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NJSLYR / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
【アンダーワールド・レフュージ】
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部屋の隅から聞こえてくる鼻歌で、ナボリは浅い眠りから目を覚ました。頭を起こすと、顔に埋め込まれたスゴイテック社製N33式サイバーサングラスの有機EL液晶面にうっすらと緑色の光が灯り、「起動する」のドット文字が浮かぶ。 1
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まだ馴染みが悪い。謎の細いパイプが何本も通され常に数センチほど空いているガラス窓の隙間からは、電力不足で明滅気味の灯りが外からチラチラと忍び込んできて、ナボリの擬似視神経をちくちくと刺激した。こめかみの辺りに頭痛があった。鼻の下を拭ってみたが、幸い、出血は無かった。 2
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部屋の中は暖かく、いい匂いがした。ここには簡易寝台とキッチンしかない。それとモナコだ。彼にはそれで十分だった。モナコは寝室に背を向けて、鍋を火にかけていた。長いピンク色の髪と、とてもいい形のヒップが見えていた。「何してるンだいハニー」ナボリは無精髭を掻き、ぼんやり微笑んだ。 3
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「クッキング」「ケミカル薬物クッキングじゃなさそうだ」「バイオチキンとセロリのオーゾニを作ったから、元気になる」モナコは酷い見た目のスープをよそい、運んだ。味覚は戻っていなかったが、ナボリはそれを貪り食った。モナコは横に座り、少し焦点の合わない目で、にこにこと微笑んでいた。 4
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食事を終え、ミスター・ハーフプライスのニューロンが働き出した。「地上はどうなってる?大金は手に入ったが、ここから出れなきゃ使い道が…」ナボリが問うと、モナコは幸せそうにうんうんと頷いてからキスをして、よく喋る口を塞いだ。舌の上で半ば溶けたシンピテキ錠剤の甘い味が伝わってきた。 5
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『アッコレ』サイバーグラスにLED文字が映し出された。モナコは彼を押し倒して、毛布に包まった。豊満なバストの感覚があった。「そんな事よりファックしよう。そしてもっと寝よう。そうしようー」モナコはべろべろと液晶面を舐めまわした。シンピテキが決まる。ナボリもまんざらでもなかった。 6
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フスマの隙間からはモナコの声が漏れ出していた。狭苦しい木造階段を軋ませながら上階から下りてきたユンコ・スズキは、少し眉根を上げながら彼らの部屋の前を通り、コンクリートと木材とバンブー足場と謎めいた配管とチューブが入り混じった過剰増築建造物の廊下を抜けて、さらに下へと向かった。 7
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ユンコは厚底ブーツを履き、何とか美的センスが許せる範囲のツギハギのサイバーウェアを着込み、それでもサイバネ皮膚が損傷し露出しているメカニカル部には、包帯を巻いていた。片方の頰と目元。それから肩。手首。10月10日の長い戦いの後、オモチシリコンを貼り替える時間も手段もなかった。 8
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「アイテテテ……そっちもまだ痛むかい?」集合住宅(ただそう呼ぶしかない代物)の玄関先で足を投げ出しギターを弾いていたゴウトが、ヘッドホンを外しユンコに微笑みかけた。彼も包帯を巻き脚にはギプス。ユンコは立ち止まり、微笑み返した。ここで笑顔がどれだけ重要か、彼女は来てすぐ学んだ。 9
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「痛覚は切除できるから」ユンコは言った。「いいね」ゴウトが頷いた。「本当は、包帯もクールでカワイイかなって」「カワイイだと思うよ」「ありがと。本業は床屋だっけ?」「まあそういう事で」ユンコは頭のLANケーブルヘアを指して言った。「こういうの、作れる?」「材料が見つかればね」 10
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「そのうちお願いするかも。分けてもらう予定だから、ヴィンテージケーブル」ユンコは後ろ手を振って別れた。「ああ、いいよ」ゴウトは笑い、またギターを爪弾き始めた。ユンコは迷路のような道を進み、上を見上げた。空は無い。どこか遠いところから、旧世紀マグロ冷却装置の稼働音が響いてくる。11
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ユンコの表情はまた硬くなる。夢を思い出した。過去の記憶ではない純粋な夢を見るのは、ニューロンチップから再生されて以来、ほとんど覚えが無い。どこか知らぬ湾岸部の埋め立て地。山と積まれたオイランドロイドの残骸。その中で仰向けになり、ユンコ・スズキも朽ち果てていた。「ヤな夢……」 12
