タマネギの形をした涙#2 今まで何をしていたんですか?◆3
_どうやらエンジェとミェルヒ、そしておっさんの気持ちが通ってしまったらしい。何とかしたい。でも、いい案が浮かばない。 エンジェは水道を塞いで急成長する青いタマネギを、何とかしたかった。 (何も実を付けずに、おじさんの頑張りが消えるなんて……ダメだ) 51
2016-02-08 18:03:49_そのとき、エンジェの脳内に稲妻が閃く。 「何も実を付けずに……だったら、実を結べばいいんだよ!」 思わず大声を上げる。 「タマネギを急成長させてさ、花を咲かせて、種を作ればいいんだよ! できる……きっとできるよ!」 52
2016-02-08 18:08:36「そんな都合のいい魔法あったっけ」 「今朝見たじゃない。加齢の呪文よ」 確かに、加齢の呪文は急成長を促し、結実を促進する作用がある。一般の作物に使われていない理由はいくつもある。魔法が高価であり、発育が不十分のまま急成長させても貧弱な実がつくだけだ。 53
2016-02-08 18:12:51_ミェルヒの悩まし気な声。 「しかし、加齢の呪文は不人気で需要もないし、扱っている店も少ないからなぁ。かといって若返りの呪文はもっと高価だし……」 「イヒヒ! 見たじゃない、今朝丁度、加齢の呪文を扱っているひと!」 エンジェの相変わらずな気持ち悪い笑い。 54
2016-02-08 18:17:21「なるほど、変態とのコネクションがあったか。そうと決まれば早く行動しなくちゃ。タマネギをこれ以上成長させるわけにはいかないよ」 日は高く上り、ちょうど正午といった時刻。街まで馬に乗って往復しても1時間といったところだ。二人は現場を作業員に任せる。 55
2016-02-08 18:22:53_そして急いで街に向かい、変態が白状した店を突き止める。店はすぐに見つかった。孤児院の裏にひっそりと佇む個人魔法店だ。窓ガラスが曇っており、繁盛しているようには見えない。 「邪魔するよ!」 勢いよく入店する二人。 56
2016-02-08 18:31:31「ヒッ、お許しを……自警団に突き出すのは……どうか……」 店のカウンターの向こうに隠れた変態の元へ、どかどかと床を踏んで近寄るエンジェとミェルヒ。 「大丈夫、協力してほしいだけ。値切らせてもらうけど、報酬も払うよ」 「へへぇ、ありがてぇ話ですぜ……」 57
2016-02-08 18:38:58_ミェルヒは店内を見渡す。薄暗い店内に、売れ残っている黄ばんだ魔法札。あまり繁盛しているようには見えない。 エンジェは簡単に事情を説明した。 「こんな俺でも、必要としてくれるなら、これ以上の嬉しい話はないですぜ」 変態はちらりと店の奥を見る。 58
2016-02-08 18:46:16「俺にもやりたいことがありますさ。どうか、俺の願いを聞いてくれやせんか……? 簡単な、簡単な願いなんですさ」 卑屈に笑う変態。しかし、その目は本気だった。エンジェは、この変態にもタマネギのおっさんのような暗い思いが渦巻いていることを知る。 59
2016-02-08 18:51:38_変態は店の奥、壁掛けのスイッチを押す。すると、遠くでベルの鳴る音が聞こえる。陽気な声、騒がしい足音。裏が孤児院だったことを、エンジェは思い出した。 「おじちゃん! お客さん!?」 子供たちが店の奥から次々と出てくる。そういう顔もあったのだと、エンジェは少し驚いた。 60
2016-02-08 18:55:59【用語解説】 【魔法店】 魔法札を売る店。大きい店舗だと、身体にシリンダーをインプラントするための施設も備えている。シリンダーは5mm~2cm程度の透明な管で、魔法を封入し高速展開させるのに使う。ただし封入状態は不安定で容易く失われるため、使う分だけ魔法札を消費する
2016-02-08 19:01:49