- tasobussharima1
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「田中ブッダ教授?田中ブッダ教授」 「ああ……君か。フルネーム呼びは止めて欲しいんだが」 「仕方ないじゃないですか。この大学、田中教授が3人くらい居るんですから」 「それに、私は今忙しい。レポートの採点が残っているのだ」 「新型実験炉の予算、通ったそうですよ」 「なんだと!」
2016-02-14 21:04:03初老の男は上体を激しく起こす。 「徳ジェネレータの予算が通ったのか!」 「ええ、予算委員会で承認されたそうで。メール、チェックされてなかったんですね」 「すまん。国からの予算なぞ、当てにしてはいなかったが……これで、我々は前に進める」 徳エネルギーの普及は、未だ初期段階にある。
2016-02-14 21:08:05仏舎利粒子(ブッシャリオン)の発見から既に100年近く。人類は漸く、形而上世界への扉に手をかけていた。 「炉心の現物さえ建造すれば、計画は飛躍的に進む。宗教界との軋轢も、ある程度は解消されるだろう」 徳エネルギー。人類の善行からエネルギーを取り出す、あまりにも革新的な研究。
2016-02-14 21:12:09その革新性は同時に、余りにも多くの問題を生み出していた。とりわけ、徳エネルギー抽出実験における聖遺物の類の消費は最も即物的かつ危急の問題であり、生きた人間から高効率で徳エネルギーを抽出可能な改良型徳ジェネレータの建造が徳エネルギーの普及のためには不可欠であった。
2016-02-14 21:16:05「それでも、問題は……やはり、時間か」 だが、油断は決して許されない。次世代の主力エネルギーの候補は未だ数多いのだ。徳エネルギーはその1つに過ぎない。実現に先鞭を付けたとはいえ、それは長い道のりの中での一歩のリードに過ぎない。 徳エネルギーは、そもそも致命的な弱点も抱えている。
2016-02-14 21:20:05『排他性』。それこそが徳エネルギーの最大の弱点。徳エネルギーのメリットを最大限に享受するためには、サイクルの構築が不可欠なのだ。徳エネルギーが徳を生み出すサイクル。その構築のためには、徳を損なうエネルギー源は排除せねばならない。 「それで、良いのだろうか」
2016-02-14 21:24:05