四肢を切断されてただ飼われるだけの生活に慣れていく眼鏡男子

レミアルミ @remi_arumi

「わたしね、今まできみからたくさんいろんなものを貰ってきたから、今年はお返しをしたかったのさ」 「奪ってきたの間違いじゃあないのか」 「ただ、ホワイトデーに渡すお菓子ってたくさんあるだろう？わたし、どれが一番いいかわからなかったから……それっぽいのを、全部作ってしまった」 「全部」

レミアルミ @remi_arumi

「おいしく作るのに手間取ってしまったものも少しあってね、ちょっと遅くなってしまったけれど、許してほしいな」 「……」 「……ダメかい？」 「……もういい、みんな持ってこい、食わなきゃやってられん」 「ああ、ああ、いいとも！すべてきみのものだからね、いっぱい食べておくれ！」

レミアルミ @remi_arumi

「きーみ。……どうしたんだい、何か気になることでもあったかい」 「窓際に、何か落ちてる」 「ん？ああ、これは……桜の花びらだ。昨日星を眺めた時にでも入ってきたのかな」 「桜が、咲いているのか」 「満開はもう過ぎてしまったけれど、ね」

レミアルミ @remi_arumi

「花が、見たいのかい」 「……去年は持ってきてくれなかった」 「ふふ、ごめんね、きみのことで頭がいっぱいだったんだ。あまり拗ねないでおくれ」 「それは、いつものことだろう」 「桜のことなどどうでもいいくらいに、いっぱいだったのさ」 「それもいつものことだと思うが……」

レミアルミ @remi_arumi

「見たいというなら、明日にでも拾ってくるよ。……花びらだけでいいというなら、この花びらを満足するまで眺めるといい」 「これは、後でどうするんだ」 「どうするって、外に捨てるよ。もしそれでまた戻ってくるようなら、……二度と戻ってこれぬように、燃やしてしまおうか」 「……おまえは……」

レミアルミ @remi_arumi

開け放たれた扉の前で、助けに来た、もう怖くない、安心していいと顔の塗り潰されたひとびとが言う。ベッドの横には、銃弾によって呆気なく転がったあいつの死体。現状がどうしようもなくなって、最期におれの顔を見に来たあいつに、特に思うことはない。つくづくばかなやつだった、それだけだ。

レミアルミ @remi_arumi

ああ、でも、おれは、ただの人間の撃ったただの銃弾で、何の変哲もない、ただのにんげんのような死に方をしたあいつに。 ……ほんの少しだけ、失望したのだ。

レミアルミ @remi_arumi

「(……む……)」 「(現実にしてはひどく都合がいいと思ったが、まあ、夢か)」 「(夢だから、あんなおかしな想いを抱く。あの気狂いの死に、良いも悪いもあるわけないだろうに)」 「(……)」

レミアルミ @remi_arumi

「おまえ」 「なんだい」 「……いたのか」 「きみが呼んだから、いま急いでもどってきたんだ。それで、どうしたのかな」 「…………」 「……わたしの顔がいっぱい見たいなら、眼鏡を持ってくるよ」

レミアルミ @remi_arumi

「……別に、いい。用もない」 「照れなくていいのに」 「照れてもいない」 「ふふ、じゃあ本当に特に意味もなく呼んだのかな。それはそれでうれしくなってしまうのだけれど」 「……勝手に言ってろ」 「うん、わかった。そういうのには慣れてるからねえ、ふふふ……」

レミアルミ @remi_arumi

「……なあ」 「うん、どうしたのかな」 「ここで……ここで一回死んでみてくれないか……？」 「うーん、死んだら死んじゃうからなあ……」

レミアルミ @remi_arumi

「今年ももう、クリスマスの時期になってしまったねえ。きみといると月日が早く感じるよ」 「自由」 「話題を全部飛ばしてお願いごとを言ってきたね」 「どうせ今年もおまえはサンタをやりたがるんだろう、忘れないうちに言っておいた方がいい」 「そうなんだけども」

レミアルミ @remi_arumi

「きみは本当に、諦めが悪いねえ」 「おまえに一番言われたくない台詞だな」 「今年は別の物を頼んでもいいんじゃないかい。毎年こうじゃ、本物のサンタも辟易してしまうよ」 「……警察……？」 「サンタの方が先に捕まってしまいそうだねえ」

レミアルミ @remi_arumi

「……おまえ」 「おや、起こしてしまったかな。ごめんね」 「なんで、起きてるんだ」 「毎年、この時期は数日徹夜だよ」 「……」 「心配しないでおくれ、明日はきみと眠るから。だから、大丈夫……」

レミアルミ @remi_arumi

「流石に、サンタクロースはもう来ないんじゃないか」 「早めに来るサンタがいるなら、遅く来るサンタもいるのではないかい」 「それは……よくわからないが……」 「……出来る限り、不安要素はどうにかしておきたいのさ。きみを誰にも奪われたくない……」

レミアルミ @remi_arumi

「今年こそ仕留めておきたかったのだけれどねえ。別に来ないなら来ないでいいけども……さ、ここはわたしに任せて、きみはおやすみ」 「……おまえは、変なところで純粋だな」 「ふふ、今年最後に褒められるなんて、嬉しいなあ」 「特に褒めてはいないぞ」 「わたしには、それで充分だとも」