ヨーロッパの固体ロケット技術 その光と影 ~なぜフランスとイタリアが固体ロケット担当なのか~

アリアン5の巨大な固体ロケットブースターや、固体ロケット「ヴェガ」等、ヨーロッパには高い固体ロケット技術があります。 日本では糸川先生率いる宇宙科学(平和利用)、アメリカでは空軍がミニットマンミサイルやタイタン用SRB向けに研究を行ったhttp://togetter.com/li/848830ことは知られていますが、ヨーロッパの固体ロケットの源流はどこにあるのでしょうか? フランスとイタリアが固体ロケットを担当している経緯を、浅くではありますが紐解いてみました。
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H-IIA 30号機を受けて、世界各国で昨今、新型ロケット開発が始まっている、という話から、アリアン6の話題に。

大貫剛 @ohnuki_tsuyoshi

@LH2NHI 弾道弾ベースのロケットから脱却して宇宙用にゼロから設計するのが進んだあとで、弾道弾との共通性を意識したアリアン6が異様だったのが際立ちますね…

2016-02-21 11:47:23
LH2 @LH2NHI

@ohnuki_tsuyoshi アリアン6ってどちらかというと「ATKが提案しようとしている新巨大固体」みたいな感じで「固体の方が安い!」理論から来ているような。弾道弾との共通性ってそんなにあるのでしょうか?(フランスはM51 SLBMがありますがP80FW等は国際共同ですし)

2016-02-21 11:51:34
大貫剛 @ohnuki_tsuyoshi

@LH2NHI うむ、モーターケースを共用しているわけではないのでそこまでの共通性はないと…固体のライン維持が目的ならあそこまで大きくする必要はないですし、単にコストの話なんですかね…

2016-02-21 11:53:33
LH2 @LH2NHI

@ohnuki_tsuyoshi M51も改良すれば十分衛星打ち上げに使えそうですが、わざわざVegaを国際共同で開発したのは、能力面だけでなく、フランスの軍事とヨーロッパの国際共同宇宙開発を切り離す、という政治的意図もあるのかもしれないですね。(あとはイタリアの技術維持)

2016-02-21 11:59:17

ところで、ヨーロッパの固体ロケット技術の源流はどこにあるのでしょうか?
ヨーロッパで固体ロケットを担当しているのはフランスとイタリア。実は2か国ともその裏にはきな臭い歴史がありました。

LH2 @LH2NHI

日本の固体ロケットは宇宙研系の系譜を引いているし、アメリカの固体ロケットはタイタンIIICやミニットマンに向けた空軍の「大型固体ロケットの研究」から始まっているけど、ヨーロッパの固体ロケットの歴史はちょっと私の調査不足かはっきりしないところがある。

2016-02-21 12:22:08
LH2 @LH2NHI

ヨーロッパの固体ロケットの系譜はVEGAを主導するイタリアとSRBなどを部分担当するフランスにある。 アメリカほど有名ではないが、フランスは核保有国としてSLBMを保有していて、順次改良型に更新している。

2016-02-21 12:28:31
LH2 @LH2NHI

フランスのM51 SLBMは固体3段式SLBMで、ASTRIUM社製 地上発射試験を経て水中発射、潜水艦発射、そして製造などをまとめたビデオがこちら。戦略ミサイルの製造工程はあまり見られないので貴重かも。 youtube.com/watch?v=CmaAcd…

2016-02-21 12:33:02
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LH2 @LH2NHI

地上発射台から打ち上げられるM51 SLBM試験機1号機、2号機の姿。 発射台はフランスだけあってアリアンやヴェガみたいだし、これが新型宇宙ロケットですと言われたら納得してしまう人もいるのでは? pic.twitter.com/nCMsOikA2P

2016-02-21 12:35:54
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LH2 @LH2NHI

フランスの固体ロケット開発の歴史は結構長い。初期にまでさかのぼることは私には難しいが、少なくとも初の衛星打ち上げロケット ディアマンAの第2段、第3段は固体ロケットであり、2,3段部分だけでの打ち上げも行っていた。 pic.twitter.com/bBwW2LONiy

2016-02-21 12:42:50
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LH2 @LH2NHI

フランスは1950年代から将来の核兵器開発を計画し、1966年からサハラ砂漠で核実験を実施。1960年代からの核戦力整備計画に固体ロケットの研究も含まれており、実はディアマンにもIRBM[S2]を用いた全段固体案などもあった。 pic.twitter.com/IXSH8vXVX4