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水路を越えると、錆びはてたガレージ広場から笑い声が聞こえてきた。それがまたユンコに笑顔を取り戻させた。老人とシェリフバッジの男がデミ太陽光電球の下で座り込み、ショーギを指していた。正確には、モーターチイサイと腕を失ったショーギロボットを隣に置き、二人がその代打ちをしていた。 13
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ユンコは立ち止まらず、広場側に向かって短く手を振った。モーターチイサイが不安定にジャイロ浮遊し、痛んだLED光をチカチカと明滅させて返事をした。ここには多くの奇妙な者たちが暮らしている。過酷な戦いを経て、彼らには傷を癒すための時間が必要だったが、地上に安息の場所は無かった。 14
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彼らに残された避難所は、ここツキジ・ダンジョンの最深部だけであった。ネオサイタマの地表はアマクダリによって完全掌握されている。ここに潜んでいる者たちは皆、統治システム内に発生した異物であり、地上に出れば最後、アルゴスの監視カメラ網に捕捉されハイデッカーにより排除される運命だ。15
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このシャッター防壁の内側に潜む逃亡者の人数は、総勢で100名近い。老人や子供も含まれるため下水道網で長期間潜伏することは不可能。だがツキジ地下廃墟ならば、辛うじて暮らしてゆける。無論、ここも完全な聖域とは言い難い。いつアマクダリに発見され包囲攻撃を受けてもおかしくないのだ。 16
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ユンコは隔壁を越え、旧世紀の遺物たるロービットマイン採掘所を抜けて進んだ。何人かの者が電子部品の採掘に勤しんでいる。逃亡者の多くは、街を捨ててエクソダスめいた逃避行を選んだコードロジストだ。かつてネオサイタマは猥雑なケオスに溢れ、彼らのような者たちに避難所を提供してきた。 17
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だがアマクダリにより、ヴェールは引き剥がされた。唯一の例外といえば、ニチョームである。だがツキジとは遠く分断されており、ニンジャでなければ往来は不可能。加えてツキジ潜伏が露見する危険もある。ユンコは現在のニチョームについて信じがたい噂を聞いたが、どこまでが真実かは解らない。 18
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かくの如く、逃亡者たちが潜み、傷を癒すツキジ廃墟街。だがこれほどの人数を、アマクダリの監視を逃れながら、如何にしてエクソダスさせたのか?無論ニンジャの力もあった。だがそれだけでは不可能だ。その答えがここにある。ユンコは「大事」と書かれたフスマの前で立ち止まりノックして開いた。19
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室内には、深い象牙色に変色しケースに赤錆を浮かせたUNIXが山と積まれていた。その中心にはナンシー・リー。彼女は生命維持装置付きの最新鋭エルゴノミックUNIXチェアに横たわり、昏睡状態にある。その横には黒いショールをかけたツイン・オダンゴ・ヘアの魔女。ホリイ・ムラカミがいた。20
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「容体どう?」ユンコが問う。ホリイが首を横に振る。「時々うわ言をいうだけ。どこか別の世界でも彷徨ってるみたいに」「そっか……」ユンコは眠り続けるナンシーを見下ろした。彼女は皆を避難させる過程で、アルゴスから熾烈なIPスキャン攻撃を受け、再びソウルワイヤード状態に陥ったのだ。 21
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「でもそれも、今日で終わり」「死蔵IPを使えば、アルゴスにここの位置を悟られず、救い出せるはず」「そう。準備がちょうど終わったわ。潜る準備はできた?」とホリイ。「うん」ユンコが頷く。「じゃあざっとシステムの説明を、ここの10台のUNIXがデコイ。ウイルスを仕込んであって…」 22
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ブガー!ブガー!突如、非常LEDボンボリが明滅!「ファック!?」「こちらホリイ、何があったの!」魔女は壁を這う複雑な真鍮パイプ通信網の蓋を開け、問うた!狼狽したコードロジストが答える!『アイエエエエエ!ニンジャ襲撃です!ゾンビーニンジャがシャッター防壁を破壊しアイエエエエ!』23
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「ゾンビーニンジャ……!?」ついに恐れていた事態が現実のものとなってしまったのか。ユンコは険しい顔を作り、真鍮パイプ通信網に向かって叫んだ。「持ちこたえて!私がニンジャを……!」『ARRRRRGHHH……俺が行く……』その時、別の死体じみた声が真鍮パイプ通信網に割り込んだ。 24
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