歯車なのだと。 そんな私でも、時折人間としての自分を思い出すことがある。それはいつも、美鈴がそばにいる時だった。
2016-01-31 23:06:48ふと思いついたことだった。ベッドの隣でくつろぐ彼女に、私は「ねぇ、美鈴?」と声を掛けていた。 「一つだけ、訊いてみたいと思ったの」 「なんでしょうか」 「将来……私がいなくなったときのこと、考えたことある?」 美鈴は少し考えるそぶりを見せてから「ありますよ」と、はっきりと言った。
2016-01-31 23:08:01「きっと数日は騒がしくなるでしょうね」 「ショックだから?」 「咲夜さんは紅魔館にとってなくてはならない人ですから、当然ですよ」 そうね、と私は頷いた。 「でも……」
2016-01-31 23:11:47「でも?」 「その後、何事もなかったかのように紅魔館の日常は戻ってくるでしょう。貴女がそうなるように備えてくれることを、私は知ってますから」 ふわり、と胸の中に暖かさが灯るのを感じた。 美鈴は、ちゃんと私のことを見てくれているのだ。それがとても嬉しかった。
2016-01-31 23:13:00お嬢様に仕え、館のために身を捧げることは義務であり、そしてそれこそが私の意義だ。だが私の存在は無限ではない。いつか必ず訪れるその時のために、私は備えておく必要があった。そしてその為の準備は、もう既に始めつつある。
2016-01-31 23:13:52この身の全てを賭して、館のために尽くす。そのことを純粋に評価されるのは喜ばしいことだった。 私は、ありがとう、と言おうとして、しかし美鈴の指に優しく止められた。「まだ話は終わってませんよ」と美鈴は続けた。
2016-01-31 23:14:35「そして仮に、平穏になった日常の中で皆が貴女のことを忘れていったとしても、私は決して貴女を、咲夜さんのことを忘れませんから」 「それは……どうして?」 「私は、咲夜さんのことが好きですから」
2016-01-31 23:15:53なんで、どうして、貴女はそんな風に言ってしまえるの。 思わず私は美鈴に背を向けてしまっていた。「好き」の意味を想うと、鼻の奥が熱くなって止まらなかった。その言葉は狡いと、私は心底そう思わずにはいられなかった。 だから私は、美鈴のことが好きなのだ。好きになってしまうのだ。
2016-01-31 23:18:49