アンダーワールド・レフュージ
得体の知れぬ恐怖。四方の闇。床の裂け目。配管の影。天井に開いた穴。通風孔。全ての暗闇に、何かの気配を感じた。ツキジ地下そのものが、巨大な一個の怪物であるかのような。己は始めから、その暗黒の胎内にいたのではとすら思え始めた。恐怖でパペットマスターは凍え、視界が回転し始めた。 138
2016-02-27 01:56:46どこまで逃げても、覆いかぶさるような巨大な意識と、コンクリートの亀裂の中に隠れた何かの蠢きが!コワイ!「イヤーッ!」彼はこの呪われた場所から一刻も早く逃げ出すべく、連続跳躍を打った!直後、マグロ倉庫の影からイカめいた大触手が何本も伸び、彼を空中で絡め取った!「アイエッ!?」139
2016-02-27 02:00:48「アイエーエエエエエエエエエ!」パペットマスターの体はそのまま闇の中に引きずり込まれ、ツキジ下層部全域に根の如く隠されている巨大な肉塊の中に消えて果てた。これこそがツキジ・アンダーワールド。INWの支配する世界であった。闇の中で断末魔の悲鳴!「サヨナラ!」ナムアミダブツ! 140
2016-02-27 02:08:57「処分いたしましたわ、先生」フブキがリー先生の仮説ノートをちらちら覗き込みながら言った。「うむ」「それにしても先生、凄いんですのね、これ」「凄いねェー、フブキ君」壁に掛けられた大型UNIX画面には、数日前にナンシー・リー達から買い取ったアマクダリ機密情報が映し出されていた。141
2016-02-27 02:15:23「まあいずれ、攻めてくるだろうねェー。だからさっきのもゾンビーにしておいてくれると嬉しい」「勿論ですわ、もうしてありますの!」「流石だフブキ君!ますます有能になった!それに興味深い!ちょっと撫でてあげたい!」「アアーン!もう無理ですわ、こんな体になってしまっては!」 142
2016-02-27 02:25:52「そこがイイのだ!幽体と肉体!コトダマ空間と物理空間の関係を解くカギかもしれん!…ちょっと出てきたまえ。いるんだろう?」「まあ!知ってましたの、先生!?でも…怖くありません?」排気口からイカめいた触手が恐る恐る顔を出していた。「恐怖なんてのは、無知から来るものだからねェー」143
2016-02-27 02:33:34「まあ先生そんな!先生そんな!いけませんわ!嬉しいですわ!アアーン!」「アーッ!フブキ君!ちょっと待ちたまえ!アーッ!だめだ!アーッ!」 144
2016-02-27 02:38:01かくしてアマクダリの斥候は握りつぶされ、全てが終わり、束の間の平穏が戻ったコードロジストたちの防壁都市……。その地下礼拝堂では、ジェノサイドがひとり、強いハーブ臭のズブロッカを煽っていた。 146
2016-02-27 02:45:22扉がノックされた。ジェノサイドが入っても良いと言うと、ナンシーとホリイが現れた。彼女らが何を話しにきたのかは解っていた。リー先生とIWNについてだった。「……少なくとも、今回の件については嘘じゃねェ……アマクダリは元々INWを潰すためのきっかけを探してやがったのかもな……」147
2016-02-27 02:52:24「ではINWが私たちを裏切った可能性は今の所、無いわね」とナンシー。「ハ!ハハハハハ!」ジェノサイドは笑った。「そうだ。いいか、ここはツキジの腹ン中だぜ。INWがその気になりゃ、全員即座にジゴク行きさ。電波も雷も届かねェ。……一番安全で、一番危険な場所に逃げ込んだんだ」 148
2016-02-27 02:58:33この一か八かの賭けにも似た危険な取引を思いついたのは、無論、ナンシーとホリイ。それを実際に繋いだのは、ジェノサイドであった。さらに傭兵ブラックヘイズもリー先生とコネを有していた。だが…実際に交渉を重ねてみても、ナンシーにはまだ、リー先生の腹のうちが何一つ見通せぬのだった。 149
2016-02-27 03:03:31「改めて、率直な意見を聞きたいの。貴方が多分、一番リー先生について詳しい」ナンシーは険しい顔で言った。「危険だけど、実際私たちはその力によって保護されてる。リー先生の最終目的は、何?契約を絶対に守る男なの?あるいは知的好奇心の赴くままに、軽々と約束を反故にするような男?」 150
2016-02-27 03:06:38「……」ジェノサイドは酒を飲み、思案した。それは長い思案だった。「知らねェよ……。そもそも、知ってどうする?お互いに利用するしかねェんだろ?ここの全員、ジゴクに片足突っ込ンでんのさ」「ま、そうね」ナンシーが諦めたように肩をすくめた。「今は皆、傷を癒せるだけでも有難いわ」 151
2016-02-27 03:14:12「あんたも全く、大した根性だな。どうだい、三人で一杯やらねェか?ジゴクも案外、居心地が良いかもしれねェぜ……」「そうね、少なくとも、地上で生きていけない者の安息所」「今は、それで十分かもね、傷を癒して、武器を研ぐ」「ああ、地獄の炉で武器を鍛えりゃいいのさ。……あと何日だ?」152
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