野生のかにかまは体表から分泌したかにかまチューブの中で共生細菌に栄養を作ってもらいながら生活しています。プラスチックのかにかまパッケージを置いておくと、プランクトンとして浮遊生活を送る幼生かにかまが流れ着いて定着します。これを肥育し、出荷したものがスーパーで見かけるかにかまです。
2016-03-01 19:54:41トレイに入ったほぐし身状のかにかまは、実は一般に見かけるかにかまとは別種です。これはプランクトン期を経ずに直接発生する大型のかにかまで、エビやカニを好んで捕食します。体表の赤い色素はエビカニから取り込んだアスタキサンチンで、色が濃いほどよく餌を食べた上質なかにかまです。
2016-03-01 20:03:30かにかま漁師の朝は早い。彼らは夜も明けないうちに舟を出す。かにかま漁には数人漕ぎの小さな舟しか使えない。野生のかにかまは岩礁に好んで住み着くからだ。前日仕掛けた罠の多くは空振りだった。「ふぐです」こぼした若い漁師が顔を明らめる。「かにかまだ」少年の面影を残す彼の声が興奮している。
2016-03-01 20:04:07人工着色料で無理やりに色を付けられ、下品な光沢をまとったまがいもののカニカマが、狭い水槽に押し込められて、無為に生きている。それでも、僕はカニカマを愛するのだ。餌の時間、小エビに食いつく一瞬のその躍動が、それだけがあの美しい朱色を僕の脳裏に思い出させるよすがとなっているのだから。
2016-03-01 22:40:46とある漁村。今となっては貴重な天然かにかま枝を提供する宿があると聞いて訪れた私に、「保護条約ができてからは落ち着いてるけどね、昔は密漁船が凄かったの」と笑いながら女将は言う。「もうねぇ、他では食べられないよ」そう言って出されたかにかまの刺し身は、まるで宝石のように艶めいていた。
2016-03-05 14:37:18養殖のかにかまはまっすぐ育てられてるからスーパーで売ってるかにかまは均一な筒状になってるし赤と白のバランスも綺麗なんだ。でも透明感や赤色の深さはやっぱり新鮮な天然モノには勝てないし、何より風味に密度があるっていうのかな、何もつけなくても口の中にふわっと広がる香りだけで満足できる。
2016-03-05 14:42:24話し好きの女将から、この地に古くから伝わる人類の起源が海底の巨大なかにかまの木にあるという神話も聞くことができた。「まあ、ちょっとした神様みたいなもんさ」「食べちゃってますけど、神様」「あっはっは」「いいんですか」「おいしいでしょ」「美味しいですけど」なんというか、呑気な人だ。
2016-03-05 14:57:11「そうだね、世界はずっと前に滅んでしまって、本当の姿ってものは殆ど失われた。今じゃ海に魚はいないし空に小鳥もいやしない。だけどさ、人はどういう訳か海の中に魚を求めたがるし、獲れたての魚をありがたがる。だから、そう…かにかまを育て始めたことだって、きっと悪いことじゃないんだろうさ」
2016-03-05 14:54:04かつては蓬莱の珠の枝と称され、かのかぐや姫も所望したというかにかまも、今では庶民の食卓に上がるようになりました。かにかまは水温と圧力に非常に敏感で、漁獲量が安定しない希少な魚でしたが、1970年代、石川県と広島県で養殖第一号が成功したのをきっかけに、爆発的に全国に普及しました。
2016-03-05 14:57:49結局、変わったのは船の燃料だけだ。その昔、小惑星の岩盤をくりぬいて住み着いてまで水素を採掘していた時代。あのころから変わらない閉じた系の中で、あのころから変わらない培養液の中で、あのころから変わらないカニカマが出来上がっていく。味気ないとか文句を言いながら、人はカニカマを愛する。
2016-03-05 15:05:57古事記にも「天女の帯」として記述がある、全長20mにも達する遊泳性のかにかま、リュウグウノカニカマは現在餌となるプランクトンの減少や、幼生期の住処となる岩礁の破壊、そして乱獲によって絶滅危惧種に指定されています。
2016-03-05 15:07:29女将だけではない、この村は何もかもが時の波に沿って穏やかに流れている。かにかま保護条約の締結までに流れた汗と涙の跡も一見しただけでは見当たらない。けれど、女将に聞いた神話に記された言葉。『人はかにかま』、呪文のようなその一節だけは、私の中にいつまでも留まり続けるのであった。
2016-03-05 15:08:09天然かにかまの村にある小さな神社にはかにかまとよく似た色をした鳥居があるんだ。大昔にはかにかまの赤い部分を集めて塗料を作っていたそうだけど、既にその技術が失われた今は市販の塗料を使っているらしい。でもこの色を出すための独自配合が生まれるまでにまたひとつドラマがあったとかなんとか。
2016-03-05 15:40:56人はかにかまより生まれ かにかまは人に還る この海の中で―― 陸地の失われた水球の星、人は自らを海洋種族として作り替えて生き延びていた。設定寿命を迎えた人は、カニカマの木に抱かれて自らを資源化する。命に比してあまりに資源の少ないこの世界においては、人すら人に留まれないのだ。
2016-03-05 15:21:11県警国際組織犯罪取締本部は今日未明、港湾部に点在する違法カニカマ販売業者を一斉摘発、食品資源法違反、同幇助の疑いで中国人など22人を逮捕した。2ヵ月後に同市内で開催される国際水産資源調整会議に向けた取締りの一環で、捜査員120名体制で実施した。容疑者らは容疑を認めているという。
2016-03-05 15:23:02人間の環境破壊から最も深刻な影響を受けたのは遊泳性のかにかま達でした。遊泳性のかにかまは固着性のカマボイド幼生、プランクトンのハンペツラ幼生、徘徊性のチクオラリア幼生と変態を重ねます。成熟までに多様な環境を必要とする遊泳性のかにかまは、一つ環境が失われただけで滅びてしまうのです。
2016-03-05 15:50:22