2016-02-21 12:48:59
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LH2 @LH2NHI

ディアマンに硝酸-テレビン油系の液体推進が用いられたのは単純にコスト面でそちらの方が安かったからで、こちらは観測ロケット ヴェロニーク の系譜を引いている。space.skyrocket.de/doc_lau_fam/ve… pic.twitter.com/iJkR7YE48y

2016-02-21 12:52:17
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LH2 @LH2NHI

(ディアマンの液体推進の技術はのちにアリアンに結実したわけで、ここで宇宙を液体推進メインにしておいたのはフランスにとって結果的に良い判断だったのかも)

2016-02-21 12:53:28
LH2 @LH2NHI

一方、固体ロケットは地上発射型弾道ミサイル「S」シリーズとSLBMの「M」シリーズに分かれた。 「S」シリーズはS1~S3と開発されたが、最終的に地上発射弾道ミサイルは廃止された。 b14643.de/Spacerockets_1… pic.twitter.com/lG09U0Q3Ce

2016-02-21 12:58:38
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LH2 @LH2NHI

SLBM「M」シリーズはM1,M20,M4等と開発されて今のM51につながる。 M1,M20等の初期型は4ノズルのポラリス風なのが面白い。 ちなみにこの機体、実は宇宙にも関係が… b14643.de/Spacerockets_1… pic.twitter.com/nXLtsu2Ahx

2016-02-21 13:09:16
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LH2 @LH2NHI

宇宙好きな人でも「ディアマン」ロケットを知っている人は少ないかもしれませんが、フランスが独自開発し、初の衛星を打ち上げたロケットです。 ディアマンはA,B,BP4と改良されましたが、BP4で第2段が急にすっきりしています。 pic.twitter.com/Zd6573N2oQ

2016-02-21 13:11:46
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LH2 @LH2NHI

実は、ディアマンBP4のこの太い第2段「P4」は、M1 SLBMの第2段モータを流用したものなんです。 意外なところに結びつきがあるものなんですね。 b14643.de/Spacerockets_1… pic.twitter.com/CfIwQxXy7N

2016-02-21 13:14:11
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LH2 @LH2NHI

さて、フランスは現在も核保有国でSLBMやIRBMを開発してきたので、そこから固体ロケット製造技術を手に入れたことはわかりましたが、イタリアはvegaに至る固体ロケット技術をどこから手に入れたかというと… 実はイタリアにもSLBM計画があったのです。

2016-02-21 13:16:26
LH2 @LH2NHI

時は1960年代初頭、イタリアの周辺国は核開発を進めていました。ユーゴスラビア、ルーマニア、スイス…これらに対抗するため、イタリアはアメリカのNATO多角的核戦力に乗る形で、ポラリスミサイルを巡洋艦に搭載。しかしアメリカと欧州の見解の相違から、結局破談に。ところが

2016-02-21 13:22:47
LH2 @LH2NHI

イタリアはアメリカが核不拡散に舵を切り、ポラリスを撤収させると、独自の核戦力を保持するためSLBM「アルファ」の開発を始めてしまいました。

2016-02-21 13:26:42
LH2 @LH2NHI

「アルファ」は1971年開発開始、1975年には第1段のみの飛翔に成功。 しかしアメリカの圧力で開発は中止、イタリアは核不拡散体制へ space.skyrocket.de/doc_lau/alfa.h… it.wikipedia.org/wiki/Alfa_(mis… pic.twitter.com/8ldOlpVAQv

2016-02-21 13:30:02
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LH2 @LH2NHI

ミサイルとは一線を画し、ヨーロッパ共同で平和裏に開発されたアリアン5やヴェガロケット。宇宙の商業、科学、戦略的活用のため輝く彼女らですが、 なぜフランスとイタリアが固体推進担当なのかを考えてみると、そこにはこんなきわめてきな臭い経緯があったのでした。

2016-02-21 13:34:32
LH2 @LH2NHI

(…こうやって考えてみると、日本が固体ロケットを平和利用ベースで開発してきたというのは本当に珍しいことだと実感するし幸せなことだった。 一方で、ミサイルなどの固体推進、液体推進技術が宇宙開発と裏で結びついてこなかったはずはなく、その側面はあまりにも闇に包まれている気がする。)

2016-02-21 13:39:33